リミットブレイク

ほんのり(?)ザッエア風味注意









「ザックス! 早く、早く、ったら!」
 エアリスは、常にないせわしなさで、彼を急かす。
 けれど、いつにない可愛い拗ねた顔で、早く、と拳を握って訴えられても、聞ける願いと聞けない願いというのがあるのだ──ザックスにも。
「たってなぁ〜……エアリス。」
 コリコリ、と頭を掻いて、ザックスは右手に持ったバスターソードを一瞥する。
 けれど、それを所在な下げにぶらぶら揺らすばかりで、ザックスはそれを決して目の前で両手を握り締めている娘に叩き込むことはなかった。
──たとえ、目の前のエアリスが、それを望んでいたとしても、だ。
「もーっ、何、やってるの、ザックス!
 早くしないと、クラウド、大変でしょ!」
 エアリスは、握り締めた拳で、パコパコとザックスの厚い胸板を叩く。
 当然、ザックスはそんなことで痛みを感じるはずもなく、ますます困った顔でコリコリと頬を掻くばかり。
「ザックスのバカっ!」
「いや、っていうかさー、エアリス。他に方法ないわけ?」
「リミット、溜めるの、これしかないでしょ!」
 覚悟は出来てるの、と、エアリスは両手を握り締めて、さぁっ、と目を閉じる。
 顔をあお向けて、少し青ざめて不安を宿す表情が、まるで初めてのキスをねだる娘のようで、ちょっぴり下心が浮かんできたザックスであったが、今はそんなときではない。
 何せ、二人が居るライフストリームの外──そこでは、今回の事件の最後の戦いが始まろうとしているのだ。
 俄然、やる気を出したエアリスだけではなく、その戦いに手を貸したくてしょうがないのは、ザックスも同じだ。
 どちらかというと、好戦的な性格のザックスとしては、自分こそあの中にこの剣を持って出て行って、振り回したいところなのだが──……。
「振り回すなら、私にして!」
 エアリスは、さぁ、早く! と、大きな瞳をパッチリと瞬き、彼を見上げる。
 その強い意志のひらめく瞳に、ザックスは、あーあ……と溜息を一つ零す。
「早く、ザックス! クラウドの戦いに、間に合わないよ!」
「うぅ──それじゃ、ちょっとだけだからな?」
 小さく呟いて、ザックスはバスターソードを持った手ではなく、違うほうの手で、エアリスの額をコツンと優しく叩いてみた。
 途端、エアリスは顔を後ろに軽く揺らして、キュ、と目を顰めた。
「いたっ。」
 小さく呟いたエアリスに、慌てたようにザックスは手を引っ込め、彼女の華奢な肩を掴むと、
「わりぃ、エアリス! 力の加減が出来てなかったかっ!?」
 あせってエアリスの顔を覗くと、彼女の白い額がかすかに赤く染まっていた。
 エアリスは、覗き込んでくるザックスを、ジロリと上目遣いに睨み──その目に、ジンワリと涙が浮かんでいて、ますますザックスは慌てるのだが。
「ザックス!」
 チョップ!!
 エアリスは、容赦なく右手で覗き込んできた彼の額にチョップをかますと、
「こんなのじゃ、ぜんぜん、リミット、たまらないじゃないの!」
 力の入れすぎではなく、力が足りなさ過ぎると、それで不満を訴えてくれる。
「大いなる福音には、たくさんリミットゲージ、溜めなくっちゃ、いけないの!
 だから、手、抓ったり、頬、引っ張ったり──じゃ、ぜんぜんたまらないって、言ったでしょ!」
「いや……だからって、いくらなんでもエアリス……こりゃ、俺の適任じゃねぇって、マジで。」
 バスターソードを所在なさげに揺らす元ソルジャーに、エアリスは眦をきつくさせる。
「それとも何、ザックス!? ザックスは、クラウド、心配じゃないの?」
「いや、ものすげー心配。星痕症候群って、アレだろ? ジェノバのせいだろ? それで行くと、クラウド、すっげぇジェノバ投与されてたしなぁ……。」
 うーん、としみじみと、まるでクスリを多量に摂取させてたみたいな口ぶりで呟くザックスも、あまりクラウドに時間はないのだろうと考えているようだった。
 そんな彼に、そう、とエアリスは大きく頷いて、ずずい、と自分の体をザックスに向けて差し出した。
「だったら、協力、して。
 さ、私に、攻撃して。」
 胸に手をあて、どんと来い、と身構えるエアリスに、ザックスは動きを止めて──……それから、ちょっと頑張って、指先で額にデコピンをしてみた。
 ぴこん、と軽い音がして、エアリスの額が後方に少しだけずれる。
「ザックス〜っ!!」
「いや、だってマジで、俺がエアリスを傷つけるなんて出来るわけないだろ〜!?」
「もう! ザックス、ソルジャーでしょ! 戦場じゃ、男も女も子供も関係ないって、言ってたじゃないの!」
「言ったよ、言いましたよ。でも、これは戦争じゃないだろ!?」
「わたしには、戦争なの!」
 もう! と、エアリスは片手を振り上げて、そのままゴツンとザックスの肩に拳をぶつけた。
 振り上げた仕草とかは可愛かったが、「チカン撃退にはこれよ!」と、ティファから直伝で教えてもらった拳は、見事に急所にヒットして、ザックスのリミットゲージがぐぐんとあがった。
──いやー、この分だと、俺のリミットゲージのが先に溜まりそう……って、俺のは溜まったらまずいんだってば。
「なぁ〜、エアリス、勘弁してくれって、ホント。
 なんかさぁ、ほかの方法、見つけようぜぇ?」
「そんなこと──……あ! 大変! カダージュ、箱、開けちゃう……っ!」
「って、ルーファウスが撃ちやがったから、とっくに箱は開いてたと思うんだけどなぁ……、ったぁく、下手も数撃ちゃ当たるんだから、撃つなっつぅの。ツォンも、あのお坊ちゃまに銃を渡すなっつぅの。」
「ザックス!」
 バンッ、と、エアリスがあせるようにザックスの肩を叩く。
 その仕草に、ザックスも瞳を細めて──ちっ、と短く舌打ちする。
「早く! ザックス!!」
 腕をつかまれて、叫ばれて。
 ザックスは、顔を軽く顰めた後、バスターソードを一瞥して──。
「エアリス、歯ぁ、くいしばれよ……っ。」
「うん!」
 受ける気満々で、エアリスはギュッと目を閉じる。
 そんな彼女に、「目じゃなくって、歯だよ、歯」と思いながら、ザックスは苦い色を刻ませて。
 それから、握った左拳と、右手に握られたバスターソードを一瞥した後。
 そ、と身をかがめた。
「。」
 一瞬の、沈黙。
 エアリスが、痛みではない温もりの感触に、驚いたように目を見開くと、目の前には精悍な面差しが、ぼやけそうに間近に──。
「────………………き……きゃぁぁぁっ!!!!!」
 ばっこーんっ!!!!!
 思いっきり、目の前に迫っていた顔を殴り飛ばし、エアリスは頬を真っ赤に染めて、殴った拳を唇に押し当てる。
「なっ、な、何、するの、ザックス……っ!」
「いたたた……エアリス……お前、格闘の才能あるんじゃねぇの?」
「わたし! 攻撃して、って、言ったよねっ!?」
 目元から耳元から赤く染めて、キッと睨まれても、色香が増すばかりでぜんぜん怖くないと、内心ニヤニヤ笑いながらも、ザックスは表面上はしれっと、
「いやだって、目の前で目を閉じられたら、据え膳食べちゃうのが男でしょ。」
 ごちそうさま、と。
 呟かれた瞬間、エアリスのリミットゲージは、目に見えて分かるほどフルゲージになった。
「……っ!」
 おっ、俺って、ちょっぴり天才?
 そんな風に、ザックスがニヤリと口元をゆがめるのと、エアリスが頭から湯気が噴出しそうな勢いで、リミットを解放させながら、ザックスを思いっきりアッパーカットするのが、ほぼ同時。






 元ミッドガルスラムの5番街跡地で、エアリスの大いなる福音がクラウドの星痕を癒し、彼らが最終決戦の場へと進む間、ザックスは、
「もう! 絶対、二度と、ザックスには、頼まない!!」
 プンっ、と顎を逸らすエアリスを、必死に拝み倒し、謝り倒していた──というのは、ちょっと情けない別の話である。














「──……ところでさ、エアリス。」
 星の上で生活しているクラウドとティファが、デンゼルを息子のように扱い、母親面と父親面をしているならば、星の下に居る俺たちの子供って──なんて可愛くないんだろうと思いながら、ザックスは胡坐を組んで銀髪の青年達を見やる。
 あそぼう、とうるさいロッズは、戦うことが遊ぶことだと思っているようだし。
 気付くとヤズーと兄弟げんかが勃発していて、父親代わりとしてはなかなか面倒くさいものである。
 俺、男の子よりも女の子が欲しかったなー、と思いながら、どこぞの誰かを思い出す容貌をグルリと見回し、ヤズーとカダージュ辺りなら、リボンつけたら女の子に見えるかな? 思念体って、女性体とかになれねぇのかね? つぅか、セフィロスの女版って、神羅時代には「これほどの美形、女だったら、絶対モノにすんのになー」とソルジャー仲間とバカ言ってたけど、実際そうなる機会に恵まれると、冗談でもヤだなー、って思えるから、人間の理性って不思議だよな。
「なぁに、ザックス?」
 最近、星の上に出ては、本物の花が順調に育つのを確認して、少しだけ星からおすそ分けを貰ってきては髪に挿して喜んでいるエアリスは、今日も今日とて上機嫌に花を揺らしながら、ザックスを振り返る。
 そんな彼女に、胡坐の上で頬杖を付きながら、
「星痕ってさー……大いなる福音で直るんだったら、普通にエスナかけても直ったんじゃないかな、と。」
「……………………──────。
 あはははは、やだ、ザックスったら!!」
「だよな、そーだよな、──んなわけないよなー?」
「レノの口真似なんて、ぜんぜん似てない!」
「──……って、エアリス?」
「あー、もう、ザックスったら、ほんと、おかしい。ふふふ。」
 クスクスクス、とエアリスは笑いながら、フラリと立ち上がり、そのまま時々思い出すように──いや、無理矢理引き止められないように、くすくすと笑いながら去っていった。
 残されたザックスはというと、
「図星……指しちゃったんじゃないのぉ? と・う・さ・ん。」
「母さんを泣かせたら、承知しないよ?」
 嫌がらせのように覗き込む、義理の息子の銀色の髪に、ちょっぴり脱力を覚えずにはいられなかったという。
 ──なんだよ、仲良し家族かよ……。







「──まぁ、キス1回、返せとか怒鳴られるよりは……マシ、か、…………なぁ?」








 呟いてみた声に、答える声はなかった。











+++ BACK +++




誰もが考えるだろうネタ。

ティファもクラウドもリミット技が映像中に出てきたので、きっとアレはエアリスの大いなる福音だったのだと。
──誰もが思うよね!?(笑)
なんか、ザッエア風味になったのは、自分でも予想外。
思ったよりも好きらしいですよ、ザッエア。

どちらかというと、「クラウドを大事に見守ろうの会」に参加している感じのザッエアでお願いします。(ワケわからん・笑)