手にした電磁棒をクルンとまわして、レノはソレで自分の肩を叩いた。
「まーったく、世話を焼かせてくれるじゃねぇか、と。」
言いながら、随分久しぶりに踏み込む教会をグルリと見回し──風上から香る花の匂いに、ふ、と目をゆがめた。
「…………レノ。」
呼びかけたルードが、入り口の左右に広がる椅子が砕けているのを見下ろし、表情を硬くする。
その声に、あぁ、とレノは頷いて、足早に突き当たりへ──元は祭壇があっただろう場所へと向かった。
少し前に覗きに来た時には、孤児が数人と、クラウドの荷物が放り出されていた。
孤児たちは、手や足に包帯を巻いていて、星痕をもっていることが一目で分かった。それでも彼らは顔に笑みを浮かべて、手にジョウロを持ち、花を──あの娘の笑顔を思い出させる小さな花畑に、水を撒いていた。
足を進めながら視線をグルリと見回せば、乱れた椅子に、たたきつけられたような木くず。そして、前回来た時にはあった、マテリアの入った宝箱が一つ、なくなっているのに気付いた。
「──……やつら、ここに来た後かな、と。」
おそらくそうだろうと検討をつけながら、レノは小さく舌打をする。
クラウドと別れた後、すぐにやってきたあの銀色の髪の青年。
社長がうまくはぐらかしてくれたおかげで、彼はすぐに「箱」を探すために外に出ては行ったけれど──社長は捕らえられたまま。
「カードが少ないな、と。」
手持ちの手札が少なすぎちゃ、賭けにも乗れやしない。
そう小さく呟きながら、同時にレノは、だから忠告しただろ、と小さな舌打を覚えずには居られなかった。
それとも何だ? クラウドは、自分たちが思っているほどに、情報を手に入れていないということか?
教会のつきあたりに咲き誇る花の横手を歩き去ろうとした瞬間──乱れた花畑の中に、うずもれるような人影に気付いて、はっ、と足を止めた。
「──ティファ、クラウド……っ。」
驚いたように声をあげたのはルードだ。
ぐったりと横たわる二人に、おいおい、とレノは前髪をぴんと跳ね上げて、慌てて駆け寄った。
二人は、お互いにすれ違うように倒れ、その目を硬く瞑っている。
「おいおい、まさかクラウドのヤツ、やられちまったんじゃねぇだろうな、と。
俺は、お前を頼みにしてるんだぞ、と。」
クラウドの左肩を掴んであお向けると、とたんに、どろり、とした液体が草の上に落ちた。
それを認めて、レノは軽く眉を顰める。
ルードはルードで、ぐったりとして血の気のないティファの肩を、そろり、と持ち上げて覗き込んでいる。
レノは、乱暴な仕草でクラウドの頬を、ピタピタと叩く。
「おい、クラウド、何があったんだぞ、と。」
「ティファ……。」
けれど、何があったのか、二人は小さくうめき声は漏らすものの、一向に気付くそぶりはない。
レノは鼻の頭に皺を寄せると、ルードを無言で見上げた。
ルードもまた、レノを見下ろす。
──ティファとクラウドが少し前まで一緒に暮らしていた場所は、二人とも知っている。
電話番号も知っているが──何せつい先日、レノはクラウドに社長のボディーガードを頼もうと、電話をかけたばかりだ。
けれど、電話をしたとしても、誰かが出るとは限らない。
そしてココは、旧ミッドガルスラム5番街のハズレ。──当然、この近辺に誰かが住んでいるはずもない。
何せミッドガルは、あの「メテオ」のせいで、陥没し、ほとんどが機能していないから……、ミッドガルの周囲に出来た「エッジ」に町を作って住んでいる現状だ。
その、エッジまで、ここからの距離は──……。
それを瞬時に計算した二人は、とっさに互いの意図を悟り、右手をバッと掲げあう。
「じゃーんけーん……。」
拳を二度三度ひらめかせ、一瞬後、互いにそれを目の前に繰り出す。
「ぽんっ!!!」
グーとチョキ。
出た二つの目に、にんまり、と笑ったのは──レノだった。
くっ、と、ルードが悔しげにうなるが、レノはそれをフフンと鼻先で笑って、力をなくしたクラウドの体をそのままに、ゆっくりと立ち上がると、ティファの傍にしゃがみこんだ。
そして、気を失って力のないティファの白い首筋と、柔らかな足の裏に手を差し込むと、
「いよっ、と。」
軽々とその体を持ち上げる。
ルードは、ジットリとその様子を見上げた後、自分はクラウドの体を見下ろし──しぶしぶ、己の背中に、クラウドの体を乗せて立ち上がった。
旧ミッドガル街に行くには、途中でバイクや車を乗り捨てなければいけない。
舗装された道路が、途中までしかないからだ。
車でこれるギリギリの位置に駐車した車の元へ、ティファとクラウドを抱えながら奮闘した後、レノとルードの二人は、エッジにあるセブンスヘブンへと向かった。
そこで第一の関門。
セブンスヘブンには、当然だがカギが掛かっていた。
ドアを叩いても叩いても、マリンという娘も、デンゼルという少年も出てきてはくれない。
いっそ、このまま車の中でこの二人が目覚めるのを待とうかと思ったが、ルードがそれに断固として反対してくれた。
「まったく、フェミニストな相棒を持つと、面倒だぜ、と。」
そんなことを呟きつつ、レノは鍵を使うしかないという結論に達したが。
問題が、一つ。
目の前には、後部シートに治まったクラウドとティファの気を失った姿。
クラウドは、あの旧スラムの教会で寝起きをしているから、セブンスヘブンの扉の鍵を持っているとは思えない。
ということは、ティファがもっている、のだろうけど。
「──……さぁって、どこに鍵を入れてあるのかな〜、と。」
思わず、車のドアを開いた状態で、シートに体を埋めるティファの体を前に、手をワキワキさせてみた。
「れ、レノ……っ。」
あせったルードが、後ろから羽交い絞めにしてくるが、それにレノは足をばたつかせつつ、
「バカやろっ、離せ、ルード! カギがねぇと、開けられねぇだろうがよ、と!」
「け、けど、ティファを──そんな……。」
浅黒い肌を、ぽ、と赤く染めるルードに、レノは小さく溜息を零しつつ──お前、まだこの娘のこと諦めてなかったのかよ、と。
「けど、カギはいるだろ、と?」
「うぅ……っ。」
二人揃って、閉められたままのセブンスヘブンの扉と、車の中で眠るティファの体を見下ろす。
端正な面差しは、今は目を閉じられていて意志の強いあの瞳を見ることは出来ない。
白い肌、細い……折れそうに細い首筋。
あの頃よりも短くなった黒い髪が、サラサラとむき出しの肩に零れている。
何度か戦ったことのあるティファの強さは、レノもルードも良く分かっている。
今見ているその細い二の腕で、力を入れたらポキリと折れそうに見える細い手首で。
シートに座っているため、立っているときよりも短く感じるパンツの裾から伸びる形良い足に、何度泣かされたことだろう。
はっきり言って、彼女が寝返りを打つついでに肘鉄なんぞかましてくれたら、レノもルードも、内臓くらいは破裂するかもしれない──彼女は、そういう相手だ。
けれど、それを考えても尚、目の前で無防備に眠る娘は魅力的だった。
横になっていても高く盛り上がった胸。そこへ続く鎖骨。
黒いノースリーブの上着の下には、白いタンクトップを着ているらしい。
その裾から、細い腰と小さなヘソがチラリと覗く……このチラリズムがまた、手をワキワキしたくなる。
「それじゃ、ティファちゃーん、ちょっと失礼するぞ、と。」
車の中に上半身を突っ込んで、変なことはしないからな、と。と、ことさら意識するように呟きながら、レノは彼女の服を上から下まで眺めた。
ポケットらしいものは無いかと見ながら──やっぱり、パンツにポケットがないか、太股を上からなぞるしかないかな、と、……ちょっぴりにやける頬を無理矢理引き締めるように努力だけはしながら、手を腰の辺りに落とした途端。
レノは、気付かなくてもいいものに気付いてしまった。
「それ」は、ティファの腰の下──ヒラリと翻る長い裾の近くに、隠れるようにつけられた、ウェストポーチだった。
「────………………。」
思わず、レノはガックリと肩を落す。
ちょっぴり、その存在に気付かないフリをしようと思ったが、なんだかんだ言ってそういうずるいことは出来ないレノは、なるべくティファに触れないように気を使いながら、ウェストポーチを外して、車の外でハラハラしているルードに向かってをそれを投げつけた。
「男とは違って、基本的に女って言うのは、こういうカバンとかに、絶対鍵を入れてるんだよな、と。」
どこか寂しそうに呟くレノの言葉どおり、ルードはすぐにウェストポーチの中から鍵を見つけ出して、嬉しそうに笑ってくれたので──思わずレノは、そんな彼の足を、ごつん、と八つ当たり気味に蹴飛ばしてみるのであった。
セブンスヘブンに入った後も、クラウドとティファをどっちのベッドに寝かせるか、寝かした後の二人の服を脱がすかどうかで、また一悶着や二悶着を起こした──というのは、また別の話である。
+++ BACK +++
こういうネタ、大好きです☆ミ(うふv)
本当に書きたかったのは、クラウドとティファをベッドに横たえて、「やっぱり、寝てるのに窮屈な服を着てちゃダメだよな、と」と、レノが親切心で上着を脱がしてやろうとする話だったんです。
でも、クラウドの上着がない……──。えーっと……あのヒレ取って、星痕の後をレノに見せてみる? でもってレノが、「キャッ、とんでもないもの見ちゃった〜、と。」とかお茶らけてみて顔を隠してみる? ──とか?
まぁ、冗談は置いておいて、ティファの上着くらいは窮屈そうだから(胸が)、脱がしてあげても親切じゃないかなー、って思ってたので、レノとルードがそれを脱がそうとして、ティファが「ん……」とか言うたびに、びくぅっ、として(何せ見つかったら怖いですよ、ティファですから。リミットブレイクなんて全技出ますから)、慌ててお互いの顔とか頭とかポカポカ叩いてごまかすの(笑)。
でもこういうノリのは、漫画で書いたほうが楽しいですよね! ──ってことで、書くのは止めてみました。
誰でも思い浮かぶようなネタなので、誰かがきっとそのうち、漫画にしてくれるでしょう。
BLっぽくするなら、ここでルードとレノがクラウドをどっちが背負うかで競争することになったり、車の中で鍵をクラウドが持ってないとわかってるのに、クラウドの服を探ろうとしたりするんだと思います。(そんなネタまで振らなくてもよろしい)。
でもね、クラ総受けも別に好きなんですが、複雑なことに、クラ総受け+ティファ総受け好きなんで、ティファが横に居るのに、ティファが無視されるのは我慢ができないんです──……っ!!(アホ)