オマケ 的 愉快な 仲間たち

「ピクニックへ行こう」4












 夕刻まであと少し。
 そんな中、草原の一角にピクニックシートを広げた一団が居た。
 背後に巨大な飛空挺を構えたシートの上は、先ほどまで食べきれるのだろうかと不安に思うほど盛られたクッキーが、跡形もなくなくなっている。
 クラウドが躊躇していたアップルパイですら、彼が手ずから食べさせるということで、【ジェノバ】たちの胃袋に消えていった。その光景を見て、「親チョコボが子チョコボにえさやってるみてぇっ!!」と大爆笑した元ソルジャーは、その「親チョコボ」の一撃によって、地面から首を生やした状態で埋められている。
 やろうと思えば自力で抜け出すことくらい容易いはずだが、それはそれで気に入ったらしく、彼はそのまま地熱を楽しんでいるようである。
 そんなザックスを前に、エアリスが自分のロッドをクルリと回しながら、「スイカ割り大会って、やってみたかったのよね。」とか不穏なことを、ユフィとティファ相手に呟いていたりするが──これも愛嬌のうちである。
 そこから少し離れた場所では、子供たちの手前、おおっぴらにタバコを吸えないシドが、ぷっかー、と幸せそうに煙を吐いていた。彼の足元では、レッドXIIIが尻尾をパタンパタンと揺らして、オヤツの後の短い午睡の最中だ。
──そんな、とてもホノボノとした雰囲気の中。
「おい、お前等。」
 銀色の美しい髪をなびかせる男は、1人、威圧感をかもし出して、ピクニックシートの上に座る面々を見下ろした。
 あまりの長身のため、普通に立っているだけでも威圧感はありすぎて困るくらいだと言うのに、座っている相手に、目を眇めるようにした見下ろす光景は、幼い子供なら確実に大泣きするくらいの迫力があった。
 思わずバレットは、マリンとデンゼルの体を、セフィロスとは違う方向に反転させてみた。
 そして、そんなセフィロスに居丈高に言われたほうはというと。
「……カダージュとヤズーとロッズだ、セフィロス。」
 堂々と胡坐をかいて腕を組み、ぞんざいな態度でチラリとバンダナから漏れでる前髪の合間から、キロリと彼を睨み挙げる。
 どこかやつれた感のある目元で睨まれたその一瞥もまた、子供の情操教育には悪い感じで、バレットはますますマリンとデンゼルの体を隠す。
 ──ああ見えて、ヴィンセントがマリンをとてもかわいがってくれるのは分かってる、分かってるが、けどよ。
 あの目つきが似たら、マリンが嫁に行けなくなるじゃねぇか!! ……過去、バレットは右手の義肢を振り回して、子供のように叫んだことがある。きっと今回のコレも、それと同じことだろう。
 見た目にそぐわない几帳面さを有するヴィンセント・ヴァレンタインのセリフを、セフィロスはキレイさっぱり聞き流して、剣呑な雰囲気のまま、
「聞いていれば先ほどから、兄さん兄さんと、クラウドをなんだと思ってるんだ。」
 ギロリと、自分と似た面差しの青年を順番にねめつけた。
 その目に篭る殺気に、彼らは毛を逆立てた猫のように、全身で拒絶を示して睨み返す。
 ──特にカダージュの反応が激しいのは、きっと、一度とは言え、その身をセフィロスに支配されたことがトラウマになっているからに違いない。
「だから兄貴じゃねぇの?」
 セフィロスの答えを求めない問いかけに──威圧感と苛立ちしか見出せないその言葉に、速攻で反応したのは、少し離れたところで生き埋め中のザックスであった。
 彼の数メートル前には、なぜか目隠しをしたユフィが、エアリスのロッドを両手で持って立っている。……どうやら、エアリスの「スイカ割りがしたいのv」提案は、受諾されたようである。危うし、ザックス! ──という展開にも関わらず、
「クラウドは、クラウドよ、ね? ザックス?」
「だよなー?」
 エアリスもザックスも、暢気に首を傾げあって微笑みあう。
 そんなホノボノした雰囲気を撒き散らすエアリスの横手で、ユフィの肩に手をかけたティファが──こちらも首を傾げながら、軽い手首のスナップで、ユフィにスピンをかけながら、
「うーん……セフィロスの言いたいのって、そういうことじゃないんじゃないかなぁ?」
「うぉわぁぁぁーっ! てぃてぃ、ティファ……っ、あたい、酔うよ……っ!!!」
 視界が1秒間で2回転くらいしてしまいそうな速度で回るユフィが、ろれつの回らない声で悲鳴をあげるが、ティファは憤然と立つセフィロスに視線をやっているので、気づいてくれない。
「だって、クラウドのお母さんはジェノバじゃないもの。
 貴方達は、あのジェノバがお母さんなんでしょう? クラウドのお母さんは、おば様であって、ジェノバじゃないわ。」
 言いたいこと、伝わってる? と、少し不安そうにエアリスを見上げると、彼女は、コクリとティファに頷き返してくれた。
「そっか、そだよね。
 お兄さんじゃなくって、小兄さん、だ。」
「もしくはお義兄さんだな。」
 うんうん、と頷くエアリスに、ヴィンセントが重々しく同意を示してくれる。
 そうしながら、
「ところでティファ、ユフィの乗り物酔い克服の特訓はいいが、もう少し段階を踏んだほうがいいのではないか?」
 ユフィのを指差し、そう提案してみた。
 とたん、ティファは慌てて手を離して、回りすぎてどこにあるか分からないユフィの肩を過たず掴むと、
「きゃーっ! ユフィ、ごめんなさいっ!」
「ケアルとエスナ、どっちが、いいかな!?」
 グッタリ、とティファに簡単に身体を預けるユフィに、エアリスも慌てて駆け寄る。
 そんな楽しげな悲鳴をあげる娘達が、地面にしゃがみこんで、ユフィの介抱をしているのを横目に、「スイカ君」になることが少しだけ間延びしたザックスが、能天気に、うーん、と顎を地面に押し付けて感心した。
「うーん、なるほど、奥が深いなぁ……。」
 一体、ソレのどこに奥の深さがあるのだと、黙って聞いていたクラウドが小さく溜息を漏らした瞬間、
「──……だが、良く考えてみたら、カダージュたちは、セフィロスの幼虫だろう?」
 ヴィンセントが、ふと思いついたように、目をあげて──睨み下すセフィロスと、静かに視線をかみ合わせる。
 頼むから、黙ってくれと、クラウドが彼の肩を抑えるよりも早く、
「えっ、幼虫なの!!?」
 バレットに抱き上げられていたマリンが、悲鳴にも似た声で叫んだ。
 その顔に走る嫌悪の色が、自分に向けられていることを感知したロッズが、うぅ……と目を潤ませると、それを狙ったかのようにすかさず、楽しげにヤズーが、呟く。
「泣くなよ、ロッズ。」
「うぅ……。」
 幼虫扱いに涙する二歳児たちに、ザックスは同情たっぷりの眼差しを向けて──ちなみにこの時、エアリスのエスナによって回復したユフィが、再びロッドを手にして立ち上がったため、どちらかというとこの場で一番同情したい相手は彼自身であったが、そのことにザックスはまだ気づいていない。
「羽化するとセフィロスになるんだな、お前等……。」
 うーん、としみじみと首を振るザックスが、かわいそうに、と小さく続けた途端、
「羽化って……背中、割れちゃうの?」
 純粋そうな眼差しで、パッチリとエアリスが瞳を瞬く。
 そんな彼女の純朴な一言に、思わず一同は、三人の背中が割れて、そこからセフィロスが飛び出てくるのを想像してしまった。
 ぞー、と、背筋を這い上がる悪寒に、一番正直にユフィが反応する。
「ぅわっ、エイリアンじゃーん、きもちわるーい!」
 確かに気持ち悪い。
 コクコク、と顔色悪く同意する面々の中には、エアリスの姿もあった。
 彼女も、自分で言ってみたものの、想像してみたら、あまりの気色悪さに、先ほど食べたおやつを戻しそうになっていたのである。
「──……ほぉ……エアリス? つまり何か?
 こいつらは、俺の兄弟ではなく、俺の子だと──そういうつもりか?」
 魔晄の瞳が、かすかな苛立ちと凶暴な色を宿す。
 そんな彼の視線を受けて、うっぷ、と口元に手を当てたエアリスは、顔色も悪く、パタパタと手を振る。
「違うよ。セフィロスの幼虫って、言ったのは、ヴィンセントよ。」
「そんなことはどうでもいい。」
 チャキン、と親指が正宗の鍔にかかったのに気付いて、エアリスはコソコソとティファの背中に隠れる。
 その結果、セフィロスの視線にさらされて、ティファが、肩越しにエアリスを振り返るが、エアリスはティファの背に自分の背をあわせる形で、形良い手の平に顔を埋めて、いやいやをするようにかぶりを振った。
 今、地面に首まで埋まっている男なら、その可愛らしい仕草にうっかり、「エアリスは俺が守る!」と言って、正宗を抜き身にしたセフィロス相手にバスターソードくらい抜いてくれそうな勢いである。
 ──だが、残念ながらそのエアリスの仕草を見たのはティファである。彼女は、肩越しに振り返ったまま、ちょっと目を据わらせて、つんつん、と彼女のつむじをつついた。
 そんなエアリスとティファの様子を、地面に生えた状態で見ていたザックスは、少し首をかしげた後、セフィロスの気をこちらに惹くことにした。
「旦那……あんた、何時の間に、こんな大きな子供を三人も……。」
 作戦通り、セフィロスは顔を俯けて、うっ、と低く呟きを零す。
 その途端、セフィロスの鋭い眼差しが自分に注がれるのを見て、うぅ……とザックスは低く呻いた。
 何せ、彼はクッと唇を歪めて笑みを刻み込むと、チャキンと正宗を抜き身状態にして、砂地の上のスイカ状態のザックスめがけてその先を示し、
「……ザックス──……、普段から空っぽだと思っていたが、実際に確認できるときがあるとは思わなかったぞ。」
「いやっ、あんた、何する気なんですか!」
「これはスイカ割りだろう? くっくっくっ。」
「ぅわ〜! 悪役の親玉さながらに笑うなーっ!!!」
 ひぃぃっ! と、エアリスに助けを出したばっかりに、なんでこんなことに! と小さく悲鳴を上げて、目の前で振り上げたセフィロスの刃を、真っ青になって見上げる。
「って、エアリス! エアリスちゃーんっ、ちょっと、旦那を止めてくれ……っ!」
 できれば、さっさとライフストリームに返してくれっ!
 悲鳴に近い声をあげて、ザックスは地面の中で拳を握りながら──自分が地面から飛び出すよりも、セフィロスが刃を振り下ろすほうが早い。
 慌ててエアリスのほうへと視線を向けるが──だがしかし、当のエアリスはというと、ティファの後ろから出てきて、
「でも、三つ子ちゃんかぁ……みんな、お父さん似、なんだね。」
 クラウドの横に座っているカダージュの前に立ち、腰を屈めるようにして、カダージュの両頬を両手で包み込んでいた。
 ニッコリ、とあでやかに笑って、彼女は母が息子にするような仕草で、カダージュの瞳を覗き込む。
 驚いたカダージュが、とっさにエアリスのその手を払おうとして、手をあげかける、が──その手の優しさに、ためらうように動きを止めて、すとん、と手の平を下に落した。
「でも、セフィロスがお父さん、ってことは──……。」
 顎に手を当てて、エアリスはザックスに向けて正宗を振り下ろしたセフィロスを振り返った。
 見やった先では、セフィロスは地面に生えた男の耳元を掠めさせて、ザックリと地面に刃を突き刺して、不敵に笑っている。
 彼は腰を軽く折り曲げて、蒼白のザックスを見下ろすと、
「ザックス──次はないと思え?」
「いや、だから失言は俺じゃなくってさ……。」
 説明しかけたものの、凶悪な光を宿すセフィロスの視線に、それ以上何かを言うのは諦めた。
 地面から出ているならイザ知れず、地面の中でセフィロスの相手をするのは、ちょっと面倒臭かったせいでもある。
 ったく、しょうがないなぁ、とザックスは苦い笑みを刻んで──まぁ、これでセフィロスの意識が、さっきの失言から遠ざかってくれればいいんだが、と、ザックスはゆっくりと地面から抜け出ようとしたところで。
「セフィロスのお母さんって、ジェノバなんだろ?
 ってことは、ジェノバって、あんたらの母親じゃなくって、おばあちゃんじゃん。」
 目隠しを上へとずらして、大きな目をパッチリと瞬かせながら、ユフィがロッズを見上げる。
 無言で涙を手の甲で拭っていたロッズは、そんなユフィの台詞にチラリと視線を落し──それから、愕然としたように目を見開いた。
「お、おばあさん──……っ!? そうなのか、カダージュっ!? 母さんというのは、嘘だったのか!?」
「落ち着け、ロッズ。そんなはずはないだろう。
 なぁ、兄さん? 俺たちの母さんは、ジェノバだよねぇ?」
 カダージュは、涼しい顔で紙コップに入ったコーヒーを啜り──その苦い色と味に、ひどく難しい顔になった。
 そして、クラウドに話しかけると同時に、ねぇ? と小首を傾げつつ、紙コップを差し出す。
「………………俺の母親は、普通の人間だが。」
 ──あえて言うなら、セフィロスだって、「生みの母親」は、普通の人間だ。
 もっとも、実の父親は、普通とは違う人間風味の物体だが。
 クラウドは、疲れたように呟いて、無言でカダージュの差し出した紙コップにミルクと砂糖を入れてやる。
 そんなクラウドの様子を見て、エアリスが、あっ、とひらめくように笑った。
「そっか、そうだよ、カダージュ。」
 そして彼女は、ぱふりと手を鳴らして。
「クラウド、カダージュたちのおにいさんじゃなくって、お母さんなんだよ。」
「────……て、エアリスっ!!?」
 あまりに当たり前のように、ニッコリと微笑んで言ってくれるものだから、さすがに誰もが驚いて、ギョッとしたように眼を見開いて彼女を振り返る。
 何を言うのだと言う視線──けれど、その中の四つの視線だけは、違う色を持っていた。
 その視線だけは、新たな世界の幕開けへの期待を、たくさん含んでいた。
「何を言うんだ、エアリス!」
 一番反応したのは、当然クラウドである。
 けれどエアリスは、クラウドの叫びにも、変わらない微笑を向けるばかりで、
「だって、クラウド? 私、カダージュにも、クラウドにも、『おかあさん』なんて呼ばれて。
 この年で、また、お母さん扱いされるなんて、イヤ、なの。
 だから、お母さん、って呼ばれる前に、先手、打たないと、……ね?」
 有無を言わせない口調で、ん? と首を傾げてくれた。
「……エアリス……あんたな………………。」
 ガクリ、とクラウドが肩を落した瞬間、クラウドの片腕に、どぉんっ、と何かがぶつかった。
──いや、何かじゃない。
「母さんっ!」
 それは、思念体のくせに、熱も体積ももっていた。
 思わずぐらりとかしいだクラウドの反対側の腕に、右手に紙コップを持ったカダージュの手が、添えられる。
「母さん……なの?」
「…………母さん。」
 そのカダージュの頭の上から、ロッズがなみだ目でクラウドを見下ろしてくる。
 っていうか、
「いや、ちょっと待て、なんでお前等、そんなに適応力があるんだ!」
 油断していたら、背中からロッズに抱きこまれて、頭の上に頬ずりまでしてくれる。
 母さん……会いたかったよ、とか三方から囁かれて、クラウドは思いっきり拳を握りしめ──それを彼ら三人に無理矢理叩き込みたくなった。
 そんなクラウドの行動に気付いてか気付かないでか、クルリとロッドを回したユフィが、それを手裏剣でやるように背中にあてながら、あっけらかんと言い放った。
「幼虫だからじゃなーい?」
「成虫よりも幼虫のほうが、適応力あるって言うしなぁ。」
 ぷかぁ、とタバコの白い煙を吐き出しながら、シドがニヤニヤ笑ってくれる。
 シドに寄り添うように立ったレッドXIIIが、ちょっぴりクラウドに同情的な視線を寄越してくれたが、それでクラウドの平穏が訪れるわけでもない。
「それにしてもクラウドったら、一行によりついてくれないと思ったら、いつのまにこんなに大きな三つ子まで……。」
「ティファ! 違うっ、そんなんじゃない!」
 首を傾げるティファの口元が、楽しげに笑っているのを認めて、クラウドは首に回ったロッズの腕を引き剥がそうとするが、力を込めようとする先から、
「良かったね、クラウド! あの教会で、親子5人、仲良く暮らして、ね?
 私も、ときどき、様子、見にくるね!」
 あからさまに楽しげなエアリスが、ひょい、とクラウドの顔を覗きこんで気力が抜けるようなことを言ってくれるので、ロッズが頬刷りするのを止めることは出来なかった。
 気付けば、あぐらを組んだ膝の上に、ノンビリとカダージュが頭を乗せて、行儀悪くコーヒーを啜り始めるわ──、
「あ、俺も俺も〜! なんか手土産もって行くからな! 夕飯よろしく!」
 ようやく地面から上半身を掻き出したザックスが、すちゃ、と手を上げて笑えば、ティファがその彼へと笑顔を向けて、クラウドの変わりに、うん、と大きく頷いて見せた。
「それじゃ、エアリスもザックスも、ぜひその時は、セブンスヘブンにも寄ってね!」
 それから彼女は、くるんと踵を返して、改めてクラウドとその回りに溜まる野郎どもを一瞥して、腰に手を当てて苦い笑みを刻み込む。
「うーん、それにしても、三人ともセフィロスにソックリなんだもんなぁ〜……せめて母親似だったら、私も1人くらい……いやいや。」
 あははは、と苦い色で言葉をかみ殺すティファに、エアリスも腕を組みながら、うんうん、と頷く。
「そうねー、母親似だったら、私と、ティファと、1人ずつくらい、分けれるのに、ね。」
 イタズラめいた笑みでティファに同意すれば、すぐさま近くから、ユフィの批難がとんだ。
「ずるーい、2人とも! 私にも分けてよぅ。」
 そんなユフィに、二人は揃って視線を向けた後──視線を合わせて含みのある笑みを浮かべると、声を合わせて断言してくれた。

「「母親似だったらね。」」

「いや……だからなんで俺が母親なんだ……っ。」
 クラウドが、今度こそコレだけは言い切らないとと、少し声を荒げるが──しかし。
「母さん……、どうしてもっと早く、兄さんは母さんだったんだって、教えてくれなかったんだよ……。」
 クラウドのクセのある金髪に頬刷りをしていたロッズが、低く呟いて、ぐっ、と腕に力を込めてくれたため──最後まで言い切れなかった。
「そうだよ、そしたら、攻撃なんてしなかったのに……。」
 ぎゅぅ、と腰に抱きついたヤズーの腕にも力が入り、クラウドは必死でロッズの腕を引き剥がそうとするが、なかなかうまく行かない。
「でも、それならセフィロス……いや、父さんも攻撃していたようだが……。」
 カダージュが、のっとられたあの時の衝撃を思い返し、ブルリと体を震わせて、忌々しげに小さく呟く。
 どうやらこの家族は、長男が父親に対して反抗期のようである。
──そろいもそろって父親似でマザコンか、と、シドが心の中で呟いたことは、誰も知りえないことである。
 ティファは、クラウドにしがみついているようにしか見えないロッズたちに、小さく溜息を零すと、カツカツと彼らの背後に回り、問答無用でロッズの後ろ襟首を掴むと、
「ああ、あれはね、痴話げんかよ、痴話げんか。」
 軽い口調でカダージュの疑問に答えながら、グイ、とクラウドからロッズを引き剥がしてやる。
 クラウドが必死で抵抗したにも関わらず、なかなか外れなかったロッズを、軽々と背後に引きずり落す辺り、さすがである。
「ったく、いっつも色々巻き込んでくれるから、たまんねぇよな〜。で、結局喧嘩両成敗なんだよ、あいつら。」
 穴からはいずり出たザックスが、体についた土をパンパンと軽くはたきながら、シニカルに笑ってみせる。
 その目の前で、セフィロスは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、特に何か言うつもりもないのか、素直に正宗を鞘に収めるだけで、行動に移すことはなかった。
 変わりに彼は、ロッズから解放されて、肩を落すクラウドに一瞥をくれると、薄い唇に笑みを乗せて。
「安心しろ、クラウド。思念体とはいえ、俺はいつでもお前が呼べば現れるだろう。」
「──……いや、何の安心をするんだよ。」
 陶然とした見とれるばかりのセフィロスの笑顔に、クラウドはゾゾッと背筋を駆け上がる悪寒に、身を震わせた。
 ──途端、
「──っと、あら、そろそろ帰らないとダメね。」
 ロッズの体を背後に放り投げたティファが、ふと顔をあげて、西の空に薄く色づいた茜色に目を細めた。
 彼女の言葉に、それぞれが視線を上げて──あぁ、と感慨深げに呟く。
「ほんと。それじゃ、私もそろそろ、帰ろうかな。」
 首を傾げるエアリスに、ザックスが笑って近づいて、そうだな、と頷いた。
「また飲みにいったらよろしくなー、ティファちゃん。」
 ヒラヒラと手を振るエアリスに、ユフィが手にしていたロッドを返しながら、ジロリ、とザックスを睨んで、
「ザックス! 今度会った時に、スイカ割りの再戦だかんね!」
「……ってオイオイ、マジで俺でスイカ割りする気かよ……。」
「はいはい、今度は、ちゃんとスイカも用意しておきます。」
 小さく笑って、ティファが呟いた後、エアリスとザックスは隣にたって、仲間達をグルリと見回す。
「じゃ、また、ね!」
「明日な〜。」
 ヒラヒラ、と手を振る二人の姿が、茜色を宿す西日に滲んで──その周りを、ふわん、と青く輝く光が揺れるように流れた。
「明日かよ。」
 呆れたようにバレットが突っ込むその肩の上で、マリンがブンブンと大きく手を振った。
 エアリスは少し上半身を傾けるようにして、またね、と唇の動きだけで言葉を零して──……スゥ、と、空気に溶けるように、二人の姿は消えてしまう。
 初めて見たときは、その光景にひどく不安を覚えたものだけど……今は、そうでもない。
 完全に消えて見えなくなった二人を見送ってすぐ、ユフィは地面に転がしてあった手裏剣を取り上げると、
「あーあ、またシエラ号か〜。」
「スリプルでもかけておくか?」
 絶対、酔う。
 そう目を据わらせるユフィに、ヴィンセントが視線とともに尋ねてくるが、ユフィはフルフルとかぶりを振った。
「よっしゃ、んじゃま、シエラ号を動かすから、おめえら、手伝え、手伝えっ!」
 シドが腕をブンブン回しながら、咥えたタバコをもみ消す。
 怒鳴りながら蹴りつける仕草をする面々の中に、クラウドは付け足されていない。
──というか、クラウドは、起き上がろうにも起き上がれない状態だ。
 ティファがロッズを引き剥がしてくれたものの、腕と腰にヤズーとカダージュが張り付いているのだ。
「クラウド! 家族水入らずで過ごしてね。」
 そのクラウドの肩を、ぽん、とティファが叩いて、彼女はユフィと連れだって身軽にシエラ号に駆け込んでいく。
 そんなティファの後ろ姿を、デンゼルはパチパチと目を瞬いて見て──それから、戸惑ったようにクラウドの後ろ姿を見るが、後から歩いてきたバレットに、ぽん、と背中を叩かれて、
「ほれ、クラウドは家族水入らずで過ごすらしいから、俺らは先に帰るぞ〜。」
「クラウド、また明日ね。」
 マリンがバレットの肩の上から、頭に乗せられた花冠を片手で支えながら笑って手を振ってくれる。
「って、おい、バレット! 俺も帰るに決まってるだろう……っ!」
 慌ててクラウドは、抱えた面々を振り落としてでも立ち上がろうとするものの、あげた顔先に落ちる影に──一瞬、動きを止めた。
 目線をあげた先で──先ほどライフストリームに戻ったザックスと話していた男が、嫣然とした面持ちで立っていた。
 見上げた瞬間、クラウドを見下ろすセフィロスの瞳が、ふ、と柔らいだ気がして、クラウドは小さく目を見張った。
 その──二人の間に走った一瞬の沈黙を代弁するように、シエラ号の梯子を上りながら笑う仲間達の笑い声が、風に乗って響き渡った。
「ほんっと、ただでは思い出にならない人よね、セフィロスって〜。」
「駄々漏れだよな、ありゃ。」
「馬に蹴られたくなけば、さっさとあがれ、シド。」
 その、言葉の示す方向を、瞬時に悟って──クラウドは、白い肌を羞恥に赤く染めて、反論しようとシエラ号を振り返りかける……、が。
 その頬を、セフィロスの手で挟まれ……固定されて。




…………────っ!!!!!




 耳元で、先ほど消えた娘の軽やかで楽しげな笑い声が聞えたような、気がした。





『クラウド。あきらめが、肝心、だよ。』











+++ END +++





それらしい描写のないセフィクラ。
セフィクラにすると、ザッエアっぽくなるなぁ〜、と思うわけですよ。
オールキャラにしようとすると、すごく長くなるという、いい例でございました。

とりあえず、奈緒姉さんにささげます。