スーパースターズ結成後すぐ──初めてのキャンプ地で、一同は十年近くぶりの再開を果たした。
高校時代のライバル、ともに合宿所で暮らした仲間、そしてプロで何度も対戦してきた身近な「仲間」たち。
一頻り喜びの声を上げ、今までのことや思い出話に花を咲かせた後、現代若者の常識とばかりにそれぞれ携帯を取り出し、現在の連絡先を知らせあう。
「山田の自宅は相変わらずあそこでいいんだよな?」
確認する山岡には、えぇ、と山田が頷く。
続けて山岡は里中を見ると、
「確かお前ら、結婚してたよな? 里中の自宅も、山田の所でいいのか?」
そう、ごく当たり前のように尋ねた。
その瞬間、なぜかザワリと周囲の空気が震えた。
と同時、ハッ、と山岡は自分の口元を覆う。
──高校を卒業してどれくらいだったか、山岡の実家である魚屋に一通の手紙が舞い込んできたのは、彼の記憶にも新しい。
「結婚しました」というお決まりの文句と友に、なぜか結婚したばっかりにも関わらず、間に娘を挟んで笑っているポストカードが送られてきた──あの日。
ようやくくっついたかと、くすぐったいような安堵を覚えたのも、まだ記憶に真新しかった。
しかし、自分の家に当たり前のように手紙が届いていたからと言って、周知の事実だとは限らない。
そう思えば──そういや、テレビや報道でも、「夫婦」とか銘打たれていたことは一度もなかったような気がする。
「……あー……もしかして、お前ら、隠してたのか?」
おずおずと──山岡は、こちらを驚いたように凝視している昔のライバルたちの視線から口元を隠すようにしてこそこそと問いかけてくる。
その山岡に答えたのは、うんざりした顔で名簿をチェックしていた土井垣であった。
「一応ライバル同士だってことで、あえて公表してないだけで、別に隠しているわけじゃない。」
──だが、お互いの球団が、ばれては困ると思ったのか、見事に覆い隠してくれたおかげで、未だに公表されていないだけで。
しかし、土井垣の眉間に刻まれた皺は、なぜか必要以上に濃かった。
その答えは、吐き捨てるように続けた、
「まぁ……2人揃ってスーパースターズに来た時点で、すぐにばれるだろうけどな。」
その台詞によって、明らかにされた。
山岡はその土井垣の言葉に、視線を横へずらし──山田を見上げてニコニコ笑っている里中を認めて、さらにその里中を嬉しそうに見下ろしている山田を見て。
──さもありなん。
なんだか、明訓の高校時代を思い出してしまった。
「──で、里中。」
とりあえず気を取り戻して、山岡は携帯を開きなおすと、
「お前の連絡先は、山田と同じでいいのか?」
当たり前のように、電話帳を開いてそう尋ねる彼には、
「あ、いえ、それは……。」
里中が、軽く目を曇らせて──不満そうに土井垣を見上げて続けた。
「土井垣さんがっ!
一緒に暮らすのは3年は待てって言うから、べつにアパート借りたんです。」
最初の「土井垣」に、異様に力がこもっていた。
と同時、
「当たり前だろう……っ!」
わがままを言うなと、土井垣が叫び捨てる。
そのまま、鬼監督の勢いで里中と山田を振り返ると、
「ただでさえでも、スーパースターズになったとたんに、お前らが実はすでに結婚していたなんて公表することになるのかと、頭が痛いというのに……っ。
いいかっ! とにかく新球団結成後にスキャンダルは作らないことだ!」
スーパースターズのメイン面子は、もともと他球団で人気が上位であった者ばかりだ。
人気を獲得するのは、最初の年は簡単だろう──が、問題はその次からだ。新球団で人気を持ち続けていくためには、最低でも三年は、その人気を握る者たちのスキャンダルは禁止しておきたい。
そう告げる──おれは芸能プロダクションの人間かと、イヤそうな顔で呟く土井垣に。
「まぁ──それが無難づらな。」
頭の後ろで両手を組んで、殿馬が嘯く。
この面子の中で一番スキャンダルに敏感なのは、確かに里中と山田のファンであろうことは、想像に難しくない。
それでも、2人が2人で居る以上、隠し通せるものではない。
土井垣とて、「三年」と言ったが……いつまで隠せるものやら。──何せ本人たちに隠す意思がないのだから、しょうがない。
また昔のように、イヤになるくらいのラブラブを見せつけれらるのだろうか? ──あの高校時代、毎朝毎晩見てきたようにか?
いや、今はしかし、自分も一緒に暮らしているわけではないし、何よりも娘が居るのだから、多少は当時よりもましだろう──きっとそのはずだ。
何せ、あの年若くラブラブな高校時代と違って、彼らもプロ野球選手として大人になった……はずだし。
「えー……でも俺、せっかく横浜に来たんだから、さっそく2人目とか作りたいと思ってたんですよ。」
そして、里中はやっぱり里中だったと──山岡は思った。
その爆弾発言に、一同がこぞって脱力しているのに気づかず、
「1姫2太郎がいいと思うので、やっぱり2人目は男の子かなー、って。
で、太郎の子供だから、やっぱり小太郎って名前をつけようと思ってるんです。」
ひどく嬉しそうに爆弾発言を投下した。
というか
「思うなっ! 3年くらいは我慢しろっ!!」
ゴンッ! ──と、土井垣は容赦なく里中の頭上にコブシを叩き落した。
と同時、がばっ、と顔を上げて、
「何するんですか、土井垣さんっ!」
「もう少し場所を考えて発言しろっ、お前はっ!」
──まったくである。
しかも、本来里中の爆弾発言を止めるはずの夫は、照れたような顔でこりこりと頬を掻いている。
土井垣だけでは突っ込み足りないと思ったのか、そこで親切に微笑が山田に突っ込んであげた。
「いや、お前も照れてないで止めてやれよ。」
「智も、たいがいづらぜ。」
まったくもって、変わってない。
そう呟く声に、どこか懐かしい響きが宿るのを、とめられない。
さらに里中は、土井垣に殴られたところを手の平でなでながら、
「だって俺、この機会に山田と一緒に暮らそうと思ってたんですよ──2人目が生まれる前には、一緒に暮らしたほうがいいでしょう?」
「なんやと、サトっ!? また出来たんかいなっ!?」
思わず岩鬼が、目をひん剥いて振り返った。
そんな彼は、
「これから作るってさっき言っただろっ!」
噛み付くように怒鳴ってくれた。
その隣で、土井垣が米神を揺らすのに──すみません、と、山田が小さく謝った。
けど、その目元が微笑んでいるのに、気づかないようでは、元明訓面子を名乗る資格はない。
早い話が、山田も嬉しくてしょうがないのである。
「はー……あいかわらず恥じらいのないヤツやの。」
ばっちん、と自分の顔を大きな手で叩きつけて、ため息を吐く岩鬼には。
「別の意味で羞恥心がないなら、岩鬼もタメをはるづらがな。」
とりあえず殿馬が、そう突っ込んでやった。
今回のスーパースターズの面子は、みんな個性豊かだと、選抜の時点で思ったはずなのに。
「……結局、一番濃いのは、後輩ばっかりなんだな……っ。」
土井垣は、まだ何かずれた話で盛り上がっている「元プロ野球のライバル」であり、後輩であり、これから「チームメイト」である面々をぐるりと見回し……疲れたように、どっぷりとため息を零すのであった。
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SS編。
ミニ話の割りに、思ったよりも長くなりました。
とりあえず、多分二年か三年目くらいで籍だけは入れてます(笑)。
成人の後くらいが理想ですね。
そして、やっぱり結婚までの順番とか、果てしなく間違っているバカップルぶりで。しょっちゅう一緒に居ないから、いつまでも新婚カップルみたいなんだと、周りは認知しているのですが、しょっちゅう一緒に居ても、あんまり変わらない……ということが書きたいんですけどね。
いくつになってもラブラブな両親とかだと、子供が困ると思うのですが…………。