あてんしょん ぷりーず ここは、「そういえば、パラレル話の注意書きに、『明訓女子高校とか言うバカなことをするかもしれません』と言って置きながら、書いてなかったな……っ! ということに気づいた管理人が、閉鎖前にやってしまえと自暴自棄(笑)になって書いてみたネタです。 ので、明訓高校に在籍している人間は、すべて「女」であることを前提に描いた、ロマンちっくで恋愛要素があって野球で(謎)、そして失笑を前提にした、 限りなくバカワールドです。 太郎君や岩鬼君が、明訓高校の女子の制服を着ているシーンをアリアリと想像できちゃうあなたっ! 危険信号です! このまま読んでやってください(大笑)。 あ、ちなみに設定は、お笑い前提なので、「山田総受け」です(大笑)。 |
放課後になると、暮れかけた太陽のオレンジ色が、廊下や教室に差し込む。
茜色に染まった廊下には、すでに人影もない。
その中を、パタパタと走りながら、里中は自分の教室を目指していた。
両手には、抱えきれないほどの書類の束。すべて早稲田大学の昨年までの試験問題や予測問題ばかりだ。
途中、すれ違った教師から、
「里中さん、廊下を走っちゃいけませんよ。」
と注意されたが、それには良い子の返事で、
「はーい、すみませーん。」
と答えておいたが、角を曲がって教師の姿が見えなくなったら、また再び走り出す。
思ったよりも進路指導室で時間を食ってしまった。
すぐに終ると思っていたから、教室に山田を待たせたままだ。
だから里中は、少しでも早く教室に帰ろうと、走っているのだ。
とは言うものの、夏の甲子園を女だてらに勝ち抜いた明訓高校のエースとは言えど、ユニフォームを脱いだらただの娘に過ぎない。抱えきれないほどの問題集は、腕にズシリと重くて、階段を上りきったところで足を止めて、里中は書類を抱えなおして立ち止まった。
そのままバサリと床の上に書類を置いて、両手を振りながら、
「岩鬼か微笑でも通らないかな?」
持ち上げたときには、それほど重いとは思わなかったけれども、長く持って走っていると、やはり重くて腕がもたない。
そのまま足元の書類を見下ろして、やれやれと、再びそれを持ち上げようとした瞬間だった。
「あら、里中さんじゃないの?」
明るい、朗らかな声が上から降ってきた。
聞きなれた声に、思わず顔を上げると、三階の踊り場から顔を覗かせた夏子が、ニッコリと笑いながら階段を下りてくる。
「まだ残っていたの?」
「夏川さんのほうこそ、もうとっくの昔に岩鬼と一緒に帰ったと思ってたよ。」
この女子高校で、岩鬼の「夏子お姉様ラブ」を知らない者は居ない。
岩鬼と言う人物と、夏子という人物を全く知らなかったら、二人は「レズカップル」だと思われてもおかしくはないほど、岩鬼は夏子に傾倒しているのだ。
「岩鬼さんは、先に帰ったわよ。
──重そうね、手伝うわよ。」
首をかしげながら微笑む夏子に、里中は廊下の上に置いた分厚い用紙を見下ろし、そうだな、と頷いた。
「それじゃ、お願いしようかな? 教室までなんだけど。」
「ええ、喜んで。
──……それに、里中さんには、聞きたいこともあったしね。」
最後の一言だけは小さく口の中で呟いて、夏子は階段を下りてくると、重いコピー用紙を里中と分け合って持ち上げると、肩を並べて歩き始めた。
チラリと目を上げると、里中の整った端正な横顔が見て取れる。
毎日、日に焼けているはずなのに、サラサラのキューティクルな漆黒の髪。
白い肌と、ふっくらとしたさくらんぼ色の唇。これほど近くだと、バサバサと音がしそうに長く整然と揃った睫も見て取れる。
甲子園のアイドルだと騒がれるのが良く分かる、本当に愛らしい顔だ。
──これなら確かに、不知火君が骨抜きになるのも、仕方ないわ……。
はあ、と、悩ましげな溜息を夏子が零した瞬間だった。
「──どうかした、夏川さん?」
里中が、不思議そうな顔で首を傾げて問いかけた来た。
「──……えっ、あ、いえ……なんでもないの。」
慌ててフルフルとかぶりを振った夏子であったが、すぐに我に返ると、廊下の先に見えてきた里中の教室のプレートをチラリと横目で見た後、
「──……ね、里中さん? ちょっと、聞いても、いいかしら?」
こほん、と、軽く咳払いをして問いかける。
その夏子の言葉に、里中は岩鬼のことを思い出しつつ──もしかして、夏川さんは、そろそろ「岩鬼さんが私に対して見せる思慕が、普通のよりも常軌を逸している気がする」という事実に気付いたのだろうかと──、頷く。
かく言う里中とて、山田に対する態度が、普通の友情の枠をちょっとばかり越えている──ということに、気付いてはいない。
「──あのね、その……。」
夏子は、小さく視線をさまよわせ、無意味に教室のドアの方を見たり、窓のほうを見たりした後、コホン、とわざとらしい咳を立てると、
「──ほら、この間、白新高校の不知火君が、来たじゃない?」
「──……あぁ…………不知火な……。」
ね、と、顔を向けた先──なぜか里中の周囲の温度が、10度くらい下がったような気がした。
ギョッとして視線をやると、里中の瞼は半分ほど据わり、唇には憎憎しげな表情が浮かんでいる。
そんな顔をしていてもカワイイということは、とても羨ましいと思うのだが──、なんでそんな顔をするのか分からなくて、夏子はかすかに首をかしげる。
白新の不知火と言えば、東郷学園の小林と並んで、高校野球界において女子の人気を集める「美形エース」だ。
そのエースの名前を出して、里中がココまで不機嫌になる理由が分からなくて、夏子は里中を怪訝気に見やった。
「その時に、不知火君が里中さんにデートを申し込んだって……聞いたんだけど?」
「──……あー、そう、不知火が日曜日にデート……って……。」
普通ならば、格好いい男性とデートできるという事実に、嬉しそうにはにかみ笑いをしてもおかしくはない。
──というのに、里中はますます不機嫌そうな顔を浮かべるばかりだ。
「……って、なんで俺と不知火がデートするんだよっ!!!?」
バッ、と顔を上げて、里中は今にも噛み付かんばかりに叫んでくる。
その顔を見て、夏子は驚いたように足を止めて、一歩後ず去った。
「……な、なんでって……──え、でも、みんな、そう言ってるわよ?」
「──なんだとーっ!!!!」
憤慨したように、里中は手に持っていた紙の束を投げ捨てかけて、慌ててそれを手元に引き寄せながら、ギリギリと歯を噛み締める。
怒りに紅潮した頬で、ギロリと夏子を睨み揚げると、
「なんで俺が、不知火なんかとデートしなくちゃいけないんだよっ!? 冗談じゃない!」
「不知火なんかって……不知火君、すごく人気があるのよ?」
──でも私は、どちらかと言うと、土門さんのほうがステキだと思うけれど。
こっそりと心の中で言葉を付け足して、夏子はポッと頬を染めて恥らうように視線を床に落とす。
里中はそんな夏子をチラリと見ると、憤然治まらぬ様子で床を軽くけりつけると、
「山田のほうがずっとスゴイだろ。」
「山田君は女の子じゃないの……。」
呆れたように呟く夏子の声は耳に入らない様子で、やっぱり山田が一番だよな〜、と里中は続けた後、再び憤りを浮かべた表情で、
「ったく、山田と付き合うには山田に勝てって言ってるのに、あの男……っ!」
憮然と零す。
その、「あの男」のくだりに、憤懣やるせない感情を感じ取って、夏子は緩く首をかしげ──そしてすぐに、その意味に気付いて、ギョッとしたように目を見開いた。
「──って、もしかして……し、不知火君が、山田さんに、で、ででで、デートを申し込んだって……言うのっ!!!?」
まさか、と、──そんなことがあるわけがないと、夏子の声は言外に含んでいた。
けれど里中はその意味に気付く様子もなく──いや、気付く余裕も持たぬまま、そうだ、とコックリと頷く。
「全く、己を知らないって言うのは、まさにあの男のことだよなっ! 俺が勝ったんだから、不知火にデートをする権利なんてないはずなのに、山田の優しさに付け込んで、勝手に約束をこぎつけたんだぞっ!」
プンプン、と怒る里中だが、これを山田が聞いていたなら、そもそも勝負でデートをするかしないかを勝手に決めたのは、不知火と里中だと、疲れたように思うはずである。
「そ……そ、そう……なの………………。」
全く、ずうずうしい男だよな、と怒ったように続ける里中の台詞を右から左に聞き流しながら、夏子はショックのあまり、床を胡乱気に見ていた。
あの不知火が、里中をデートに誘うのは分かる。
何せ里中は、男らしい性格さえもそのカワイイ顔を引き立てるとまで言われているほど、整った顔をしている。
けれど──不知火が、山田を誘ったのだというのなら……。
「や……山田さんが、一年前に雲竜君からプロポーズを受けたって言うのも聞いたことあるけど…………。不知火君まで…………────。」
夏子は無言で視線を落として、自分の体を見下ろした。
入学当初は、自分の体型も、山田の体型もそう変わったところは見えなかった。
今では、山田は筋肉の量も贅肉の量も一回りほど増えて、女子にしては重量級と言える体型になっていた。
その山田が──……。
ガーン、と己を襲ったショックを、夏子は掻き消すことは出来なかった。
その夏子のショックを知ってか知らずか、里中は、
「まぁ、山田が卒業した後、注意しなくちゃいけないのは不知火だけじゃないんだけどな……っ!
中と影丸と木下と賀間に、後、中西と真田も怪しいよな……負けたくせに、いつまでも残ってたしっ!」
それはさすがに、ただの身内の欲目なんじゃないだろうかと思うような台詞を吐いて、抱えた紙の束を抱えなおす。
ランランと燃える闘志が宿る瞳に、夏子はますますショックを隠せず、視線を落とした。
「山田さんが──……。」
「でも、とりあえずの山田の貞操の危機は、今度の日曜日だな──……っ、ああいうタイプこそ、むっつりスケベの代名詞だからな……。」
さらに続く里中の真剣極まりない台詞に、夏子はさらにショックを受けたように、言葉をつむげず、里中を見下ろす。
「不知火君と山田さん──……ほ、本当にデート……するの?」
「不知火はそのつもりだな。──……まぁ、好きにさせるつもりはないけどな。」
吐き捨てるように呟いて、里中は、抱えた紙の下で、グッと拳を握り締め──それから一瞬後、お、と目をあげた。
「教室に着いたな。」
「──……えっ、あ、あら、ほほ、本当ね……っ。」
なぜか、動揺も露に夏子は上を見上げて、あははは、と笑って見せた。
「サンキュー、夏川さん。」
「う、ううん、いいのよ、里中さん。」
ニッコリと明るく微笑む里中に、夏子はフルフルとかぶりを振った後、手にしていた紙を纏めて里中に返した。
ズシリと重いだろうに、里中はそれを抱えなおしてあっさりと持ち上げる。
夏子はそんな彼女に、気をつけて持ってね、と──引きつった笑顔で笑いかけると、クルリと踵を返すと、廊下の端に向けて歩いていく。
里中はその夏子の背に向けて、もう一度感謝の声をかけると、教室の中に足を踏み入れながら──、
「──……そういや、なんで夏川さんは、あんなこと聞いてきたんだろう?」
ひどく今更なことを口にした。
首を傾げてみたものの、ま、いっか、と、一人で納得してみせた途端、
「────……里中………………。」
教室の中から、疲れたような声かけが飛んできた。
視線を向けると、椅子から立ち上がった山田が、里中の下へと小走りにかけてくるところだった。
「すまん、山田、待たせたな。」
よいしょ、と紙を抱えなおす里中の手から、いとも軽々しく紙の束を受け取った山田は、里中と一緒になって席の方まで歩いていきながら──、
「里中……あまりおかしなことを、言わないでくれよ……。」
そう、ゲンナリしたように呟いた。
「──? 何の話だ?」
「いや……だからその、不知火君と、俺が、日曜日に…………遊びに行くって言う……。」
「あれは、不知火が一方的に山田をだまして連れてくだけだ。」
キッパリと言い直して、里中は頬に赤みの走った山田の顔を、不機嫌そうに見上げると、
「俺と不知火がデートするなんていう噂なんか、立てられたらたまらないじゃないか。」
憮然とそう零した。
山田はそんな里中の整った顔をチラリと見やって、
「────……はは……まぁ……うん、いいけどな…………。」
どうして里中が、不知火をココまで嫌うのか……やっぱり理解できないまま、この話題はこれでおしまいだと言うように、苦く──苦く笑って見せた。
+++ 夏子さんは山田をライバル視してるんです +++
夏子さんが山田ライバル視の話を書いてなかったから、最後に書いてみました。
ちなみに里中、山田と不知火のデートについていく気満々です。
山田と初遠出だと、こっそり喜んでいたりもする。