温泉のお約束 2


読む前のあてんしょーん


恒例のごとく、色モノネタです。
スパスタ編7巻、マドンナ温泉乱入シーンです。

でもって、色モノらしく、絡み(?)があります。
誰と誰の絡みかは……まぁ、オチなので、予想通りの代物。

ただ「それ」を書きたかっただけなので、オチもへったくれもありません。

以上、お気をつけください。






「キャッ、だ、ダメですわ、里中さん〜っ、そ、そこはくすぐった……っ。」
「何言ってるんだよっ、さっきお前だって思いっきり触ってただろっ!」
「きゃっ、あっ。」
「……げ、マドンナって結構、胸あるよな……。」
「ちょ、ダメです……っ、て、そこは、殿馬さんも触ってないのに〜!」
「──……っ、あのな……そういうお前は、山田にしか触らせてないのに、思いっきり揉んでくれただろーがっ!」
「それとこれとは別問題です〜!」









 ピンク色を通り越えて、怪しい紫色のオーラすら漂いそうな、女湯からの会話を耳にしながら、男湯の面々はなんとも言えない顔を付き合せていた。
 【温泉】といえば混浴露天風呂か、女湯で今のようなピンク色のオーラが流れてきていて、それに男湯で男どもがモンモンとしている──なんてシーンが、定石。
 けれど、修学旅行の時も今までも、そんな場面に行き当たったことは1度もなかった。
 にも関わらず、何も、今──、
「なんでマドンナがこんなところに居るんだ……。」
 聞いてばかりいると、余計な妄想がぐるぐると頭を回りそうで、微笑は長湯のせいではない頬の赤みを掌で押さえながら、溜息を一つ零した。
 最初に里中の悲鳴めいた声が聞こえてきた時には、チカンか里中の過激ファンかと、慌てたものだが──里中に「不埒な行為」をしている相手が、正真正銘「四国アイアンドッグズ」のマドンナであると分かってからは……ただ女湯から聞こえてくるいたたまれない会話を聞くしかない状態だ。
 視線を飛ばすと、なんとも言えない顔で──けれどどこかハラハラと山田が柵を見上げていて、その隣で殿馬がそ知らぬ顔で口元までお湯に埋まっている。
 バシャバシャと、何をしているんだろうと思わせるような湯音が柵の向こうから絶え間なく聞こえてくる。その音に混じって聞こえる、
「──ちょっ……待てっ、マドンナっ、そこは……ダメっ……っ。」
「里中さんって敏感ですのね……って、キャッ! なっ……っ。」
 そんな声が、モンモンと想像を掻き立ててくれる。
 これは、とてもではないがいたたまれない。特に目の前に隣に居る女性二人の夫と、片思い相手が居るのだから、余計だ。
 なんとも奇妙な沈黙が落ちる男湯に、居心地悪げに身を揺らした後、微笑は火照った頬を掌で撫で付ける。
──このまま、しゃれにならない事態になる前に、とっとと出たほうが良いだろうな。
 そう結論づけて、岩場においてあった自分のタオルを手に取り、それを腰に巻きつけて立ち上がった。
「悪いな、山田、殿馬。俺、先にあがるな……。」
 どこか疲れたような声音で告げながら、後は彼ら2人の視線から逃れるように背を向けて、バシャバシャとお湯を掻き分けて出入り口の方へと進む。
 そんな微笑が掻き分けていくお湯の音に混じって、女湯のほうの怪しげな会話は、ますますヒートアップしていっているような気がした。
 これが全く知らない女性が巻き起こしている騒動なら、「しょうがないな」と笑いながら揶揄の一つでも飛ばすところだが、女湯に居るのは自分たちが良く知る娘2人だ。どう考えても、耳を貸せば貸すほど羞恥心に見舞われるだけだろう。
──正直を言えば、同じ湯の中に殿馬も山田も居ない状態だったら、こっそりと聞き耳を立てても良かったのだけど。
 ヤレヤレと、ほんのりと赤らんだ首筋に手を当てながら、ザバ、とお湯から上がると、すぐにそれに続くように温泉から立ち上がる水音が聞こえた。
 後ろを振り返ると、山田も風呂から上がろうとしているところだった。
 さらに殿馬が、風呂に浸かりながらこちらに向けて泳ぐように近づいてきている。
「先に上がってたほうが、よさそうだしな。」
「づら。」
 どこか肩身狭そうにあがってくる2人の同僚を見下ろして、微笑はそのまま──やっぱり、楽しげ(?)に悲鳴をあげている里中とマドンナの声を耳にしながら、
「──そっか。」
 あえて何も言わず、先に立って脱衣所に続く扉を開くのであった。
 さらに甲高くなる嬌声じみた声に激しいお湯の音がかぶさるのを耳にしながら、三人はいそいそと脱衣所の中に飛び込む。
 扉を閉めると、女湯から聞こえてきた声は聞こえなくなり、ホッとするやら、残念に思うやら。
「しっかし……マドンナねぇ。」
 ぽたぽたと落ちる湯雫をタオルで掬い取りながら、微笑がげんなりした調子で呟きながらチラリと殿馬を見る。
「まさかお前が呼んだ……わけはないよな?」
「づら。」
 確認するまでもない。
 殿馬は微かに首をすくめるようにするだけだが、答えは分かりきっていた。
 去年一年間、女性でありながらアイアンドッグズの一軍で活躍し続けたマドンナを、わざわざスターズのメイン選手が集まった自主トレに参加させるほど、今年のスーパースターズは余裕なわけではない。
「まぁ、聞けばすぐにばれることではあるが、良くココまで来たよな……松山から。」
 呆れたように山田も呟き、すごい執念だと肩を落とす。
 確かに、「明訓五人衆」が箱根で自主トレをしているのだという話は、四国アイアンドッグズの古くからの顔見知りの何人かも知っていることだから、聞けば誰かが教えてくれただろう。坂田なら、ここに泊まっているということも熟知していることだし。
「本当だよな〜……、まさか、ずっと居るつもりじゃないだろうな?」
「まさか! それはない……と、思うんだが…………。」
 籠の中からバスタオルを取り出し、それを頭から被ってぼやく微笑に、驚いたように山田が顔をあげ──けれど、すぐに憂鬱そうな表情で視線を落とす。
 もしも、最後の最後まで──自分たちと同じ時間、彼女がココで過ごすのだとしたら……、
「──……参った、な……。」
 思わず口元に手を当てて、困ったように眉を寄せて呟くしかなかった。
 色々思い浮かぶことがないとは言えなかったが、すでに来てしまった女性を──しかもあの「マドンナ」を、追い返すことは出来ないだろう。
「あははは〜、智も大変だな〜。」
「笑い事じゃない……。」
 明るく笑い声を立てながら、微笑は籠の中に詰め込まれていた着替えのアンダーシャツを手に取り、頭から被りこんだ。
 山田はその明るい声に、本当に笑い事じゃないんだと、疲れたように溜息を零すしかなかった。
 出来ることなら女湯に押し込み、マドンナの手から里中を奪い返したいところだが、そういうわけにはいかない。
 それに、最後の方の声を耳にする限り、里中もやられ放題というわけではなく、反逆に出ているようだし──何よりもロッテ時代から、男連中に混じって生き抜いてきた「エース」様だ。そうやすやすと押さえ込まれはしないだろうし。
「……大丈夫、だとは……思うんだけどなぁ。」
 はっきりと言い切れないことに、再び溜息を覚えながら、山田は籠の中に盛られたシャツを手早く着込んだ。
 すでに着替え終えていた微笑がタオルを肩に掛けるのを合図に、三人はそのまま、露天風呂を後にした。
 暖簾を潜り抜けて外に出ると、ひんやりと涼しい空気が、火照った肌に心地良く感じ取れた。
 正面の女湯の暖簾は、そよとも動かず、暖簾ごしに見える先には、ただ左手に折れる手前の壁が見えるだけ。
 その奥で里中とマドンナが今もどういう状態を繰り広げているのか──それを最後まで聞き届けなかったことが、良かったような、寂しかったような……そんな気がした。
 そのまま左手に折れると、右手にソファと窓が見えた。
 三人は迷わずそこに座り込み、どっしりと腰を落とした。
「殿馬……マドンナはお前に会うために来たんだぞ? どうするよ?」
 座って早々、軽く身を乗り出すようにして笑いかけてくる微笑に、殿馬は軽く肩を竦めてみせる。
「づらな。」
「って、そりゃどういうイミだよ。」
「しれー〜、づら。」
 ことごとく答えをはぐらかせようとする殿馬に、おいおい、と微笑が更に突っ込む。
「あのな〜、あれだけの美人でしかも野球選手だぞ? もったいないとは思わないのか?」
「マドンナからラブレターが来てるのは知ってたが、殿馬が返してるって言うのは聞いたことがないな……。」
 音楽の面でも、性格の面でも、十二分に二人はお似合いな気がする。
 思わず、去年の矢先にサチ子と加代が盛り上がっていたことを思い出しながら、ポツリ、と呟いた山田の台詞に、微笑がそうだそうだ、と頷いて、改めて殿馬の顔を見下ろす。
「前から聞こうと思ってたんだが、お前、女に興味がないってわけはないよな?」
 どこか面白がった雰囲気の宿る微笑の声に、殿馬はチラリと片目を開けて視線を上げた後、
「三太郎も分かるづら。──高校時代から、ずっと一緒だったづらよ。」
「は?」
 キョトンと自分を見返す微笑を見上げて、殿馬はそのまま目を閉じて、小さく溜息を一つ。
「そういうことづら。」
「って、そういうことって……何がだよ!? 高校時代から一緒でも、分からなかったから聞いてるんだろ!?」
 わけが分からないと、目を剥いて微笑が叫ぶ先、山田も目をパチパチと瞬いて殿馬の顔を見つめる。
 全くもって意味が分からない。
「おい、殿馬〜!?」
 さらに詰め寄ろうと、微笑が腰をあげかけた──まさにその瞬間だった。

 がたっ、がたがたがたっ!

 山田が背にしている壁の向こうで、あわただしい音が聞こえたのは。
「?」
 振り向いた先──壁の向こう側は、女湯の更衣室のはずだ。
 男湯と同じような作りであるならば、ちょうど山田が座っているソファの後ろ辺りは、下足所近くだろう。
 ゴトンッ、と床に何かが落ちる音がしたかと思うや否や、バタバタとあわただしい足音が、聞こえた。
「里中が──出てきたのかな?」
 にしては、何かあったかのようなあわただしさだ。
 女湯には、里中とマドンナしか入ってなかったようだから、何かあったとするならば、やはりマドンナ絡みに違いない。
 のっそりと山田は、ソファから立ち上がり、女湯の暖簾の辺りを覗き込むように首を伸ばす。
 間をおかず、ヒラリ、と暖簾が大きく翻り、飛び出してくる影が、一つ。
「──里中!?」
 胸元を手の平で押さえながら、頬を赤く染めた里中は、驚いた声をあげる山田に気付くと、バッ、とこちらを向いた。
 かと思うや否や、
「山田っ! 助けてくれっ!!」
 ダッ、と山田めがけて走ってくる。
 そのまま駆けてくる彼女が口走っている内容も内容だが、それよりも何よりも、山田は駆け寄ってくる彼女の姿に、慌てて顔の前で両手を振った。
「さ、里中っ! なんて格好をしてるんだっ!」
 山田の台詞に、彼の正面に座っていた微笑と殿馬も、ヒョイ、と首を突き出して──、
「ぶっ!! なっ、なっ……ちょ……っ、智!?」
「──……づら。」
 思わず目元を赤らめて、慌てて視線をそらした。
 アンダーシャツとズボンを履いている山田たちとは違って、里中は毎年着慣れている浴衣を着ていたのだが──毎年のように、着慣れているにも関わらず、なぜか今は浴衣の裾も襟元も大きく開いていた。
 普段でも滅多に見せない白いスラリとした脚と、くっきりと目立つ鎖骨。そこから続く胸元へのラインがイヤに眩しく見えて、直視できずに微笑も殿馬も知らず視線をずらした。
 里中はそのまま山田の腕にしがみつくようにしてクルリと反転すると、山田の背中の後ろに回った。
 そして、今にも親の敵が女湯の暖簾から出てきそうな視線で、里中は自分が先ほど出てきたばかりの暖簾を睨みつけた。
「里中っ! 早く戻って、ちゃんと着なおして来いっ。」
「しょうがないだろっ! マドンナが無茶するんだからっ!」
 慌てた様子の山田を睨みつけて、里中はブスリと唇を一文字に結ぶ。
 その里中を自分の肩ごしに見下ろした山田は、自分を見上げている里中の無防備なまでの格好に、眩暈のようなものを覚えた。
 白い頬は、風呂上りのためか更に白く透けて見え、頬と目元がふっくらと赤い色を宿している。
 しっとりと濡れた睫と、潤んだ瞳。唇はふっくらとくれない色に染まっていて、小さく尖らせた唇は今にも口づけてくれと言わんばかりだ。
 しかも着ている服は、慌てて着込んだとしか思えないありさまである。軽く羽織っただけの浴衣を、ただ帯びで締め付けている。
 襟元は大きく開き、少し肩口からずれたら胸元がパックリと開きそうで、白く眩しい胸元が目に飛び込んでくるばかりだ。
 見下ろした先には、ふっくらとした谷間。──しかもどうやら、下着も身につけていないようだ。
「無茶って……一体、何をやってたんだ、お前らは……。」
 呆れたように里中に体を向けて、山田は指先で彼女の襟元を強く引き寄せる。
 微笑たちに正面を向けて見せられない格好である。
 帯の下は、浴衣の裾が大きく開き、生脚が見放題な状態である。これも、普段のきっちりと着込む里中からは到底考えられない。
 一体、露天風呂と更衣室で何があったのだと、山田は帯の上から里中の浴衣の裾を引き上げて、溜息を零す。
「俺が浴衣を着てたら、マドンナが──……。」
 山田の手で襟元を撫で付けられながら、さすがにこの格好はまずいと思ったのか、里中も帯を手元に引き上げながら、しぶしぶ説明し始める。
 そこへ、
「里中さんっ! 忘れ物ですよ〜──……って、まぁっ! 殿馬さんっ!」
 大きな平たい籠を丸々脇に抱えたマドンナが、ヒョイ、と暖簾を潜るなり、空いた片手を頬に当てて嬉々とした笑みを浮かべる。
 そのままスキップで近づいてくるマドンナの浴衣は、里中の乱れた浴衣とは違い、きっちりと着込んでいる。更に上には羽織も羽織っていた。
「うふふ、お久しぶりです、殿馬さん、スターズの皆さん。」
 脇に抱えた籠は、どう見ても更衣室にあったソレだ。
 しかも先の台詞から考えるに、里中が使っていた籠に違いない。
──いくら忘れ物だからって、籠ごと持ってくるとは、さすがはマドンナである。
「あ、あぁ……久しぶり。」
「づら。」
 なんだか毒気を抜かれた気がして、ヒラリ、と手を舞わせる微笑と殿馬に、マドンナは嬉々とした表情でその場に飛び上がりそうな満面の笑顔になる。
 そんな彼女へ、里中だけが不機嫌そうな視線を向けた。
「なにが俺の忘れ物だよ! お前が、浴衣の下に下着は履かないものですって言って、脱がしたんだろうがっ!」
 噛み付くように怒鳴る里中の台詞の中の、問題発言を、一瞬で理解しなかった人間はいなかった。
「……さっ、里中っ!!!?」
 慌てて里中の体を見下ろす山田の顔が、動揺の色に染まっている。
 さらにその里中の頭越しに見える微笑と殿馬の視線が、里中の背中から足元に向けて、降りて行っているのも認める。
 慌ててムダだとは思いながらも、持っていたタオルで里中にストールのように掛けて見せるが、ハンドタオルくらいの大きさしかないそれは、羽織のような役割は果たしてくれはしなかった。
「ですが、着物と浴衣を着るときは、下着は履かないものですよ? 下着の線が出ると、みっともないでしょう?」
 ふふふ、と口元に手を当てて笑うマドンナに、
「それは人の勝手だろ、って言ってるだろっ。」
 里中が更に噛み付くように怒鳴った。
 そんな彼女に、マドンナはあっけらかんと、
「いいじゃないですか、里中さん、せっかくスタイルいいんですから。」
「それ、ぜんぜん、関係ないからっ!」
 トントンと軽い調子で近づいてきたマドンナが、山田に向かって籠を差し出す。
 思わずその籠を受け取った山田は、籠の中に入っている、マドンナが放り込んだらしい里中の下着やタンクトップ、タオルを見下ろし、それを小脇に抱えると、羽織を取り出してそれを里中に手渡した。
「里中、とりあえずもう一度着替えて来い。」
「ん、そうする。マドンナが無理矢理脱がすから、浴衣がずれる。」
 ブツブツと呟きながら、直そうとしてもどうしても広がる浴衣の裾をつまみ上げ、もう片手で山田から差し出された籠を受け取り、里中は憮然とした表情を隠そうとしないまま、再び女湯の中へと消えていった。
 その不機嫌そうな背中を山田が見送ってから振り返ると、マドンナが山田が座っていた席に腰を落として、両手を組み合わせて嬉しそうに殿馬に挨拶をしていた。
「ウフ、殿馬さん、お元気でしたか?」
「づら。」
 本当に嬉しそうに顔をほころばせるマドンナを、一瞥して見上げて答えると、隣で微笑がニヤニヤしているのが目の端に移った。
 殿馬はそんな彼を認めながら、ゆったりとソファに身を沈めつつ──里中が着替え終えて出て来るには、もう少し時間がかかるだろう──、
「サトも、自覚がねぇづらな……。」
 誰にも聞こえないように、こっそりと口の中で零した。
 確かに目の前のマドンナは、綺麗かもしれない。
 積極的で明るくて、自信家で、スターズの面々に言わせると、「案外お似合い」と言うことらしい。
 けれど、その誰も彼もが忘れている。
──他ならない自分たちは、高校時代から一緒だったのだ。
 目の前の彼女よりも美人で、積極的で、明るくて、プライドが高くて前向きで。時々はかないくらい頼りないくせに、誰よりも綺麗で頼りがいのある背中を持つ、一番身近な「女性」。
 三太郎も自覚がない。
──「アレ」を十年以上も見ていて、今更普通の女性で満足できるはずもないじゃないか。
「それにしてもマドンナも、現れるなり、強烈だよな。」
 コリコリと指先で赤い頬を掻く微笑の照れたような表情は、目の前に美人が座っているからではなく、先ほどの里中のせいだろう。
「え、何がですか?」
 キョトンと見返すマドンナに、微笑はますます苦い色を広げながら、
「風呂もそうだけど、智に色々……な?」
「あぁ、その件ですか! とっても楽しかったですわ。」
 にこにこにこ、と邪気のない笑みを見せて、何を想像したのかますます頬を赤く染める微笑にニッコリ笑いかけた後、マドンナはそのまま、女湯の方を見て立っている山田を見上げた。
「私、山田さんがちょっと羨ましく思えましたわ。」
「──……え? お、俺がかい?」
「ええ、ここの温泉、お肌にもいいんですね?
 里中さんのお肌、とってもスベスベでしたよ。」
 ニコニコニコ。
 無邪気と言い切るには少しためらいがあるような含みを持たせて、マドンナは山田に笑みかけた後、うふ、と口元に指先を当ててから、その指先を自分の腕に滑らせた。
 浴衣の袖を捲り上げて見せた白い腕は、去年の今ごろよりもずっと筋肉がついてしなやかだった。
 里中の腕は、マドンナのそれよりもしっかりとした筋肉がついていたけれど、見た目は彼女と同じくらいしなやかで細い。ただ、手首から手の甲の辺りは、皮が厚くなっていたけれど。
「私も、殿馬さんのためにスベスベになったつもりですけど、里中さんには適いませんでしたわ。
 山田さん、良かったですね。」
「──……っ!」
 残念そうに自分の腕を見下ろした後、続けたマドンナの台詞に、山田は思わず空気を飲み込んだような表情になった。
 マドンナは、そんな山田の滅多に見れない動揺丸出しの顔に、満足したように一つ頷くと、
「やっぱり、女は、好きな人が居ると綺麗になるものですわ──、ね? 殿馬さん?」
 締めくくるように、そう言って嬉しそうに笑った。











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苦情がなかったのをいいことに、調子に乗って第二弾。
今回の書きたかったコンセプトは、
「浴衣の着乱れ」と、「浴衣の下に下着は履かない」ですね。
はい、コレだけです!

そのためだけにこの続きを書いたという……。
…………っていうかこのネタ、普通に16禁とか18禁でNOVELで書けって言うところですか?(笑)