花婿の常識


アテンション プリーズ

16禁です。

なおかつ、「結婚式」が題材で
(のわりに結婚式じゃない…)
「サクラサク」のネタが根本にあります。
のため、里中がウェディングドレス着てます。
これで16禁といえば、ネタは分かるはず…。

そのうえで大丈夫だと判断された方のみ、
読み進めてください。











 本来ならば、結婚式が始まるまで、花婿は花嫁の姿を見ないもの。
 けれど、時間よりも早く支度が終わったからと、特別に入らせてもらった花嫁控え室の中──、四畳ほどの部屋の中には、純白のウェディングドレスを床に広げて、椅子に座っている花嫁がいた。
 その花嫁の前には女性が二人立っていて、扉をくぐった太郎の目の前には、その二人の背中しか見えなかった。
 まるで意図的に目隠しをされているようだと、太郎は顔を顰める。
 扉から入って見える花嫁の姿は、床に引きずっているドレスの裾だけだ。
 入ってすぐに、着飾り終えた花嫁の、ぶっすりと面白くもなさそうな顔が見えると思っていただけに、なんだか拍子抜けした。
 と、太郎が呆れたような顔になるのを待っていたかのようなタイミングで、クルリと二人の女性のうち右側に立っていた娘が振り返った。
「あ、兄貴。何しに来たんだよ。」
 見るなり早々、こんな可愛くない口を聞いてくれる妹はしかし、年末の殿馬のチャリティーコンサートの時よりも数段グレードの高いドレスに身を包み、短い髪に大きな髪飾りをつけて、どこかのお嬢様のような様相になっていた。
 こうして見てみると、周りの人間が「サッちゃんは美人よね」と言うのが良く分かる。
 そんなサチ子の声に、彼女の隣にいた女性も振り返る。
 こちらは洋装のサチ子とは反対に、和装姿の加代である。
 いつもシンプルな服装に身を包み込んだ加代であるが、薄化粧をして髪をアップにして飾りつけた様は、華やかにあでやかに見えた。
「──……あ、あの……。」
 その顔を前にして、太郎は思わず恐縮して首を竦めた。
 何かを言わなくてはいけないと分かっているのに、何を言ったらいいのか分からなくて、ただ困ったように顔をゆがめる。
 そんな太郎に、サチ子は呆れたように肩を竦めて手の平をひらひらと揺らす。
「兄貴、もう少し気の利いた台詞くらい出てこないのー! まったくもう、花嫁のお母さんに会って言うことって言ったら、一つでしょ!」
 そのままサチ子は、自分の肩越しに振り返り、ねぇ? と、背後に座っている花嫁に首を傾げて笑いかける。
 そんなサチ子に、くすくすと笑った加代は、目の前の太郎に向けて足を踏み出すと、恐縮して顔を赤く染める彼の手を握ると、
「太郎君。智は、ほんっとうにワガママで甘ったれで泣き虫で、意地っ張りで頑固で……それから、えーっと……。」
 「よろしく頼むわね」まで行き着くまでに、まだ二つ三つくらい、言わなくてはいけないことがあったような──と、視線を宙にさまよわせる加代を、
「母さん……っ!!」
 羞恥に近い怒りを滲ませた声で、背後の「花嫁」が、呼んだ。
 加代はそんな花嫁の声に、うーん、とさまよわせていた視線を太郎に戻し、キュ、と彼の手の平を再び強く握り締めると、
「とにかく、太郎君なら、きっと智を幸せにさせてくれると思うわ。
 ふつつかな息子ですけど、どうぞよろしくお願いしますね。」
 朗々と最後まで言い切った。
 さすがに最後の一言を言うときには、感極まったのか、微かに目の端に光るものが見える。
 太郎はそれを見下ろして──そして華奢で小さな加代の手の平を握り返して、
「お義母さん。あの、俺も不肖ではありますが、息子さんは幸せにすると誓います。」
「ぎこちないわね、兄貴ったら。」
 でもその分、真摯さがあふれて見えるかもしれない。
 そう腕を組んで辛らつな意見を述べるサチ子に、太郎はガックリと肩が落ちるのを覚える。
 そのまま苦い笑みを浮かべて、加代の手を離すと、改めて太郎は二人の女性が庇うようにして立っていた場所へ──花嫁へと目をやり……絶句した。
「…………さ……さ、智……?」
「…………………………見るのは10秒以内だからな……っ。」
 思いっきり目を見開く太郎を、白い頬を真っ赤に染めて、真下から睨みあげる。
 白い肌はおしろいでさらに白く透き通るように仕上がり、いつもパッチリと明るい瞳は美しく彩られている。睫はさらに濃く長く整然と揃えられ、ふっくらとした唇には淡い桃色のパールが入った口紅が引かれていた。
 想像した以上に綺麗に仕上がった美貌は、太郎が想像したとおりの仏頂面をしていてもなお、目を奪われるのに十分な様相だった。
 そんな太郎に、サチ子と加代が、パチン、と手の平を合わせる。
「やったっ! 力作、成功!」
「今年の流行のメイク、がんばって調べてよかったわねっ!」
「うん、こういうときにもゼクシィって役に立つね〜、さっすが加代お母さんっ!」
 どうやら、メイクはこの二人がしたようである。
 その理由を後から聞けば、「着付け師さんとメイクさんにお祝儀をお渡しすると、二度払いになっちゃうでしょ」と、しれっとして加代がさすがの一言を吐いてくれた。
 思わずそのまま呆然と立ち尽くす太郎に、サチ子は再びしょうがない兄貴だと呟くと、ポン、と彼の背中を叩いて、片手で加代の手を取ると、
「それじゃー、ちょっとお二人だけにしてあげましょーか。
 まだ時間はあるみたいだから、どーぞごゆっくりぃ〜♪」
「智、メイクは崩れないようにしないと駄目よ。」
 二人仲良く、揃って部屋から出て行った。
 慌てて太郎が振り返るが、和装と洋装のコンビは、すでに扉の向こうに消えた後であった。
「………………………………っ。」
 それと同時、背後からわなわなと拳が握られる気配がして、ハッと視線を戻すと、女二人によって好き勝手に飾られたらしい智が、奥歯を噛み締めて、キュ、と唇を真一文字に結んで、より大きく見える目で扉を睨みつけていた。
「智……、その……お疲れだったな。」
「まったくだ。」
 ぶっすりと、どう見ても機嫌はよさそうに見えない顔で、智はうんざりしたように椅子の背もたれに全体重をかける。
 普通の女性なら、ここでこの場面でウェディングドレスに包まれ、見とれるほどの美人に仕上がった自分を喜び、幸せそうに笑っているところだろうが──……。
 チラリ、と視線をずらした先で、壁一面に埋め込まれた大きな鏡に映る、智の全身が見える。
 不機嫌な顔で写っている横顔もまた綺麗で、思わず太郎は目元を緩める。
 その鏡の前のチェストには、これから頭にかぶるのだろう薄いベールとブーケが置かれていた。
 確かブーケは、真剣に加代とサチ子がパンフレットを捲りながら、「サッちゃん、ブーケトスに貰う花は、どんなのがいい?」「加代お母さんは、どんなのが好み〜? お母さんだって独身なんだから、貰うチャンスはあるわよ〜。」「あら、そうね、智が片付いちゃったから、私もがんばってみようかな〜。」とか言う会話をしていた代物だ。
 もともとウェディングドレスを着ることに「絶対反対」していた智が、そんな女陣のブーケ会議に口を挟むことはなく──結局、ウェディングドレスに関しては、加代とサチ子となぜか微笑の三人によって決められ、ブーケは女性二人の「王道派カサブランカ」に決定し、さらにブーケトス用のブーケとして、ピンク色を基調にした、愛らしい花が用意されている。
 また、ブーケトス用の花を別に用意したのだから、お色直しのドレスも必要だと、二人が言い切ったことには、断固として智が反対したので、残念ながら実現はしない。
 あの時は、智も大変だと思ったから、お色直しのドレスは勘弁してやってほしいと、そう口に出して援護をしたが──今、目の前で椅子に座っている彼を見ていると、それがもったいないことのような気がしてきた。
 きっと、彼がこんな格好をしてくれるのは、後にも先にも、これ一度きりになるのは間違いないから。
「…………なんだよ、山田。おかしいならおかしいで、なんか反応してくれないと、居心地悪いだろ……っ。」
 軽く唇を尖らせて、拗ねたように自分を見上げてくる智に、太郎はにじみ出る微笑を浮かべて、うん、と一つ頷いた。
 そして一歩踏み出して──嵩が広がるウェディングドレスの裾に気をつけながら、智までギリギリの位置まで近づくと、そ、と手を伸ばした。
 陶器のように滑らかに見える白磁の肌が、ぴくん、と揺れる。
 そのまま彼の頬に手を当てると、人形じみた綺麗な面差しから、とくん、と暖かな体温が伝わってきた。
「……山田?」
 不安そうに自分の名を呼ぶ智に、太郎は安心させるように微笑みながら──その、まっすぐな目に見つめられるのに照れくささを覚えて、ほんのりと目元を赤く染めた。
「智──その……。」
「おう。」
 その太郎の態度に、これはきっと、褒める言葉か、無理矢理なお世辞か、そのどちらかが来るのだろうと、思わず身構えた智へ、
「…………ありがとう。」
 太郎は、幸せそうな笑みを浮かべて、それだけ呟いた。
「──…………ん?」
 思ったものとまったく違う台詞に、智は思わず首を傾げて、改めて太郎を見上げる。
「ありがとうって……何がだ?」
「あ、いや──その、恥ずかしいだろ、その格好?
 なのに、我慢して着てくれてるから、ありがとう。」
「………………────それは触れるなよ……今すぐにでも俺、逃げたいくらいなんだから……。」
 そのまま、膝に顔を突っ伏せる智に、太郎は苦い笑みを貼り付けて──今からこんな調子で、果たして智は、結婚式が終わるまで我慢できるのだろうかと思わないでもない。
「逃げることはないだろ? その──綺麗なんだし。」
「綺麗っ!? どこがっ!?」
 がばっ! と顔を上げる智は、すぐさま自分の横顔が鏡に映っているのに気づいて、慌てて鏡から顔を逸らす。
 その頬の辺りが羞恥に染まっているのを見下ろしながら、太郎は小さく溜息を一つ。
「お前……まともに鏡を見てないだろう?」
「それじゃお前は、自分が好きなようにペタペタ絵の具みたいなのを塗られた顔を見たいと思うのか?」
 ジットリとねめあげてくる目元が、いつもよりも華やかに見えた。
 微かに潤んでいるように見えるのは、感極まって涙を覚えているからではなく、屈辱と怒りに爛々と目が燃えているだけなのだと分かっていたが──美人は怒ると壮絶に美しくなるという、まさにその典型的なタイプだ。
「あははは、智の顔がキャンパスなら、サチ子とお義母さんは、アーティストだよ、本当に。」
 触れるのすら怖いような気にさせる、確かに面差しは彼のものの頬に、そ、と掌を寄せる。
 ジ、と自分を見上げてくる大きな瞳を見下ろして、太郎はニッコリと笑った。
「なんか、ほかのヤツに見せるのが勿体無いくらい、綺麗だよ。」
「────…………うそ臭……。」
「………………里中〜……っ。」
 胡散臭げに目を据えて返す智に、思わずガックリと頭が落ちる。
 そんな太郎に、あはははは──と、今日始めて浮かべる笑顔で、軽い笑い声を立てた後、
「ウソだよ。」
 そう言いながら、俯いた太郎の頬に両手を添える。
 白い手袋ごしに触れる智の指先が、微かに震えているのに気づいて、は、と視線を上げた先で──彼は、ほんのりと照れたように笑っていた。
「正直言って、恥ずかしいし、なんでこんな格好して結婚式するんだとか思うけどさ──まぁ、半分は諦めたけど。」
 何せ、母もサチ子も、誰が結婚するんだと思うくらい、張り切ってくれたものだ。
 結婚式場の人も、あんまりにも乗り気なサチ子と母に、「こちらが新婦さまと新婦さまのお母様ですか」と思っていたくらいである──まぁ、「新婦さまのお母様」に限っては、間違ってはいない。
「でも──まぁ、お前が綺麗だって言ってくれるなら……それでいい。」
「智……。」
 はんなりと笑う智の顔に、つられるように顔を近づけた。
 それに軽く目を見張った智は、それでもすぐに照れたように笑って、そ、と目を閉じる。
 太郎の両頬に触れていた手は、スルリと彼の耳横をすり抜けて、彼の首へ回される。
 そのまま、お互いの上体を傾けるようにして、軽く触れ合うだけのキス。
 チュ、と小さく音がして、お互いの唇が離れた瞬間、あ、と智が小さく声をあげた。
 そしてすまなそうにうわめ遣いに太郎を見上げながら、
「……悪い、山田。口紅が移ってる…………。」
 ソレ……と、白い指先で、彼の口元を指し示す。
「──……って、えっ。」
 今離れたばかりの唇を見下ろした──ツヤツヤと濡れた智の唇を見た後、慌てて太郎は左手の鏡を見やった。
 鏡に映った自分の唇には、確かに微かに桃色が色づいている。それがまた、お世辞にも似合っているとは言えない有様で、思わず太郎は眉を落とす。
「まずいな……。」
 慌てて手の甲で拭おうとするが、
「待て、山田。口紅は、そんなんじゃ落ちないんだ。」
 智がそれを止めて、椅子から立ち上がると、鏡の前のチェストにおきっぱなしになっている母とサチ子の化粧道具袋をガサガサとひっくり返し始める。
「おいおい、里中──……っ。」
 勝手にあの二人の道具を触っていいのかと、そう慌てる太郎に、大丈夫だと──どこかうんざりした様子で智は頷く。
「さっき、お袋とサッちゃんにさ、ああでもないこうでもないって、好き勝手に塗られては拭われて──ってしたたから、わかる……って、ああ、あったあった。」
 コレだ、と取り出された、太郎にはただの化粧品のビンにしか見えないものを取り出して、智は近くのティッシュを取上げると、それにビンの中身を振りかけて、ほら、と太郎に差し出してくる。
「クレンジング。」
「……ん、ああ。」
 思わず受け取り──そういえば、サチ子もどこかへ出かけた後に、良くこれで顔を拭っていたことを思い出す。
 そうか、何を顔につけているのかと思っていたが、アレは化粧を落とすためのクレンジングだったわけだ。
 なるほど、と思いながら太郎が受け取ったソレを口に当てると、ひんやりと湿った感触がした。
 そのままグイと乱暴に拭い取ると、見下ろしたティッシュに薄い桃色の花が咲いた。
「智、これを捨てるゴミ……。」
 箱はないかと、そう問いかけるつもりで視線をあげた瞬間、太郎は思わず息を呑んだ。
 目をあげた先で、智はちょうど、出したものを乱暴に仕舞い込んでいるところだった。
 その、白いウェディングドレスの裾が広がる後姿──、そういえば、ドレスを着た智の後姿を見るのは、これが初めてになるのだと、なぜか気が動転した。
「え、ゴミ? その辺りにゴミ箱がなかったっけ?」
 首を傾げて、智が出入り口の辺りを指で指し示す。
 そのままくるりと反転する智の背が、今度は鏡に映った。
 白いドレスは、大きく背中が開いていて──おそらく、三太郎の趣味であろう──、肌色が花模様の刺繍がされたレースで覆われている。
 クッキリと際立つ肩甲骨と、すんなりと続く項からの背中のラインに、ムクリとこみ上げてくる欲望に、慌てて太郎は智が指差した方向にクルリと体を反転させた。
 基本的に、素肌を見せるような服を着ない智だからこそ、身構えもせずに見せられた、普段決して見ることのない素肌の背中に、ドキドキと胸が鳴る。
 その上、彼の背後で守るナインの誰も彼もがそうなのだが、太郎も多聞に漏れず、智の背中が好きだった。
 背番号「1」を背負う、小さくてしなやかで、それでも頼りがいのあるその背中。
 彼の背の、背骨を上から下へ這うようにして口付けながら、滑らかな肌を味わうのだけは、自分の特権で。
「………………──────っ。」
 思わず口元を掌で覆って、落ち着け、と心の中で三回ほど繰り返してみた。
 すこしだけ冷静になった胸の内で思うのは、昨日、背中にキスマークを残さなくてよかったな、と言うことで──思う端から、「全然冷静になってない」と自分で突っ込んでみた。
 照れ隠しのように口元を歪めながら、智に示されたゴミ箱の中に、ポイ、とティッシュを放り込み、ふぅ、と息を一つ吐いたと同時。
「──……ぅあ…………。」
 うめき声のような、しまった、というような──そんな響きの篭った声が、背後から聞こえた。
「智?」
 慌てて振り向いた先で、智は両手を鏡の前の棚に付けて、鏡に映った自分の顔に、苦々しい色を向けている。
 そしてもちろん、鏡に顔を向けている以上、振り向いた太郎の目に飛び込んできたのは、智の背中だった。
「………………っ。」
 一瞬、息を呑みかけたが、それよりも智が浮かべている表情のほうが気にかかる。
 なんとも言えない、苦虫を噛み潰したような表情の彼の元へかけよると、肩に手を置き、そ、と智の顔を覗きこんだ。
「どうした? 針が残ってて、突き刺さったりとかしたのか?」
 ──これは、実を言うと、太郎が試着したときに起きたことである。
 やせた人ならば刺さるはずがない位置にあった針が、プッツリと刺さってしまい、ちょっぴり怪我を負ってしまったのである。
 それもまた、結婚式を控えた新郎新婦には、ありがちなトラブルなので、恐縮がる式場の人には笑ってすませたが──さすがに本番の今日、針が残っているのはしゃれにならないぞと、厳しい顔で智の顔を覗きこんだ先。
 智は、パールピンクの唇を、キュ、と横一文字に結び──、
「……外れた…………。」
 小さく、零した。
「────……は? はずれたって……何がだ?」
 意味が分からず問いかえした太郎に、智は微かに目元を赤らめながら、小さく、
「………………ガーター………………。」
「……………………………………………………。」
 思わず太郎の頭の中で、岩鬼が勘違いしてくれた光景がグルグルと回った。
 すなわち、一同でボーリングに行って、玉を投げたらガーターコース一直線だとかどうとか。
「って、智、まさかつけてるのかっ!?」
「しょうがないだろっ! 三太郎がどうしてもガータートスしたいって、よりにもよってお袋とサッちゃんに言っちゃったんだからっ! なんかあれよこれよという間につけられたんだよっ!!」
 なみだ目で叫ぶ智が、バンッ、と棚を叩くのに、太郎はどうしようもなくて胸の内で溜息をついた。
 さすがは三太郎──誰に言えば、実行されるのか、きちんと分かっている。
 それと同時、ガータートスを実行した後のガーターベルトは、ちゃんと取った人間から回収しておかなくてはいけないと、太郎は胸に刻み込んでおいた。ちなみにこの場合、智にその現場を見つかると、目の前でライターの火であぶってくれることはまちがいなしである。
「このままじゃ、歩くたびにストッキングが落ちるよな……。」
 そのストッキングがまだ気持ち悪い、と唇をゆがめる智に、
「って、智、直し方……わからないのか?」
 太郎は、困ったように眉を寄せ、彼を見下ろす。
 智はその答えに、キリ、と奥歯を噛み締めた。──普通の男なら、ガーターベルトの止め方なんて知らなくても当たり前だろうが、智は先ほど、サチ子と加代によって実演されたため、知っている。
 問題は、ソコじゃない。
「なお、せるけど──どうやって直すんだよ、このドレスで。」
 広がりを持つドレスは、当たり前だがワンピース型で、素足に触れようと思ったら、裾から手を突っ込むしかない──が、その裾は床に広がっているほどの長さで、なおかつかさばる。
 ちょい、と指先でドレスを軽く持ち上げる智に、確かにこれじゃ、近づくこともできないなと、太郎は苦い笑みを刻む。
「サチ子かお義母さんを呼んで来ようか。」
 先ほど出て行ったばかりだけど、おそらく二人とも、階下の招待客用のドリンクルームで、ジュースでも飲んでいるころだろう。
 きっと微笑たちを巻き込んで、いかに智が綺麗に仕上がったのか、自慢している頃に違いない。
 そんなところへ行って「里中のガーターベルトが外れたから、つけてやってくれ」なんて言ったら、なんと誤解されることか分かったものじゃないが、それが一番いいだろう。
 そう思って尋ねた太郎に、智はしかし、しっかりと首を振った。
 拗ねたように頬を火照らせ、智はジットリと太郎を見上げる。
「サッちゃんと母さんに、そんなの頼めるわけないだろ……。」
 それから、指を伸ばして、クイ、と太郎の服の裾を引っ掛けると、
「だから、山田、頼むよ。」
「──……って、えーっ! お、俺がかっ!?」
 すがるような目を向けられて、太郎は思わず一歩後ろに下がった。
 そんな彼に、そう、と智は頷くと、片手でドレスを少しせり上げ──けれどかさばるドレスは、表層面だけを引き寄せただけで、まったく素足は見えなかった。
 そのスカート部分を見下ろし、智はジットリと太郎を見上げる。
「だって、どう考えても俺じゃ無理だろ。
 左足のほうな。」
 言いながら、彼は左足を前に向けて差し出した──つもりであったが、嵩広がるドレスの下では、分からない。
 そのドレスを、がんばって引き寄せると、ようやくローヒールの靴先が見えた。
「い、いや、それはやっぱり──まずいだろ、里中。」
 頬を赤らめ、恥らう太郎に、何がだよ、と智は目を瞬く。
「それじゃ、岩鬼や三太郎を俺のスカートの中に入れろって言うのか? それこそ問題だろ。
 ほら、早くしないと、時間がなくなるぞ。」
 ドレスのスカートが捲れないと、そう訴える智の手と、彼の着ているドレスを見下ろして──太郎は、一瞬の沈黙の後。
「……分かった。」
 小さくそう呟いた。
「頼むな、太郎。」
 無邪気に微笑む智の笑顔に、ニッコリと笑い返し──太郎は、その場にしゃがみこんで、智の着ているドレスの裾をつまみあげると、
「それじゃ……ちょっと失礼するぞ。」
「そんなこと断るなよっ! なんか恥ずかしいだろっ!」
「あはははは。」
 顔を真っ赤に染める智に、小さく笑い声を漏らして、太郎の頭がドレスの中に消える。
 智はそれを無言で見下ろし、広がるスカートの裾に入りきらない太郎の下半身を見守った。
 その一瞬後、もそり、と動いたスカートの中で、そ、と脚に触れる感触があった。
「左足だったな?」
「う……うん。」
 思わずビクリと体を震わせかけたが、太郎の冷静な問いかけに、上目遣いで天井を見つめて、それをこらえた。
 ──なんだか見えてない状況で、突然触られると、ドキドキする。
 そんな不謹慎な場合じゃないんだけど。
 首を竦めるようにして、智はそんなことを思いながら、太郎が自分の足に触れる瞬間を待って、グ、と奥歯を噛み締めた。
 だがしかし、ツ──と、太郎の指先が左足の膝の上辺りに触れた瞬間、
「ひゃっ。」
 思わず声があがって、腰が跳ね上がった。
 そんな智に、
「すまん、くすぐったかったか? もう少し辛抱してくれ。」
 すまなそうな声で太郎がスカートの中から答えてくれる。
 その声を聞きながら、うん、と頷きながらも──、なんだか落ち着かない気持ちで、モゾ、と肩を揺らす。
 太郎が触れているのは、多分太股の中央くらいから落ちかけたストッキングだと分かっているのだが──その先をつまみあげて、ガーターベルトで挟もうとしているのは分かるのだが。
「……………………うん、早くしてくれよ……。」
 なんとなく、やっぱり見えないのは、落ち着かない。
 視線を天井にさまよわせて、ドレスのひらひらのレースを指先でクリクリと弄りながら待つこと少し。
 ストッキングが上に引き上げられる気配がして、パチン、と言う小さな音が、聞こえたような気がした。
 その音に、ホッと智は胸を撫で下ろし、太郎がスカートから出てくるのを待った。
 しかし、一瞬置いても、スカートの中が動く気配はない。
「──やまだ?」
 何をしてるんだと、そう問いかける先──不意に、ゾクン、と首筋があわ立った。
「……っ!?」
 思わず息を呑んだと同時、チュ、と、内腿に生ぬるい感覚が一つ、落ちた。
「や……山田っ! なっ、何やってるんだよっ!!」
 慌てて智は、その場から後ず去ろうとするが、それよりも早く腿の膝裏を掬われるようにして引き寄せられる。
 グラリ、とかしぐ体を必死でバランス取った瞬間、今度は先ほどよりも際どい場所に口付けされる。
 さらに強く吸われて、ブルリと体が震えた。
「……んっ、ちょ……た、太郎……っ。」
 焦りながらドレスの上から太郎の動きを止めようとするが、太い指で膝下から上へかけて、皮膚の表面をくすぐるように柔らかになぞり上げられ、ゾクゾク、と背筋が震えた。
 そのまま、ぐ、と引き寄せられたかと思うや否や、
「──……ひゃぅっ。」
 下着越しに感じた生暖かい感触に、首がすくんだ。
 太郎の頭がある辺りを手の平で押さえようとするが、幾重にも重なったドレスは、嵩が大きすぎて邪魔なばかりだ。
 なら自分でドレスの裾を引き上げようにも、やはり嵩が大きすぎて行動すら起こせない。
 そのまま智が動揺している間に、太郎はねっとりと舐めあげた物に、下着の上から軽く歯を立てた。
 全身に走る電撃のような感覚に、ビクンッ、と、背中が反り返った。
 あ、と零れかけた声が、衝撃のあまり、ただの吐息に代わる。
 そのまま、右手の平で内腿をなで上げられ、左手を後ろに回される。
 引き締まった双丘をやんわりと揉まれ──さらにその指先が、割れ目を探り始めるのに、
「駄目だって……だって、時間……っ。」
 焦って、後退させようとするが、そんな智の抵抗を阻むように刺激で立ち上がりかけた物へ、さらに強い刺激が与えられる。
 かり、と噛んだ後、先端を口に含んで舌で濡らす。
 しっとりと湿った下着が、立ち上がりかけた物と太郎の口とに挟まれて、気持ちの悪い感触を残す。
 けれど同時に、下着越しの愛撫が、じれったい快感を生み出しているのも確かで……、
「たろ……う……っ。」
 助けを求めるように、智はキュ、と唇を引き絞って、顔をゆがめる。
 太郎の頭がある辺りに手の平を押し付けるが、必死に押し付ければ押し付けるほど、返って来る感触は布のざらついたものばかり。
 自分が思っている以上に、手の平に力が入っていないのだと、判断するほどの余裕は、すでに智にはなかった。
 キュ、と目を閉じて、高波のように押し寄せてくる遠慮のない快感を、必死でこらえようとするが、体の悦いいところのすべてを理解している男相手に、抵抗できるはずもない。
「智……。」
 ささやくような吐息が、鋭敏になっているソコを刺激する。
 下着の中で、トロリと先走ったものが出てきた予感がして、智は弱弱しくフルリとかぶりを振った。
 その視線の先──鏡に写った自分の、白い頬が赤く火照った……潤んだ瞳に、キュ、と智は唇を引き結ぶ。
「……太郎──……っ。」
 小さく──かすれた声で名を呼び、智は肩を竦める。
 静かな部屋の中、ピチャ、と音がするのは、太郎の唾液と自分の先走りで濡れた下着の出す音だ。
 それが恥ずかしくて、智は下唇を軽く噛み締める──けれど、すぐにそれも、下着の裾から太郎の指が入り込み、
「──……はっ……っ。」
 熱い吐息が零れて、解けてしまった。
 太郎のしっかりとした手の平が、太股の裏から上へ入り込み、指先が蕾の入り口に直接触れた。
「──……っ!」
 ビクン、と体が揺れて──智は、キュ、と強く目を閉じて……諦めたように、吐息を一つ。
「……たのむ…………たろう………………。
 下着……汚れるから──脱がして…………っ。」
 震える声には、甘いすがるような響きが宿っていた。
 太郎はそれを聞いて、たっぷり塗らした下着から口を離し──そのまま、一部分だけ濡れてぐしょぐしょになったそれを、引き摺り下ろす。
 起ち上がった物が降ろした下着に引っかかった瞬間、
「んぅっ。」
 智は、上半身を傾けて、キュ、とドレスを握り締める。
 脱がした下着が足首まで下ろして、小刻みに震える彼の足をソと持ち上げて、それを脱がす。
 そして改めて、太郎は見慣れた目の前で、フルフルと震えている物へ、舌を這わせる。
「……んっ。」
 ねっとりとまとわりつく感覚に、智は震えを抑えきれない。
 慣れた様子で確実に智のいいところへ口付けを落とし、舌を這わせる太郎のそれに、脚がガクガクと震え始め、智は必死で踏ん張ろうとするが、
 すっぽりと口に含まれ、吸い上げられた瞬間、ガクンッ、と膝が折れた。
「──……ぅあっ。」
 こらえきれずに、ガクリと体を前のめりに崩れさせる智を、太郎は彼の裏膝で受け止めると、そのまま彼を床の上に降ろしてやった。
 ぺたり、と、むき出しの尻が、床に広がったドレスの上に落ちる。
 冷えた感触に、キュ、と膝が閉まりかけるが、やんわりとそれを太郎の手で開かれ、一度離れた太郎の口が、再び中心に触れてきた。
 チュ、と先端に口付けが落とされ、
「……あっ。」
 喉が反り、甘い吐息が零れる。
 舌先でゆっくりと舐めあげられて、脚がビクビクと揺れた。
 脚を捕らえていた太郎の手の平が、ゆっくりと足の根元をなで上げて、先走りを滴らせ始めている竿へと、添えられる。
 そのまま、射精を促すように指先で軽く扱かれて、
「……んんっ……たろ……、も……っ。」
「まだだ、智。」
 小さな懇願を聞かず、太郎はそこで絞り込む。
「……つっ。」
 片目を眇めて唇をゆがめる智に、太郎は彼の物から口を離し、指で揺るやかに刺激を与えながら、
「智──ゆっくりと背中を倒して……そう。」
 智の形よい尻とドレスの間に手の平を差し込み、尻を浮かせると、再び蕾に刺激を与え始めた。
「たろう──……。」
 紅潮した頬が横にすると、ひんやりとした床が頬に当たった。
 その感じなれない感触に、ここがいつもの寝室とは違うのだと──それどころか、自分たちは今からココで、結婚式を挙げるはずだというのに。
 ゾクゾクと、背筋を駆け上がってくる快感に、必死に耐えるために唇を噛み締めるけれど……、床に広がるドレスの中から与えられる快感に、声が堪えきれない。
「智……力を抜いて……。」
「ん……。」
 太郎の指先が、濡れた感触と共にクルリと蕾の周りを一周する。
 こんなところで──という気持ちに、一瞬息が詰まったけれど、今更後に引けるわけもなく、智は静かに息を吸い……それから、ゆっくりと息を吐き出していく。
 指先がゆっくりと中に入ってくる感覚を覚えながら、智は上がろうとする息を必死に抑え──ゆっくりと、ゆっくりと息を吐いていく。
「あ……んん。」
 途中で、カリ、といつものように中の一点を掻かれて、腰が跳ねる。
 太郎の舌が、自分の物を下から上までゆっくりと舐めあげ、横から甘噛みされて。
「んぁっ。」
 小さく、声が、漏れる。
 それを待っていたかのように、太郎は一気に指を根元まで埋め込んだ。
「ちょ……まって……太郎……っ、そんな急に……っ。」
 驚いて腰を引こうとするが、それを許すことはなく、太郎は逆に智の腰を引き寄せて、彼のものをすべて口に含みこむと、前と後ろで同時に刺激を与え始める。
 唾液と先走りの液が滴り、抜き差しを始める蕾で、乱らな音が立ち始める。
 耳に届く自分の弾む息の呼吸音と、その粘着した液の音──それに、羞恥を覚えるが、その恥じらいも誰もここに居ないということと、熱いうねるような快感の前に薄れていく。
 太郎を求めるように伸ばされた手は空を掻き、そのまま落とされた指先が、白いウェディングドレスの表面を摘み取る。
 キュ、と握り締めた指先が、カタカタと微かに震えた。
「……ふ……ぅ……っ……ん……っ。」
 漏れる声が、まとわりつくような甘さを含んでいると思った。
 だんだんと激しくなる指のが、いつの間にか二本に増やされていることにも気づけないまま、さらに求めるように自然と腰が動き始める。
 そのまま、床に頭をスリ、とこすりつけた刹那。
 最後を促すように、太郎が強く智のものを吸い上げた。
──と、同時。
「うあ……っ、あ…………んんんっ。」
 こらえきれずに、智は彼の中へ、欲望を吐き出した。
 あまりに強烈な快感に、痛みにもにた快楽が、腰から頭へと突き抜ける。
 それを感じながら、智はコツン、と床に後ろ頭をぶつけた。
 はぁ、とあがる息が、けだるい色を放つ。
 智が吐き出したものをすべて飲み込んだ太郎が、ゆっくりと──名残惜しげに、智の物から口を離し、指先がトロリと中から抜け出る。
 その排泄感に、ゾクゾクと背筋が震え、智はもう一度熱い息を零した。
 射精後の放心状態のまま、ぼんやりと焦点の合わない瞳で天井を見つめていた智だったが、ドレスの中でモゾリと太郎が動く気配を察知して──彼が、どうやらドレスの中から出て行こうとしているようだと気づいて、
「──……っ。」
 バフッ、と、膝を閉じた。
「……わっ……さ、智?」
 うまく膝で太郎の顔を挟むことに成功したらしい。
 驚いたような太郎の声を聞きながら、智は乱れた息を必死に整えながら、上体を起こす。
 そうしながらも、両膝で捕らえた太郎の体は解放せず、両手で自分の体を支えながら──、
「太郎…………っ。」
 低く、彼の名を呼んだ。
「────……智……。」
「……何考えてるんだよ……っ、こんなところで……っ!」
 思いっきり脚の力で太郎の頭を挟みながら、キッ、とドレスのふくらみを睨みつける。
 そんな智に、太郎は眉を落として──、
「いや……すまん、つい……。」
「つい、じゃないだろっ、つい、じゃっ! もし、サッちゃんとかお袋とか入ってきたら──……っ。」
 ドレスの中に太郎の頭を入れて、あえいでいる姿なんて見られたら──絶対、何を言われるか分かったものじゃない。
 拗ねたように口を尖らせる智に、太郎はなんとも困った顔をして、自分の顔を挟む膝の感触を振り払いたくても振り払えない誘惑に、どうしようと、口をへの字に曲げた。
「いや、それはそうかもしれないが──智。」
「なんだよっ。」
「……この状態は、その……色々とまずいから、とりあえず、離してくれないか……?」
 視線を少し落とせば、丸見えだから。
 あえてその先は口にしなかったが、智はその事実にハタと気づいたらしい。
 慌てて彼は、パッ、と膝を開いて、太郎を解放する。
 その中で、膝を開かれても、まるで誘われてるみたいだと、太郎が内心で思っているのはさておき。
 智は、ずるずると後退してドレスの中から太郎を追い出すことに成功した。
そのまま、ペタンと床に座り込んで、智はジットリと太郎を睨み挙げる。
 その目元が興奮の色を残して潤んでいるのを見下ろして、太郎は苦い笑みを刻んだ後、
「すまん、智。」
「悪いと思うなら、するなよ……っ。」
 キュ、と目じりを吊り上げて、智は太郎を睨み挙げた後──それから、なぜか頬を赤く染めて、ツイ、と視線を逸らす。
「…………そんながっつかなくても、俺たち、今夜……新婚初夜なんだぞ?」
 ──口に出した瞬間、われながら恥ずかしい台詞だと気づいて、智はボッ、と音がするほど真っ赤になった。
 そして慌てて、目を見開いている太郎に向けて、ブンブンと両手の平を左右に振った。
「悪いっ! 今のなし! 聞かなかったことにしてくれ!!」
 太郎は、真っ赤に染まった智の顔を見つめて──穏やかに微笑みながら、そ、と彼の手を止めた。
「智──うん、そうだな。」
 恥ずかしそうに、どこか悔しそうに頬を赤らめる智に、
「続きは……式が終わったあとだな。」
 太郎は、嬉しそうに笑って続けた。
 瞬間──、
「………………って、あのな…………っ。」
 思わず、反論しかけた智であったが──、満面の笑みを浮かべる太郎の顔にぶつかって、開きかけた口をパクパクと開け閉めした後……結局、その口を閉じて、
「…………あとでな。」
 小さく、そう、続けた。
──結局、山田には勝てない。
 胸の中で、幸せの溜息を一つ、零しながら。















+++ BACK +++


こんなのが花婿の常識だったら、花嫁さんは皆大変です。
それはさておき、結局サクラサクと同じくらいの長さになってしまいました。

ということで、やってしまったなー……って言う感じですか?
っていうか、やりたいほうだいですな……!!
でも18禁じゃないよね〜? まだ。

ハイハイ、お後がよろしいようで──。

ちなみにどうでもいいことを突っ込むとですね。(以下反転)
多分智は、ノーパンで結婚式になるんじゃないかなー、とか思うんですが……(←もういいからやめなさい)
だと思うんです!(←本当にどうでもいいことだヨ……)

本当はこれに関わるオチもあったんですが、もういいや……これで………………。
やっておしまいだよ、もうヤマなしオチなしイミなしの醍醐味ですよ!!





「………………お兄ちゃん…………。」
「ん、どうしたんだ、サチ子。」
「なんで里中ちゃん、あんなに疲れた顔してるの?」
「あら、それになんだか、せっかく綺麗にした髪の毛が、ちょっと乱れてるような気がするわね……。」
「それを言うならお母さん、なんか里中ちゃんのウェディングドレス、あの辺りにシワが…………。」
「なんだかとっても、色っぽいわよ、智ったら。」
「………………………………え、そ、そうか? きっとサチ子が色々里中を困らせるから、疲れたんじゃないか?」
「なんでそこで目を逸らすの? ねぇ、お兄ちゃん? 私とお母さんが下でジュース飲んでる間、何やってたのっ!!!?」
「まぁまぁ、サッちゃん、そんなヤボなことを聞いちゃダメよ。
 きっと後で控え室に行って、ゴミ箱を見たら、すぐに分かることなんだから。」
「……………………………………。」

お義母さんは、怖い……。
山田は心の中のデータに、そう新たな情報を刻み込んでおいた。