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SIXTEEN OVER STYLE












「……やまだ………………。」
 大きな窓から差し込む、淡い月明かり。
 夜の暗闇をその巨大な長方形のガラスに一面に映し出す窓は、近くに立てば地上の星明りがどこまでも見渡すことができた。
 けれど、その絶景の夜景よりも何よりも、目の前で恥らうように頬を染めて、自分の足を跨いで膝を突く彼の裸身のほうが、ずっと綺麗で魅惑的だった。
「里中。」
 小さく呼びかけると、胸元まで捲り挙げたシャツを掴んだ彼の手が、ピクリと揺れた。
「……あのさ……………………もう、脱いで、いいか?」
 照明を落とした薄暗い部屋の中、窓からの、本当に頼りない明かりと、ベッド際の極限近くまで落とした明かりが唯一の光源──その中、白い肌が浮き立つように、明るく見える。
 見下ろした自分の体が、ベッドに敷かれた白いシーツよりも際立って見えて──それが恥ずかしくて、里中はあえてフイと視線を横にずらしていた。
 視線の先には、ツインルームの片方のベッドがある。
 ベッドメイキングされたまま、決して誰も寝ることなく、明日の朝を迎えるそれだ。
 初めてホテルを使ったときは、片方だけ寝乱れたベッドがイヤに生々しくて、ひどく居心地の悪さと恥ずかしさを感じたものだった。──いや、それを言うなら、今もあの居てもたってもいられない羞恥心は、多少なりとも感じるのだけど。
「まだ駄目だ。もう少し我慢してくれ。」
 山田の手の平が、スルリと里中の露になった背中から腰のラインをなで上げる。
 ただそれだけの動作なのに、敏感になった肌は、ビクン、と大きく跳ねる。
 指先で掴んだシャツが、少しだけ解けて落ちかけるのに、山田が苦笑を浮かべてそれを捲り上げ、里中の手で再び持たせる。
「──んで……だって。」
 全裸になるよりも、一枚だけ残っているほうが恥ずかしいと、何かで聞いた覚えがあるが、それは本当だと思う。
 下着も剥ぎ取られている状態で、ただシャツだけ着こんで──それすらも、胸元まで捲りあげているような状態で……暗くてまともに見えない状態だと分かっているのに、視姦されているようだと、羞恥がこみ上げてくる。
「里中──久しぶりだから、ゆっくり見たいんだ……駄目か?」
「……………………ずるい。」
 山田は、ずるいと思う。
 そんな表情で、そんな風に笑われて──そんな山田に逆らえない自分に、なんだか悔しいような、照れくさいような感情を覚える。
 山田の視線を感じながら、里中は羞恥に満ちた表情で、キュ、と唇を噛み締める。
 そんな里中に、微笑みが零れて、山田は手のひらでゆっくりと里中の肌をなで上げる。
 里中は、唇を更に噛み締めて上りあがってくるような快感を必死に堪えて、己の肌に顔を寄せてくる山田の顔を見下ろす。
 そんなにジッと見つめるなと、そう言って山田の頭を抱き寄せたいけれど、山田はそれを決して許してはくれない。
 しなやかな筋肉のついた里中の肌を、会っていなかった時間をうずめるように、じっくりと眺めながらなで上げる。
 その、少し荒れた手の平が、ざらついた感触と共に肌に引っかかるたびに、ビクリと脚が震える。
「里中。」
 呼びかける唇が、肌に吐息を吹きかけ、そのまま唇が触れる。
「ん……っ。」
 眉を寄せる里中に、山田は小さく含み笑いを持たせるのに、
「──バカ……っ、あんまり、焦らすなよ……っ。」
 歯噛みするように叱咤すると、山田は名残惜しげに手の平で背中をなで上げた後──、
「里中……ゆっくり……。」
 ようやく山田は、そう言いながら、里中の背中を、自分の方へと引き寄せた。
 背中をなでていた手が、そのまま下へ降りて行き、双丘をなで上げるのに、
「や……っ、まだ──……っ。」
 驚いたように身を引き離そうとする里中を、今度は力を込めて抱き寄せる。
 自分の肩口に彼の額を押し付けるようにしながら、その形良い耳元に唇を寄せて、舌先で耳の輪郭をなぞりあげると、たわいなくガクリと膝が折れ、里中は全身を預けてきた。
「すまん、里中──我慢できない。」
「──……ん……っ。」
 ささやくと、ゾワゾワと里中の体に鳥肌が立つのが分かった。
 それをなだめるように、ゆっくりと手の平で撫でながら──クルリと指先で里中は彼の蕾を指でなぞる。
 キュ、と、自分にしがみつく手に力が入る里中の肩や耳に、何度も口付けを落としながら、
「里中──……。」
 山田は、里中を溶かすためだけに、優しく甘く、彼の耳元に呟きを注ぎ込んだ。












「ん……っ。」
 あがる息の中、必死で整えながら、繰り返す。
 奥まで、貫いて。
 出て行くときに──少しだけ、息を、吸って。
「──……ぅあっ。」
 キュ、と力を入れただけなのに、思った以上に抉り取られる感覚に、ガクン、と膝から力が抜けた。
 まだ半分も自分の中から抜けていっていないのに、そのまま崩れるように山田の上に落ちる。
 背中まで貫かれるかと思うほど深く、中を抉られて、里中はキュ、と唇を噛み締めた。
「さ、さとなか……。」
「…………わるい。」
 はぁ、と息を整えて、もう一度山田の腹の上に手を置いて、膝に力を込めて……ゆっくりと、自分の中から山田の物を抜き出そうとする。
 その、内壁をこすりあげる感触に、ゾクゾクと背中が震え、嬌声が唇から零れそうになる。
 それをこらえながら、ゆっくり……ゆっくり、自分の内襞が彼のものに絡み付いて、名残惜しげに離れていくのが分かる。
 中まで入った瞬間に、締め上げて、それから……出て行くときに、少しずつ力を抜いていって。
 頭の中で復唱するのだけれど、どうしてかうまく行かなくて、
「つ──……っ、さ、里中……。」
 グ、と眉間にシワを寄せるようにした瞬間、山田から腕を掴まれた。
 ハッ、と目を上げると、つらそうに顔を歪めている山田が、
「里中……もう少し、力を抜いてくれ。」
 かすれた声で、そう囁いて来る。
 その声が、彼の体を通して、中にピクピクと響いてくる。
「……ぇ……あ、す、すまん。」
 つらそうに──あがる息を必死に整えながら、里中は喉を上下させる。
「…………何をそんなに焦ってるんだ、里中?」
「──……あ、焦ってる……わけじゃ…………。」
「久しぶりだから……俺が早急すぎたか?」
 すまなそうに眉を寄せる山田に、里中はこれだけはきっぱりと、つらそうに片目を歪めて答える。
「それはない。」
 焦らしに焦らしまくって、不安にさせてくれたくせに、良くも言う。
 久しぶりだからと、確かに前座らしい前座はなかったけれど──その代わり、彼は手と舌を使って、泣いてせがむまで、決して内には来てくれなかった。
 何度しても、どれほど体が慣らされても、彼そのものが入ってくる瞬間だけは、体が強張るのは、どうしても直らない。
 欲しいと、そう自分からすがってねだるくせに、それでもソコに宛てられた瞬間、体はビクリと震えるのだ。
 山田はそれが分かっているから──中に入ってくる瞬間の、最初の衝撃に身を震わせる里中のために、いつもたっぷりとソコを解してくれる。
 けれど今日ばかりは、解されれば解されるほど、自分の物が山田を咥え込む時に、緩くなりはしないかと、不安で仕方がなかった。
 だからもういいと、早くと、そう願ったのに──、
「やまだぁ……っ。」
 山田は、焦らして焦らして、トロトロに溶けそうになるほどまで、追い詰めてくれた。
 だからこそ、今、必死に──こうして、締め付けているわけで。
 けど、締め付ければ締め付けるほど、中で感じる山田のものが、リアルすぎるくらいリアルに生々しく感じてしまって、いつもよりも早く息があがった。
 きつそうに眉を寄せる里中に、山田は下から心配そうに見上げる。
 自分の上に跨ぎ、白い裸身をさらけ出しながら……今日の彼は、そんな姿に恥じるよりも、無心に快楽を追うよりも、なぜか快感ではないつらそうな表情をしている。
「──里中。」
 体に手を置いて、辛そうに眉を寄せながらそれでも咥え込んだ物を締め付ける里中に、山田は同じように眉を寄せつつ、彼の動きを止めるように己の元へ上半身を引き寄せた。
「わっ、や、山田……危ないだろっ……くぅん……っ。」
 甘い息が、里中の口から零れる。
 その、鼻にかかった音色に、腰に熱が集中する。
 里中の中で、ドクン、と大きく脈打ったソレが、けれど痛いくらいの締め付けを覚えて、ズキンと痛んだ。
「あんまりキツク締めすぎると、俺のほうが先にイッちゃうから、もう少し……緩めてくれ、頼むから。」
 このままじゃ、食いちぎられそうだ。
 そう苦笑を滲ませる山田に、なだめられるように唇を舐められる。
 それに、舌を絡めて答えながら……ん、と鼻から息が漏れた瞬間に、ズ、と強引な体勢で自分の中から彼が抜けていくのが分かった。
「ひゃっ。」
 一気に根元から先端まで抜かれて、ズキンと傷むほどの快感が走る。
 それにブルリと体を震わせると、山田は脂汗がにじみ出た里中の額に指を当てて、それを拭い取ると、
「里中──……、今日は、もう、やめておくか?」
「! なっ、どうしてだよ……っ、だってお前、まだぜんぜん……っ。」
 羞恥に頬を染めながら、そう訴える里中にけれど、山田は穏やかな笑みを張り付かせながら、汗にまみれた里中の頬を手の平で覆う。
「いや……その、里中、ずっと緊張してるだろう? これじゃ……おまえの中を傷つけるだけだろ?」
「──……っ、いや、これは……緊張してるわけじゃ……なくって………………。」
 なぜか里中は、ツイ、と視線をずらす。
 そんな里中に、山田は困ったように眉を寄せながら──チュ、と彼の額に口付けを落とす。
「どちらにしても、無理はしなくてもいい。
 里中……今日は、中じゃなくていいから。」
 ──な? と、額に手を当てて、髪をなで上げる山田に、里中はキュと唇を噛み締めて、俯いた。
「………………────なんで…………。」
「ん?」
「だって俺……、山田が気持ちよくなるように、がんばったのに……。」
「──さ、里中?」
 締め付けが悪かったら、山田が飽きるかもしれないと思って、一生懸命「本」に書いてあったようなテクニックも使ってみたのに、どうしてうまくいかないのだろう?
 痛いだとか、食いちぎられるだとか──その上、抜かれた瞬間だって、山田は十二分に役に立ちそうなくらい硬くて大きいのに。
「やまだ……。」
「────…………里中……その、頼むから……。」
 キュ、としがみ付いてくる里中に、山田は困ったように苦笑いを浮かべると、ゆっくりと彼の体を自分の手からはがし取り──ハッと目を見張る里中の額に、自分の額をコツンとぶつけた。
「あんまり、オレを誘惑しないでくれ……お前がどれほどイヤがっても、無理強いをしてしまいそうだ。」
「………………山田──。」
 微かに涙の滲んだ里中の目元に、唇を寄せると、彼は静かに目を閉じてそれを甘んじて受け入れた。
 そのまま、口付けの位置をずらして、目じりから頬に向けて口付けると、
「里中──お前は、そのままでいいんだ…………。」
「…………──気持ちよく……ない?」
 心配そうに尋ねてくる里中に、山田はますます苦く渋い笑みを広げる。
「──……里中……。」
 そのまま、間近で里中の目をジと覗き込み、山田は苦い色を口元にさらに広げた。
 里中は、そんな山田の目を見つめ返して──微かに頬を赤らめて、首を傾けるようにして彼の唇に、チュ、と口付ける。
「──……だって俺……、山田に飽きられたかと思ったんだ。」
「飽きるわけないだろ。
 ──あのな、里中。」
 再び里中を抱き寄せる手に力を込めて、山田は彼の滑らかな頬に手の平を当てる。
 恥ずかしそうに目を俯けた里中の顔を、クイ、と自分向けてあげさせると、
「………………お前との相性は、最高だと思うぞ。」
 照れたように微笑む。──が、しかし、里中はそれを受けて、照れ隠しのように唇を尖らせる。
「──なんだよ、誰かと比べてるのかよ?」
 そんな比べる相手が居ないのは、里中だって分かってるだろうに──。
 山田は苦い笑みを刻んで、里中のとがった唇に、ちょん、と己のソレを押し当てた。
 里中の背を抱きしめていた手を、ゆっくりと下に下ろして……先ほどまで自分が入っていた場所へと、指を這わせる。
「ん……。」
 ピクン、と揺れる里中の中へ、再び指先を埋めていきながら、
「お前の内で──いいか?」
 里中の耳に息を吹きかけるようにして、そう問いかけると、里中は顔をゆがめて頬を染めて、そんな山田の顔を見下ろしたが、すぐに小さく微笑んで、コクリと、頷いた。
「──……きて。
 俺も……欲しい……。」
 そんな里中の素直な囁きに、山田は破顔してから、彼の背を強く抱きしめ、その肩口に噛み付くように口付けた。
 その頭を掻き寄せ──里中は、脳裏に一瞬浮かんだ「参考文献」の内容を復習しかけたが、それもすぐに再び波打つように押し寄せてきた、鋭敏な快楽の前に、あっさりと掻き消えていった。










────しあわせな恋人達の夜には、「恋愛のバイブル」なんて……たぶんきっと、必要ない。









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やってるだけなので、「SIXTEEN OVER STYLE」。

早い話が、直訳して「やってるだけの16禁小説」ってことですね。
なんか中途半端で終わってるよーな気がするのは、もうそれ以上そのまんまなシーンしか思い浮かばなかったせいと言いましょうか。18禁でしか表現できなかったと言いましょうか。

ちなみに16禁と18禁の違いは、「直接的表現があるかどうか」だと思っています(笑)。