オチ










 ハ、と、弾む息を零しながら、里中はベンチの前でようやく足を止めた。
 長い時間、走りこんでいたことを示すように、足は鉛のような重さを感じていたし、アンダーシャツや髪をべっとりと濡らすほどに汗が湧き出ていた。
 額から頬、頬から顎に滴る汗を手の甲でぬぐいながら、里中はベンチの上に置いたタオルを取り上げる。
 そのまま、太陽の匂いのするタオルに、ばふ、と顔を埋めた。
 微動だにせず、ふぅー…と長い溜息をタオルに零す里中に、ベンチでストップウォッチを片手に待機していた北が、明るい笑顔を貼り付けて、ポン、と彼の肩を叩いた。
「お疲れさん、里中。」
 息がまだ整わない里中は、それにコクリと頷くだけで答えることはない。
 北はそれを気にせず、片手に持っていた計測表を取上げると、それに里中のタイムを書き込み──お、と小さく声を上げて顔を上げた。
 先ほど里中が駆け込んできた入り口から、同じジャケットを着込んだ木下が、フラフラと足取りも怪しく走りこんで(?)来るのが見えた。
 すでに走りこんでいるというよりも、歩いているという表現が正しい様子で、木下はヘトヘトの様相のまま、ベンチの前までやってきた。
「ハイ、ゴール。」
 ベンチのまん前でようやく足を止めた木下に、カチ、と北は持っていたタイムウォッチを止めて、ニッコリ笑いかける。
 そんな北の声に答える元気も持たず、木下はそのまま倒れこみそうになるのをグッと堪えて、ガックリと上半身を折り曲げた。
 両手を膝に当てて、整わない息で必死に深呼吸を繰り返そうとしているのが見て分かるが、一向にあがった息は収まる様子を見せない。
 北はそんな彼を横目で見やり、タイムを書き込むと、ベンチに駆け寄って木下の分のタオルと彼のドリンクボトルを手に取った。
 里中は、ようやくタオルから顔を上げて、ふぅ、と短い息を漏らすと、ぜえぜえと耳障りな音を立てながら、必死で唾液を飲み込んでいる木下を見下ろした。
「なんだ、木下、最近スタミナが落ちてきたんじゃないのか?」
 にやり、と笑いながら、彼はタオルを首からかける。
 今にも倒れこみそうな様子を見せる木下が、なんとか顔を上げて口を開くが、漏れるのは勢いのある呼吸音ばかり。
 そこへ北が駆け戻ってきて、彼の頭にタオルを載せ、さらにドリンクボトルからストローを取り出し差し出す。
「ゆっくり飲めよ、木下。」
 甲斐甲斐しく背中をなでさすってやっている北を見下ろして、里中もベンチにおいてあった自分のドリンクボトルを手に取った。
 ストローを口に加えながら、球場の出入り口にもなっている地点を見据えるが、木下から以降は、まだ出現する様子を見せなかった。
「なんだなんだ、みんな、ずいぶんゆっくりだなぁ。」
 能天気にそう零す里中を見上げて、木下はようやく整い始めた息の下で、もう一度小さく深呼吸を繰り返す。
 心臓が早く脈打っているのが良く分かった。体は鉛のように重いし、喉がからからに渇いて痛いくらいだ。
 なのに、同じ距離を走ったはずの里中は、もうすでにケロリとした顔をしている──微かに白い頬に上気した赤い色が残っているくらいで、いつもの様子と代わりない。
 リン、と背筋を伸ばして立ち尽くす里中を見上げて、木下は大きく顔を歪めた。
「み、んなが……ゆっくりじゃなくって……里中が、早すぎ……。」
 はぁ、と、零れた息が肺に痛い。
「でも、20キロくらいなら、あのくらいのスピードが普通だろ?」
 あっけらかんとして首を傾げる里中に、思わず木下はタイムウォッチを握る北に視線をずらした。
 北はその視線を受けて、無言で肩をすくめるだけだ。
 トップをマイペースに走った里中と、それに必死で付いていこうとした木下の、さらに後続の投手陣がまだ球場に姿を見せていないことが、何よりも現実を語っているような気がする。
──が、あえて木下は里中に突っ込みをすることなく、ガックリとその場にしゃがみこんだ。
「はいはい、どうせ俺は、年相応に体力が減ってきましたよ。」
 軽く肩を竦めるようにして、どこか拗ねた口調で軽口を叩いてやると、里中は軽やかな声をあげて笑った。
「木下のその言い方、三太郎に似てる。」
「じゃ、今年の忘年会で物真似にチャンレジしてみるとするか。」
「三太郎の〜? そりゃ地味だな。」
 あはははは、と明るく笑う里中と木下に、それを言ったら微笑がかわいそうだろ、と北は突っ込んだ後、さて、と顔を上げた。
「木下、国定達とは、どれくらい差がついてたか分かるか?」
「あー……っと、どうでしょう? 折り返し地点で、ずいぶん後ですれ違ったような気がします。」
 ムリをして里中についていっていた自分と違い、ひたすらマイペースに走っていた緒方の顔が思い浮かんだ。
 なら、まだかかりそうだな、と北は顔を歪めてタイムウォッチに眼を落とした。
 木下はそんな彼から視線を外して、両手を地面について仰向けるように背中を逸らした。
 マラソン日和の、上天気な青い空が、眼に映える。
 そのまま木下はドリンクボトルのストローにパクリと食いつきながら、
「あー……ようやく人心地ついたぜ。」
 しみじみ──そう零した。
「そっか?」
 軽く返してくれる里中は、もう一度今のコースを今のペースで走る体力も気合も、充分ありそうである。
「そう。俺、微笑たちが里中のランニングについていくのには気力と根性がいるって言う意味が、今日、ようやく分かったぜ。」
 へとへとだ──と、素直に弱音を吐く。
 ますます意味が分からないという顔になる里中に、北がコツコツとタイムを鉛筆で叩きながら、
「里中は高校の時から、放っておくと何時間でも走りこんでたよな、そういえば。」 今でもそれは健在なのか、と笑う。
 入部当初、土井垣にケンカを売っては、走って来いと言われてそのまま走り続けるという光景も良く見たものだ。
 里中にとっては、「グラウンドの周りを『いい』というまで走れ」というのは、苦痛でもなんでもないようだと、三年の先輩達と話した事実もついでのように思い出した。
「投手は足腰が肝心だから、とにかく走らないとダメだろ。」
「おまえは普通のペースで走ってるつもりでも、あの距離をあのペースで走られると、ついてくのが大変だ〜──って、絶対、みんな思ってるぜ。」
 一気にボトルの中身を吸い上げて、木下はようやくソコで地面から立ち上がった。
 ヨッ、と小さく掛け声をかけて立ち上がると、すかさず里中から「年寄りくさい」と声がかかった。
 うるさい、と眉を寄せながら、木下は球場の出入り口にようやく見えた緒方の姿に、ずいぶん俺も頑張ったものだとポロリと零しつつ、
「山田と一緒に走ってる時は、ローペースに走るくせにな。」
 たまにはその気遣いを、俺たちにも見せてみろよ、と投げやり半分に続ける。
 リズミカルにこちらに向かって走ってくる緒方が、ベンチの前にいる二人に顔をあげて、ニッコリと笑う。
 それと同時、さらに後ろから国定達が続くのが見えた。
 みな一様、マイペースに走っているのが見て分かる。──いや、最初はみんなで里中に付いていっていたのは、付いていっていたのだ。
 ただ途中で「もう少しスピードあげるからな」と里中に宣言されたと同時、付いて行くのをやめただけの話で。
「はい、緒方もこれで終了。」
 カチ、と、緒方がベンチ前で数歩歩いて足を止めるのを振り返り、北がタイムウォッチを見下ろす。
 緒方は肩を上下させながら、そのままベンチに歩いていくと、自分のタオルを手にして首筋に当てた。
「里中……お前、飛ばしすぎじゃないか?」
 そのまま、うんざりした顔で問いかけてくる緒方に、
「俺、山田と一緒に走ってる時は、スピードが遅くなるのか?」
 逆に里中は、そんなことを問い返した。
「……──は?」
 意味が分からず、眼を瞬く緒方が、何を言っているんだと、木下に助けを求めるように視線を向けると、彼はうんざりと空を仰いでいた。
「………………自覚なしだよ……。」
「うーん、山田と一緒に走ってる時は、話しながらだから、自然とペースが落ちるのかな?
 今度タイムを計ってみるか。」
 顎に手を当てて、そんなことを呟く里中に、緒方はようやく合点が言ったとばかりに、呆れたように溜息を一つ零してから、軽く肩を竦めた。













 マラソンを無事に終了させた足で、投手陣は揃って食堂へ足を運んだ。
「おう、お疲れさん。」
 ゾロゾロと連れ立って部屋の中に入ってきたスーパースターズの花形連中に軽く手を上げて、土井垣は彼らを手招いた。
 そんな土井垣の手元には、先ほど北から手渡されたばかりの投手陣のマラソンのタイムトライアルの結果が広げられていた。
 ペラペラと記録用紙を捲っていた土井垣は、20キロの距離を走ったばかりの疲れた顔の面々に、意地悪く微笑みかけると、目の前のテーブルに十数本置かれたままになっていた缶コーヒーを二つ掴むと、
「ほら、里中、『一等優勝賞品』。」
 コツン、と小さな音を立てさせて、里中に向けて掲げてみせた。
 里中はその「一等賞」の賞品を、一瞥すると、
「それ、手抜きって言いません?」
 そう突っ込んでみたが、土井垣はそれを聞かなかったフリをして、里中の分の缶コーヒーを掲げたまま、テーブルの上に残った残りの缶を顎でしゃくって、
「で、残りは一人一本、参加賞に飲んでくれ。」
 土井垣はお疲れさん、と話を締めくくった。
「おっ、やった。」
「ありがとうございまーっす。」
 例え缶コーヒー一本でも、もらえるものは嬉しい。
 そう言わんばかりに、本日の「投手陣マラソン大会」に参加していた面々は、テーブルに腰掛けている土井垣さんに礼を言いながら、それぞれに缶コーヒーを一本ずつ手にしていく。
 里中はそんな同僚を横目に、
「一本しか違わないじゃないですか。」
 不満そうな表情を隠そうともぜず、それでも土井垣の手ずから缶コーヒーを受け取った。
 ──と同時、ほかの誰もが思っても口にしなかったことを、
「ぬるいですよ、これ。」
 里中は堂々と口にした。
 しかし、里中がそういうことを、土井垣はすでに分かっていたらしい。
「冷えすぎは体に毒だって、この間も山田に言われたばかりだろ、お前は。」
 だから気を使ってみた、と、いけしゃあしゃあと告げる。
 里中は無言で生ぬるい缶コーヒーを見下ろすと、いかにもしぶしぶと言った様子で、「気を使ってくれてありがとうございます」と気の入ってない台詞でお礼を口にして、山田と分けるか、と土井垣の前から立ち去ろうとした。
──が、
「里中、ちょっと待て。」
 くるりときびすを返しかけた里中のジャンパーの裾を掴み、引き止める。
 そして、手元の選手の記録表の「里中智」の欄を指で指し示し、
「おまえ、入団前に比べて、体重が落ちてるな。
 筋力トレーニンングをサボってるんじゃないのか?」
 普通、体重が落ちたと言うのは、「筋肉が脂肪に変わった」を示すものだ、と説教モードで里中を見上げる。
 脂肪よりも筋肉が重いのは、当たり前。
 少しでも筋力トレーニングをサボれば、筋肉は脂肪に変わってしまう──そうなれば、その分だけ体重が軽くなってしまう計算になる。
 もっとも、筋肉が脂肪に変わってしまう場合は、ほとんどにおいて「見た目が太ったけど、筋肉が脂肪になっただけだから、体重は変わらない」という状態になるのだが──。
「サボってなんかいませんよ。
 山田と一緒なのに、サボってる暇なんかあるわけないじゃないですか。」
 岩鬼ならとにかく。
 気分を害した表情で土井垣を軽く睨みつける里中に、それはそうなんだろうが──と、土井垣は納得いかない様子だ。
「おまえの場合、ただでさえでも体重が軽いんだから、これ以上体重が落ちると、筋肉がな……。」
「でも、別に筋肉は落ちてなんかないと思いますよ?」
 ほら、と、グルグルと腕を回す里中の後姿に、
「そういえば……里中、最近、痩せたよな。」
 さっそく缶コーヒーを開いていた国定が、ふと飲む手を止めて呟いた。
「あー……言われてみれば、腰の辺りとか、細くなったかもな。」
 前と比べてみると、ジャンパーの余り具合が、ブカブカになってる気がする。
 国定の台詞に隼が同意を返すと、里中はジャンパーの前を広げて、軽く首を傾げる。
「──……そっか。やっぱり、痩せてるのか、俺。」
 しかし、見ていて自分のドコが痩せているのか、里中には分からない。
 一番見ている自分が分かるはずなんだけどな、と呟く里中に、思わず「一番おまえを見てるのは山田じゃないのか」と口を滑らせそうになって、土井垣は慌てて口をつぐんだ。
 こんな場所で、堂々と口にしていい台詞じゃない──そう思ったのである。
 が、しかし、そんな土井垣の心づかいをまるで悟りもしていないのか、
「普通、新婚って言うのは、幸せ太りするもんだと思ってたぜ。」
 ニヤニヤと笑みを張り付かせて、国定がからかいを口にした瞬間、
ばふっ!
 土井垣は、問答無用で国定の顔めがけて、手にしていた結果報告書を叩き付けた。
「はい、そこ、いらぬ突っ込みはしない。」
 渋い声でそう告げた後、土井垣は改めて里中に向き直ると、心配そうな色を滲ませて里中を見上げる。
「引越しして、何か苦労でもしてるんだったら、山田に早く相談しておけよ。」
 普段の里中を見ている分には、とてもそうは思えないが、その可能性はあるだろう。
 里中は昔からプライベートのことは隠し通す癖がある。
 現に、つい最近まで里中の母親が病院に検査入院していた事実を知っていたのも、「明訓5人衆」だけであったし。
 高校の頃に比べたら、それでもオープンになった方であろう。
 それでも、どうせ里中は山田にしか言わないだろうと、土井垣は溜息を零す。
 そんな先輩風を吹かせる土井垣を見下ろしながら、里中はパタパタと手を振り、
「いえ、別に苦労はしてないんですけど──この間から、山田のダイエットに付き合ってるんですよ、俺。」
「ダイエットっ!?」
 ──そういえば、スーパースターズ結成が決まったその日に、山田がそんなことを言っていたような気がする。
 驚いたように目を見張る土井垣に、
「山田……痩せたっけ?」
「おいおい、おまえが痩せてどうするんだよ。」
 そんな様々な突っ込みが、周囲からかけられる。
 里中はそれに重々しく頷いて、
「そうなんだよなー……。
 良く考えてみたら、あのダイエット方法でやせるのって、俺の方だと思うんだよな〜。」
 はぁ、と悩ましげな溜息を一つ。
 土井垣は、その溜息に突っ込みかけた自分の口を強引に閉じて、何も聞かなかったフリでテーブルに向かって、再び記録結果を捲り始めた。
 だが、里中との付き合いが長いわけではない面々は、不思議そうに里中に突っ込む。
「あのダイエット方法?」
「え、なんだよ、やっぱり山田は痩せてないのか?」
「うーん、見た限りでは、痩せてるように見えないよね。というか、山田はダイエットをしてるのか、本当に?」
 二人で一緒にダイエットをしているということは、疑ってもいないらしい。
 まず、そこから、突っ込め。──と、突っ込みの先輩としては投手陣に突っ込みたいところだが、そんなことを突っ込んだら、里中が普通に答えを返してくれることは間違いない。
──というか、聞きたくない。
 そして、「犬飼家の食えない三男坊」が、何を二人に進めたのか、長兄から聞いている分だけに……、
「そうそう、知三郎から貰った雑誌にさ、書いてあったんだけど、俺が痩せたってことは、やっぱり上になると体力使……。」
がばっ!!
 明るく切り出す里中の言葉が終わるよりも早く、土井垣は椅子を蹴っ飛ばして里中の顔に、背後から腕を回した。
 そのまま強引に自分の腕で彼の口を封じると、バタバタと腕の中で里中が暴れたが、まったく気にせず──いや、気にしている暇などない。
「里中っ、そういえば、山田が探してたぞっ! お前がマラソンから帰ってきたら、一緒に昼を食べようと言っていたなっ! 一緒に、表に食べに行ったらどうだっ!?」
 さっさと行けとばかりに、そのまま里中をズルズルと引きずった。
 もちろん、このまま食堂から放り出すつもりである。
「んーっ! んんーっ!!」
 ジタバタ足掻く里中が、何だかんだと叫んでいるのが聞こえたが、土井垣は耳に栓をして──ついでに言うならば、突然そんな暴挙に及んだ監督を呆然と見ている投手陣の視線も跳ね返して、ズカズカと食堂を横断する。
「あっはっは、そういえばお前等は今、ダイエットしてるんだったな〜、だったら、近くのレストランじゃなくって、俺が許可するから、一駅でも二駅でも離れたヘルシーレストランにでも行ってみたらどうだ? ──というか、行けっ!」
 わざとらしいほどわざとらしい声でそう物の分かる監督というか、厄介者を放り出すような口調でそう叫び、
「んんんーっ、んーっ!」
 反論している里中をそのまま強引にポイと食堂の外に放り出した。
 ようやく解放された里中は、喉に手を当てながら、真っ赤に上気した頬と酸欠で潤みかけた眼で、キッ、と土井垣を睨みつける。
「突然、何するんですかっ、監督っ!」
 そんな彼へ、土井垣は食堂のドアを手にかけながら、にぃっこりと凄み笑いを浮かべながら、
「もう少し場所を考えて発言しろ……っ。」
「してるじゃないですか。普通に聞いてたら、何のことか分かりませんよ、普通。」
 それよりも、さっきの土井垣さんみたいな反応のほうが、絶対おかしいです。
 そう言い切る里中に、ぴくり、と米神が揺れたが、それはまぁ──それとして。
「とにかく、山田がお前と一緒に昼食を食べようかと言っていたのは本当だから、少し遠出してもいいから、表で食べて来い。」
 クイ、と、先ほど山田と会ったばかりの方向を顎でしゃくった。
 すると里中は、自分の両手に握られた缶コーヒーを見下ろし、土井垣を見上げると、軽く首を傾げて、
「土井垣さんのおごりですよね、もちろん?」
「……………………は?」
「だって、一位の賞品がコレだけなんて、ちょっと可哀想だな〜、とか思いません?」
 両手でぬるい缶コーヒーを持ち上げる里中が、にっこり、と笑うのを見下ろしながら、土井垣は一度目を閉じた。
 自分の眉間に皺が寄るのを感じつつ、無意識に指先でそれをほぐしながら──はぁ、と、溜息を零す。
「──里中。」
「はい?」
「お前はダイエットに付き合わなくていいから、まともなもん食って来い。」
 ──なんだかんだ言いながら、里中に甘いのは、元明訓ナインの、共通した「弱点」なのだろうか。
 そんなことを、苛立ちと共に感じながら、土井垣は自分のポケットの中から、財布を出すのであった。











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「領収書はいりますか?」
というくだらないことを言う里中まで書くと、話がまとまらないことに気づき、省いた……。

思いついたネタは思いついたままに書く。
コレですね。






──ちなみにその後。
 なぜか東京方面に出ていた犬飼兄弟とご対面した場合。



「おっ、知三郎じゃないか。」
「……あれ、里中さん? こんにちは、お久しぶりですね。」
「なんだ、里中、おまえ一人なのか?」
「犬飼さんも武蔵も久しぶりです。」
「山田とは一緒じゃないのか?」
「いえ、山田ならソコで会計してますよ。」
「……あぁ、やっぱり一緒か。」
「そういえば里中さん、山田さんって、ダイエット成功してます? どうもテレビで見てると、分からないんですよね〜。」
「あ、そう、それなんだけどさ、知三郎に言われた雑誌見てたんだけど。」
「あぁ、アレですか。──実践したんですか?」
「それがさー。よくよく考えてみたら、アレで痩せるのって、山田じゃなくてオレじゃないか?」
「…………────あ、そうですね。そういえば、山田さんじゃなくって、里中さんですよね、アレで痩せるのって。」
「? ……何の話だ?」
「最近さ、チームのヤツラに痩せた痩せたって言われて、あっ! って気づいた俺も間抜けなんだけどさ。」
「あー……すみません、里中さん。(っていうか、実践したんだ、この人……)
 オレ、そこまでは気づきませんでしたよ。
 言われてみたら、普通ああいうのって女性週間雑誌なんですから、女性が痩せる方法の特集なんですよね。」
「いや、俺は女じゃないけどさ。」
「じゃ、山田さんはダイエットに成功してないんですね。」
「うーん……今、新しいのを考えてるところ。」
「あはははは。」
「……何の話だ、あんちゃん?」
「────あえて聞くな(←知三郎に聞いてだいたいのあらましは知っている)。
 まぁ、土井垣も苦労してることは間違いないだろうな。」