チャンピオン29号ネタバレ

「BESTを狙え!」











 五月のセ・リーグ、パ・リーグの交流試合──対ジャイアンツ戦1日目。
 スーパースターズの打撃練習時間の最中、山田の快音が東京ドーム内に響き渡っていた。
 いつもなら、ブルペンから出て山田の打撃練習を見学に行くところだが、今日の相手はセリーグのジャイアンツだ。ぶらぶらしていて「先発」ではないことを示すわけにも行かない。
 ブルペンから出て一休みするなら、選手ロッカー室以外行くしかなく、里中は緒方と連れだって、ロッカー室にコーヒーを飲みにやってきた。
 ロッカー室のドアを開くと、そこにはすでに数人が座っていて、休憩に入っていた。
 里中と緒方が入って行くと、ちょうどウォータージャグの前で、微笑が自分のコップにお茶を注いでいるところだった。
 微笑は入ってきた二人に気付くと、お、と片眉をあげて、近くに置いてあったコップを持ち上げ、コーヒーでいいか? と仕草で問いかけてくる。
「珍しいな、お前がこの時間にコッチに来るなんてさ。」
 「スーパースターズの打撃練習時間」に合わせて休憩を取ることが出来る日は、必ずといってもいいほど、ベンチの方に行くくせに。
 ベンチに腰掛ける二人にコーヒーを差し出してやりながら、微笑はそんな軽口を叩いてくる。
「ん……、今日は予告先発じゃないからな。」
「ブルペンの方も、ちょうど一息ついたところでさ。」
 温かなコーヒーを受け取り、ふぅ、とそれに息を吹きかけて口につける二人に、そうか、と微笑も頷いて里中の向かいに腰を落とした。
 自分のバットケースと手袋を手元に引寄せながら、なんとはなしに見回したロッカー室は、少しばかり気合が入っているように見えた。
 真向かいに里中たちと顔をあわせながら、話し始めるのは、やはり最近のスターズの状況である。
 開幕戦から一敗を記したことで運を逃したか、上手く立ち上がれなかったためか──今年の前半戦が半分を終えて、現在、東京スーパースターズは最下位を低迷している状態。
 正直、試合前の話題としては楽しくない話題であるが、気を引き締めるにはいい材料とも言えるだろう。
「新球団二年目って言うのは、目を付けられるもんだねぇ……。」
 特に「優勝候補」なんて銘打たれたからこそ、マークされっぱなしというか、なんというか。
 ヤレヤレと顎をさすりながら、それでも目の色だけは真剣に、そう零す微笑に、
「あぁ……そうだな、うちはいわば、二年目のジンクスの集団だからな〜。」
 サックリと、同じロッカー室に居る「同年代」のルーキー上がりたちを矢で突き刺すような発言を、里中がする。
 里中に背後に立っていた「二年目のジンクスの集団」は、思わず胸に手を当てて、ヨロリと体をよろめかせた。
 一年目は切り抜けられても、色々マークされ、情報が集められるのがこの二年目。
 新球団として発足した東京スーパースターズの一軍メンツは、ほとんどが、昨年プロ野球デビューを果たした者ばかりなのだ。
 この一年、プロの地で乗り切れるか乗り切れないかに、彼らのこれからがかかっていると言っても過言ではない状況だ。
 その、プレッシャーと戦っているさなかに、それを突付くような発言をしてくれる里中に、ちょっぴり恨みがましい視線を向けずにはいられなかった。
 そんな里中の背後で繰り広げられる光景に、苦笑を噛み殺しながら、微笑はコップに口をつけながら、
「確かに、うちは熟年層が居ないからな……。」
 何せ、「最高プロ年数」が、土井垣さんの12年と来ている。
 しかも、里中の言葉を後押しするつもりではないが、投手のほとんどが「二年目のジンクス真っ只中」の面々だ。昨年一年間も、投手層の薄さには、何度か臍を噛むことが多かった事から考えると、今年のこの成績は──ある意味、自業自得とでも言おうか。
「しっかし、二年目のジンクスの集団っていう意味で言うなら、アイアンドッグスもそうなんだけどな?」
「けど、あっちは速球・変化球投手織り交ぜて、投手がたくさん居るだろ? うちは投手自体が少ないからな。」
 結構、深刻だよな──と、これから始まる交流戦を憂いて、ふぅ、と里中は溜息を一つ零す。
 明訓時代は、勝つのが当たり前で、負けて最下位から這い上がる──なんて経験は無かった。「山田が居るのに負けるなんてありえない」と言うのが里中の持論であった時期があるくらいだ。
 けれど、今はそういうわけには行かない。
 打者としても、投手としてもマークされている選手が、山のように居るのだ。それを全員が乗り切れるとは思わないが、スターズの現在のチーム戦闘力を判断すると──乗り切って欲しい、と思う。
「とにかく、まだ前半戦も半分だ──まだ盛り返せる。」
 ぐ、と拳を握り締めて、微笑が自分の手を見下ろせば、
「そろそろ、勝ち試合が欲しいよな。」
 ここのところずっと、負け試合だし。
 里中が空になった紙コップを、クシャリと握りつぶす。
「幸い、ジャイアンツで怖い清原さんは、木下が苦手だからな……。」
 今日の勝率は高いぜ、と、ニンマリ笑う微笑みに、そうだな、と里中は同意を示した後、椅子から立ち上がりながら、
「この交流戦で、少しでも多く『勝ち勘』を取り戻して、前半戦の後半に突入したいところだな。
 ──最下位同士、慰めあってる余裕は無いぜ。」
 ポイ、と握りつぶされた紙コップをゴミ箱の中に放り込む。
 そのまま椅子に戻ろうと振り返ると──、
「……何やってんだ、緒方?」
 自分の隣の席に座り込んでいた緒方が、ガックリと肩を落としているのが見えた。
 さっきまで普通にコーヒーを飲んでたはずなのに、と、首を傾げて近づいてくる里中に、緒方は上目遣いに軽く睨むと、
「って、あのな……里中、そういうセリフは、せめて俺たちが居ないところで言ってくれよ……。」
「──は? 何が?」
 どこか疲れたような声で言われるものの、緒方からそんな風に訴えられる覚えのない里中は、いぶかしげに問いかえした。
「……お前って、爆弾発言してるって自覚、ほんっとうに無いよな……。」
「爆弾発言? 何かしたか?」
 ますます首を傾げる里中に、いや、と緒方はヒラリと手を振って否定すると、ゆっくりと体を起こし──そのついでに背後を振り返ると、苦い色を噛み潰した「同輩」達と、苦々しく視線がかみ合った──、横に置き去りにしていたコーヒーを手に取った。
 生ぬるく冷めたコーヒーは、少しだけほろ苦く感じる。
「……? ま、何にしろ、俺たち投手陣も、山田にばっかり頼ってないで、なんとかしないとなっ。」
 自力でチャンスを切り開かないと、と──里中は、明日の先発に向けて、気合いを入れて、よし、と拳を握る。
 そんな里中に、そうだな、と、なんとか気合を取り戻した緒方も相槌を打つ。
 微笑はそんな気合を入れなおす里中に、横に置いた自分の手袋を手にしながら、その延び具合やスベリ具合を確認しながら、
「気合い入れるのはいいけどな、智? 無茶しすぎて怪我するなよ。
 お前、いっつもここぞという時は怪我するからなー。」
 そう忠告してやった。
「もう10年も前の話だろ、ソレ。」
 すかさず里中は反論してくるが、どうだか、と微笑は肩を竦めるだけだ。
 高校三年間、怪我のなかったときを思い出すのが難しいほど、里中は常に怪我をしていたような気がする。微笑だけではなく、大抵の人間がそう答えることだろう。
 どういう意味だよっ、と不満そうにさらに突っ込んでくる里中に、だからな、と、微笑が兄貴ぶった顔で教えてやろうとした──その刹那。
 ガチャ。
 ロッカー室の扉が開いた。
 かと思うや否や、
「おい、お前らも、最終調整に入れよ。」
 最近、もっぱら眉間の皺が定着したきたと内輪で評判の監督が顔を覗かせた。
 今日も今日とて、深い皺が眉間の間に寄っている。
 負け試合が重なっているので、オーダーには人一倍気を使っているためだろう。
 そして、まだ今日のオーダーが決まっていないのか、右手にはペンと黒いクリップボードが握られていた。
「はいっす。」
 コップに残っていたお茶を一気に飲み干して、微笑は土井垣に答えると、隣に立てかけてあったバットケースを手に取り、
「それじゃ、ちょっくら、俺も打撃練習と行ってくるか。」
 自分のバットを取り出す。
 同じように、里中の後ろに立っていた面々も、もうそんな時間かと、それぞれに時計に視線を落として、バットケースを片手に取上げる。
 里中はそんな『強打者陣』に向かって、エース投手としての威厳をちらつかせながら、
「そうだぜ、念入りに打ち込んで、木下を少しでも助けてやれよ。」
 向かい合わせの微笑に向けて、ゆるくパンチを繰り出す仕草で笑いかける。
 そんな軽口を叩く里中に、微笑は椅子から立ち上がりながら、
「あんまりプレッシャー掛けるなよな、智。山田や岩鬼と違って、俺たちは繊細なんだからさ。」
「よく言うぜ。」
 アハハハ、と笑いながら、そのまま土井垣が立っている扉の方へと歩き出す。続くように、他の面々達もノッソリと歩き出す。
 土井垣は、彼らの為に扉の前を開けてやりながら──、里中と話しているときよりも数段厳しい顔つきになった微笑の腕に、ぽん、と手を当ててやった。
「毎日が新しい挑戦だぞ。」
「はい、わかってます。」
 今更の言葉だとは分かっているが──新球団発足二年目にしての「最下位」という状況は、なんとしても覆さなくてはいけない。
 この交流試合は、決して「息抜き」などではない。
 シーズン最初に山田が口にしていたように、「毎日が日本シリーズ」なのだ。
 スターズとジャイアンツが優勝争いに飛び出ていたら、すばらしい好カードだといわれたに違いない試合──けれど今は、お互いに最下位を低迷している状態で、観客よりも選手の方がピリピリせずにはいられない。
 向こうはこちらと違って、さすがは『王者』。焦りは見えているが、こちらほど参っている様子はない。
 そこを何とかつけ崩して、こちらにツキを取り戻すきっかけにしたいところだが──、
「──里中、緒方。木下の仕上がりはどんな具合だ?」
 右手に持っていたクリップボードを左手に持ち替えて、まだ主要メンツしか埋まっていないオーダー表を見下ろしてから、土井垣は里中と緒方を見やった。
 つい先ほどまで里中も緒方も、ブルペンで木下と国定の様子を見ていたはずだ。
「そうですね──、なかなかいい感じだと思いますよ。」
 軽く首を傾げて、緒方が一つ頷くと、里中もそれに同意するように頷いて、
「どちらかというと、国定の調子が今ひとつですね。」
「──……そうか。」
 里中の言葉に、土井垣はオーダー枠の最後につけていたペン先を、迷うように引き離した。
 今日の相手を考えると、木下で調子を狂わせ、主砲の清原を抑える──という展開で行くのが、一番と言えば一番なのだが……、
「向こうの先発次第、か──……。
 ……と、そういえば、山田はどうした? 打撃練習は終ったはずだが、こっちに戻ってきてないのか?」
 ぐるりと顔をめぐらせるまでもなく、土井垣はそろそろ休憩を終えるかと、立ち上がった里中に目を留める。
 里中は、タオルを取上げると、ソレを首に掛けながら、首を傾げて彼を見返す。
「山田でしたら、あっち側にいませんでした? 後で清原さんに挨拶してくるって言ってましたけど。」
「あ、そっか。山田は西武時代に、清原さんにお世話になったって言ってたしね。」
 義理固いよな、と緒方が感心したように続ける。
 しかし土井垣は、それを聞いた瞬間、ふとイヤな予感に駆られた。
 別におかしなことではない。
 敵球団であっても、ジャイアンツとは同じホームを使う者同士、一年中顔をあわせない──なんていうことはないからだ。
 機会があれば、両チームのメンバーが飲みに行くこともある──特に微笑は、FAする前はジャイアンツに居たのだから、余計である。
「……里中。」
 別段気にすることではない──そう思ったが、なぜか土井垣は、そのイヤな予感が胸を占めていくのを的確に理解した。
 確かに山田は信頼に値する男だ。けれど、その山田にだって、「うっかり」はある。──そのウッカリが、後の展開を考えると、「わざとウッカリしたのか!」と思うほど、都合のいいときもあるが、それはさておき。
 なぜか、胸がざわめくのを感じた。しかも、無視してはいけない類の「ざわめき」だ。
「呼んできましょうか?」
 土井垣が顔つきを暗くした気がして、里中は首を傾げながら尋ねる。
 山田に何か緊急な用でもあるのだろうと思ったのだろう。
 土井垣はその里中の問いかけに、スク、と顔をあげた。
「いや──、お前、今日はバットとヘルメットを持ってきてるか?」
「──……は? そりゃ、一応持ってきてますけど。」
 突然の質問に戸惑いを隠せないまま、里中はチラリと視線を山田のバッグに走らせて、そこに置かれている自分のバットケースとヘルメットを確認して頷く。
 明日先発なので、時間があったら今のうちに打っておこうと思って、持参はしてきている。何よりも、何があるのか分からないからである。
 一体、何をさせるつもりだと、困惑ぎみに見上げてくる里中に、
「よし、それなら、今日はお前が先発だ、里中。」
 ──予告先発制のある、パリーグではありえないような、急な展開であった。
 キッパリと断言して、土井垣は手元のクリップボードに手早く文字を走らせた。
 オーダー表に自分の名前が書き込まれたのだと理解するまで、数秒。
「──……って…………ええええええっ!!!? おっ、俺が先発ですかっ!!!!?」
「そうだ。」
「そうだって……俺、全然、何も準備してませんよ!?」
「さっき、少しは投げ込みはしてきたんだろう? バットもヘルメットもある、グラブもある、山田も居る。それ以上にお前に何が必要だ?」
 ──あー、山田もいるんだ……と、緒方が隣でコッソリ溜息をついたことはさておき。
「そ、れは──……ない、けど……っ。」
 里中は大きな目をクルクルと忙しなく動かして──それから、マジマジと土井垣を見上げた。
「──本気ですか、監督?」
 まさか、いくらなんでも……今、何時だと思ってるんだと、おそるおそる見上げて尋ねた先で。
「今日はお前だと、ピンと来たんだ。」
 土井垣は、確信を持った目でそう呟き、そのまま視線を唖然としている里中にずらすと、
「里中、監督命令だ──投げろ。」
 ──これでようやくオーダーが決まったと、あっと言う間に書き上げたオーダー表を見下ろして、土井垣はニヤリと口元を歪める。
 どういう勘が働いたのかは知れないが、これはコレで面白い試合になりそうだと思っていることは間違いない。
「……そりゃ、明日の先発が今日になっただけですから、別にそれは、いいんですけど──。」
 肩は出来ているとは言えないが、体は解れているし──。
──岩鬼の誕生日は、先月に終わっていたよな、と、苦い笑みを刻みながら、答える里中に、土井垣は鷹揚に頷くと、
「よし、ならすぐに準備しろ。木下には俺から言っておく。」
 早速このオーダー表で確認だとばかりに、ヒラリと身を翻して扉から外へ出て行った。
 ばたん、と軽い音を立てて閉じた扉を、里中は唇を歪めて睨みつけた後、無言で視線を緒方に落とす。
「──……交流試合ならではだな?」
 とりあえず、あまりの突然の展開に、それくらいしか口に出なかった。
 緒方も、唖然としていた表情を、慌てたように引き締めて、コクリと頷く。
「そう、だな──。……ってことは、明日の先発が、木下か?」
「さぁ? 突然、勘で緒方になるかも。」
 里中は軽口を叩きながら、自分の荷物の方へと歩き出す。
 とにかく、先発をするというなら、投げ込みは不完全だ。
 緒方とキャッチボールをした程度では、肩は出来上がったに入らない。
「もう少し投げ込みしないとな……。」
 腕をグルンと回してみるが、肩が温まっているという気配はない。
 残り時間を考えるなら、急ピッチで進めなくてはいけないと、グローブを取り出した──そのタイミングで、
「今、打撃時間中なら、先に打撃練習したほうがいいんじゃないのか、里中?」
 今さっき、微笑達が出て行ったばかりだし、と。
 そう忠告してくれる緒方の言葉に、バックの中に突っ込んだ手をそのままに、里中は大きく目を見開いた。
「──……あっ! そうだっ! 交流試合だった!」
「そう、里中も打たないとダメだろ?」
「ったく、土井垣さんが急に言うから、スッカリ忘れてたじゃないか!」
 つい先ほどのブルペンの中では、木下相手に、「一年ぶりの打撃練習の調子はどうだ?」だとか言って、木下を困らせていたくせに、良く言うものである。
 慌てて里中は、グローブを緒方に放り投げて、
「あとで持ってきてくれっ!」
 そう告げると、隣の山田のロッカーに手を突っ込み、袋の中からヘルメットを取り出すと、それを帽子の上から頭の上に被せて、バットを取り出す。
「後で──って、里中〜?」
 渡されたグローブを掴んで、緒方が背後で名前を呼んだが、それも気にせず、
「忙しい、忙しいっ!」
 里中はバットを掴んだまま、ロッカー室から飛び出していった。
 その声が、どことなく嬉しそうだったのは──多分、聞いている人間の気のせいではないだろう。
 なんだかんだ言って、山田とバッテリーを組めるのが一日早まったのが、嬉しいのである。
 バタバタと走り去る音が廊下から聞えてきて、緒方は手にしたグローブを見下ろした後、
「──それじゃ、先にブルペンに行ってるか。」
 しょうがないなと、紙コップの残りのコーヒーを一気に煽って、緒方はそれをクシャリと手の中で握りつぶした後──里中と同じように困惑している投手が居るだろうブルペンに向けて、ゆっくりと歩き出した。














+++ BACK +++



すみません、勢いのまま書きました。

えーっと……29号の、行間…………?

……しかも山里ですらない。

本当は、ココから無理矢理、「山田が里中の打撃コーチをしてるところ」が書きたかっただけ。
っていうか、本当はこういう台詞が書きたかったんですけど──……入らなかった…………。


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山岡「三番、里中なぁ……。」
殿馬「3番に智が居たほうがよぉ、山田の打撃率が違うちゅうことづらな。」
山田「──……え、い、いや……そんなことはないと思うぞ?」
微笑「アハハハ、太郎は、俺が前に居るよりも、智が前に居たほうが、やる気が出るってことか。」
山田「いや、だからそんなことはないと……。」
微笑「ま、五番打者としては、明訓時代みたいに、ネクストサークルでイチャイチャしてないことだけを祈るぜ。」
殿馬「いっち塁から見ててもよー、ハートが飛び散ってるのが分かるづらからな。」
山岡「──そんなにスゴかったのか? 大平監督の時って……。」
微笑「そ、ロージンバッグも手渡し。山田が里中のバットを借りたこともあったよな?」
山田「あれは、俺のバットが折れたからで……。」
殿馬「サトが出塁してる時の、山田のホームラン率もたけぇづらな。」
山田「それは、里中の打率が良かったからで……。」
足利「ニヒ、つまり纏めると、里中の打順が前の方が、山田の底力が出るってわけだな。」
山岡「そういうことだな。」
微笑「そう、その通り。」
山田「──……けど、しかし、里中が三番か……。」
殿馬「おめぇよ、山田。サトの打撃コーチしてるんづらぜ? 実際、サトの打撃はどうづらよ?」
微笑「そうそう、手取り腰取り教えてるんだろ。」
山岡「──……三太郎〜っ。」
山田「ん、いや──そうだな、さすがに里中は、もともとセンスがあるから、カットやバントのタイミングはうまいな。けど、長打となると、難しいだろうな……。せめて、もう少し時間があればな……。」
微笑「…………………………。」
山岡「…………………………。」
殿馬「……づら。」
山田「ん? どうかしたのか?」
微笑「……いや、訂正しないんだなー……って思っただけだ。」
山岡「手取り足取り、だよな……普通は…………。」
殿馬「山田とサトの場合は、手取り足取り腰取りで、十分あってるづらなー……。
 通りで、夜も二人で練習してると思ったづらぜ。」
山田「え──……、あ、いやっ! 違うぞっ! そういうイミじゃなくってだな……!!」
微笑「今更、今更。」


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ま、そんな感じでごわす。