*パロですよ〜*

新婚さんいらっしゃい 1








 それは、とある日の、東京ドームで起きた、他からしてみたら、
「ちょっとご勘弁ください」という出来事だった。










 その日は、ごくごく普通の、当たり前のような一日だった。
 ただ、いつもと違うところがあるとすれば、どことなく山田が朝からソワソワしているような気がしていたが──それはきっと、新球団スーパースターズになって初めての、東京ドームでの練習日だからに違いないと……いう、人も居た。
 そんな程度のことで、ソワソワするような山田ではないことは、誰もが知っていたが。
 あえて、朝から見え隠れしていた兆候を、無理矢理見逃そうとしていたのかもしれない。
 順調に東京ドームでの練習も進み、いよいよエンジンが乗って来たかと思われた午後、昼食時。
 投手陣と別に練習していた山田が、ようやく里中と顔をあわせたその時──事件はおきた。
 食堂に入ってきた里中が、キョロリと部屋の中を見回し、山田たちが固まっている一角を発見した瞬間、パァ、と花綻ぶように笑顔を浮かべる。
 先ほどまで浮かべていた笑顔とは質の違う変わりように、10年のブランクがある高校時代のライバル達は、なんだなんだと、慌てたように周囲を見やる。
 その間に、里中は、座っていた椅子から立ち上がった山田の下へと駆け寄る。
 山田はそれを待ち構えていたように、駆け寄ってきた里中の両肩をガシリと掴むと、唐突に彼に向けて、
「里中! 結婚しよう!」
「うん!」
 里中の返事は、他の誰かが驚く暇も与えないほど、早かった。
 そのまま見つめあいモードに入る二人に、唖然としていた面々が、ようやくそこで我に返る。
 というか、返らざるを得なかった。
「って──おんどれら、何言うとるんじゃい! け、け……結婚やてぇっ!!?」
 岩鬼が大仰に驚いて叫ぶと、ぴぴーん、とハッパが反り返った。
 ガタガタガタンッ、と激しい音を立てて机を蹴飛ばす勢いで起き上がる岩鬼に続いて、同じテーブルに着いていた微笑も飛び上がった。
「なっ、何、言ってるんだよ、太郎〜!?」
「智もえれぇ早い返事づらな。」
 あきれたように椅子の背もたれに頬杖を着いて、チラリと殿馬が視線だけをあげて、手を取り合って見詰め合っているバッテリーを見上げる。
 しかし、二人は全く外の音に気を取られることなく、ただ目と目で会話していた。
 そんな無視しているかのように見える二人の世界に入っている二人に、岩鬼がカー! と頭に血を上らせて、
「聞かんかい! このドカップルめがっ!!!!」
 怒鳴るが、その声は食堂の中に響き渡るばかりで、間近に立つ二人の耳には聞えていないようである。
 握り合った手にさらに力を込めて、間近で見詰め合う二人に、食堂内に戦慄とも言える衝撃が走った。
 それと同時、とっさに微笑は片手をあげて、
「た、たたたた、太郎! 智!! ちょっとタンマ!!」
 強引に2人の間に、割って入ってみた。
──勇者である。
「……なんだよ?」
 ジロリ、と睨み挙げてくる里中の頬は、かすかに紅潮していた。
 その整った顔を見下ろして、微笑は溜息が零れそうなのを堪えながら、
「なんだじゃないだろ、なんだ、じゃ。
 公衆の面前でプロポーズかます山田も山田だけど、そのまま2人の世界に入るな! こ・こ・は、食堂なんだからな!!」
 ビシリっ、と2人に言い聞かせるような厳しい言い方で、最後まで言い切った微笑に、おおーっ! と食堂内から喝采があがった。
 どうやら、フリーズしていた面々が、ようやく我に返ったようだった。
「三太郎の言うとおりづらぜ。らぶらぶしてぇならよ、2人っきりの時に言うもんづらぜよ。」
 呆れたように殿馬は口を挟んで、テーブルの上に顎を落とした格好で、ずず、とコップを啜った。
 そんな殿馬と微笑の提言を受けて、山田は今更のように、はた、と我に返ると、
「──……すまん。」
 今更ながらに羞恥に顔を赤らめて、頭を掻いて目線を落とす。
 そんな山田を、里中は不思議そうに見上げる。
「なんで山田が謝るんだよ?」
「いや、謝ってほしいだろ、こーゆー時は。」
 すかさず突っ込みながら、微笑は手でパタパタと顔を仰ぎながら、まだまだ寒いというのに、食堂の中は暑くてたまらない。
 2人がニコニコ話しているのを見ているのは、微笑ましいと思うのに──さすがにこの現場に立ち会うのは、ムズ痒くてたまらない。
 先ほどから岩鬼が、体中が痒い顔をして、全身をかきむしっている気持ちが、良く分かった。
 さらにその上、山田はコリコリと頭を掻きながら、
「いや──その、朝から、里中にどう言おうか考えてたんだが、今、里中の顔を見たら、今しかない、ってそう思って……つい。」
「……山田……。」
 里中の目がかすかに潤んでいる。
 彼はそのまま、山田の片手を握りこみ、顔を覗きこむ。
「だったら朝から言っとけよ! お前等、今日も一緒に出勤してきただろうが!」
「チャンスはいくらでもあったづらよ。」
 そんな腐れ縁どもからの突っ込みも、再び見つめあいモードに入った2人には、まったく聞こえていなかった。
 しょうがないなぁ、と、微笑が呆れたように呟くと、
「──っていうか……あのさ…………。
 この場合、男同士だろ、とか、えっ、お前等いつの間に! ──とか、そういう突っ込みのほうが、先なんじゃないのか…………?」
 力のない声が、隣のテーブルからかけられた。
 視線を落として見ると、疲れた顔で視線を泳がせている足利達が、生ぬるい笑みを浮かべていた。
 そんな新しいチームメイトたちに、微笑はゆるく首を傾げた後、半笑いを浮かべてコーヒーを啜っている山岡を振り返ると、
「もしかして、まだ暴露してませんでしたっけ、アレ?」
 アレ──と、顎でしゃくるように、2人の世界にまっしぐらなバカップルを指し示した。
 言われて山岡はイヤイヤな顔で視線を飛ばすと、里中の両手を、山田がしっかりと握りこみながら、
「今日の練習が終わったら、お義母さんのところに挨拶に行くよ。」
「うん。引越しの日取りも決めないといけないよな……。」
「そうだな……、これからいそがしくなるな。」
「うん。」
 ──なんだか2人の間で、サクサクと話が進んでいっているようだった。
 このまま放っておけば、新婚家庭の間取りの話や、子供はいつ作って何人欲しいだとかいう、家族計画まで聞けてしまうのではないかと思うほどであった。
 嬉しそうに笑いあう二人は、本当に幸せそうで、思わず見ているほうもホノボノと、微笑ましく…………思うというよりも。
「──視界の暴力だな。」
 山岡の感想は、アッサリとしていた。
「あかん、あんなん見とったら、せっかくの飯がまずうなるわい。」
 岩鬼が、何を言っても右から左で聞きはしない2人に、呆れたようにクゥルリと椅子の後ろ足で180度ターンする。
 そのまま、ガツガツとご飯にがっつきはじめる岩鬼に、
「そりゃいいづらぜ。岩鬼もたーまには、いいことするづらぜ。」
 殿馬が、岩鬼に倣って、同じように山田と里中に椅子ごと背を向けて、定食をつつき始める。
「あ、それいいな。俺もそうしよう。」
 ガタン、と椅子に座りなおした微笑までもがソレに倣って食事を再開し始めてしまう。
 そんな「明訓5人衆」と呼ばれる「慣れている」者たちの反応に乗り遅れてしまった面々は、なんともいえない顔をあわせあう。
 たとえ食堂のど真ん中で手を握り合っている2人の姿を見ていなくても、うっかり2人の会話を聞いてしまえば、食べたばかりのものが口から外へ戻っていきそうな気分になるのだが──あの連中には、そういうことはないのだろうか?
「──……なんか俺……もう、おなかいっぱいかも…………。」
 里中と一緒に食堂の中に入ってきたばかりだというのに、緒方も国定も木下も、うんざりした顔で己の腹の辺りを撫でる。
 ぐぅ、と腹の虫は鳴るが、胸焼けがしそうなほど、胸がいっぱいだ。
 チラリと視線を横手にやると、山田と里中が、まだ飽きずに、手を握り合いながら、回りとは違う輝きを宿して語り合い続けていた。
「何、言ってるんだ。お前等、あの程度で根をあげてたら、これから大変だぞ。」
 回りと同じように、山田の突然のプロポーズに沈没しかけていた山岡であったが、さすがは10年前にも辛酸を舐めてきた立場だけあって、こちらは復活が早い。
 食も喉を通らないという状態の面々と違って、ポツポツとではあったがご飯を口に突っ込みながら、
「──なんてったって、これから……新婚さんだからな…………。」
 周囲が思わず、血を吐きそうになることを、胡乱気な眼差しで、呟いてくれた。





 2004年 某月某日
 いっそ清清しいほどの晴天の日、長屋に一組の新婚夫婦が越してきたという。
──隣の家から移転したというべきか。
 こうして話は強引に進むのである。







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終っちゃえ


っていうくらい、他所様のサイトに触発されて書いたんだというのがバレバレな小説ですな!
──いやー、サイトめぐりとかしてたらさー、結構、似たようなことをかんがえてる人って多いんだなぁ、って、勇気付けられて、お蔵入りネタを出してきたって言うかvv

早い話が、イミもなくいちゃついて欲しいと思うなら、いっそ、「新婚さん」ってタイトルをつけるしかない!??って思ったっていうかv
結婚ネタまで書いたんだから、新婚ネタくらい書いてもいいじゃないか、って思ったって言うかvvv(笑)