OG! 女子マネージャーの祭典

***コネタ6の続き。時間軸はプロ野球編一年目の冬。***
マネージャー達しか出てきてません。CP変化の話。













 ここは、半年に一度開かれる祭典の場所──幕張。
 その混雑する駅の一角で、どうやら同じ電車に乗り合わせたらしい三人が、バッタリ待ち合わせ場所で再会した。
 みな別々の県に散ってしまったため、夏以来──丸々半年振りの再会であった。
「きゃーっ! ひ・さ・し・ぶ・りーっ!」
 喜びを満面に称えて、彼女たち3人はお互いに駆け寄ると、ワヤワヤと表に出て行く人波から外れ、パンッと、掌を打ち合わせあった。
 そのまま手を取り合って、キャーキャーと、高校時代を思わせるように飛び跳ねあう。
 話したいことは、本当にたくさんあった。
 特に夏の祭典時は、ほとんど毎日のように高校野球の試合を見ては叫び、プロ野球を見ては缶ビールを握り締めて電話をしていたし、野球のオフシーズンに入ってからも、ちょびっとサッカー選手に浮気はしたが、それでもこの祭典あわせの新刊の件で、一週間に一度は長電話しあっていた。
 それでもやっぱり、生で会って話したいことはたくさんある。夏のあの日以来、ためにタメまくった色々なものが、今にもあふれて行きそうだった。
 けれど、その欲求に従うよりは、「類友」である前に高校時代からの「親友」としての会話から始めてみる。
「で、最近どーなのよ、職場の方は?」
「んー、なんかイマイチ。そういうあんたも、女子大生って響きの割りには、高校時代と変わらないじゃーんっ。」
「これからよ、こ・れ・か・らーっ!」
 明るく笑いながら、そのまま人波に入って、同じくする目的地へと歩き出す。
 夏のカッと照りつけるようなあのアツさとは違い、ヒュゥ、と吹き抜ける風に、思いっきり前を開いていたコートのボタンを留めながら、そういえばさ、と、洋子は二人の友人を交互に見やる。
「今年の日本シリーズ、見た?」
 どこか慎重に切り出された台詞に、軽く愛子が頷く。
「見た見た。殿馬君でしょ? あいっかわらず、面白い顔してるわよねー。」
 ケロッとして告げる愛子に、美智子が隣から裏手で突っ込む。
「ソコじゃないわよ、愛子っ!
 そういう時は、同じ明訓のOBとして誇らしいとかなんとか言わないとダメでしょっ。」
 なんでソコに目が行くかな、と、呆れたような美智子の台詞に、愛子はうんざりした顔でパタパタと顔の前で手を振った。
「あ、ソレ、散々会社で言われたから、もぅいい。
 んもー、どこからか知らないけど、私が野球部のマネージャーやってたことまでばれてさー、サインは手に入らないのかだとか、連絡取れないのだとか言われっぱなし! まったく、やってらんないわよ。」
 そのうち、実は愛子が日ハムの土井垣と同じクラスだったことまでばれて、「同窓会の時はぜひっ」とか手を握って言われそうで、イヤだわ、と、鼻の頭に皺を寄せる。
 憤りすらあらわにする愛子に、そうよね、と美智子が同意する。
「うちの大学も同じ感じだったわ。
 自分たちの高校を振り返れば、すぐ分かることだろうに、同じ高校だったからって顔も名前も知ってるわけじゃないって言うのよね〜。」
 同じ部活であったとしても、向こうは「マネージャー」と呼んでいたから、フルネームで覚えてもらっているかどうかも怪しいほどである。
 ──まぁ、愛子にいたっては、土井垣と同じクラスであったから、土井垣自身にフルネームくらいは覚えてもらっているだろうが。
「そうそう、いくらマネージャーだったからって、二学年も違うのよ?
 殿馬君たちだって、あたし達の顔と名前を今でも覚えてるかどうかって感じよね。」
 まったく、と眉間に皺を寄せて憤りもあらわに唇を捻じ曲げる愛子は、よほど会社でイヤな目にあったらしい。
 これが「土井垣将くんと同じクラスだったんだって?」という話なら、話題にされてもそれなりに会話をする内容があるからいいものの──たとえば、土井垣の授業中の風景とかそういうことを──、殿馬君は、高校時代どういう生徒だったのか、なんて聞かれても、「面白おかしかったです(見た目が)」と答える以外、何も思いつかない。何せ、たった四ヶ月ほどしか一緒に部活動をしていなかったのである。
 かと言って、そんなことを笑顔で話した日には、殿馬ファンから敵意を買うことも間違いない。
「微笑君にいたっては、わたし達が誰なのかすら知らないわよね、きっと。」
「そうそう、岩鬼なんて、当時ですら、あたし達の名字すら覚えてなかったわよ、絶対。」
 そんな風に言い合う美智子と愛子に、コホン、とわざとらしく洋子は咳払いをして、二人の注目を自分に集めると、さりげなさを装って、
「で、その殿馬くん、チャリティーコンサート開くらしいわよ。
 どーですか、姉御さんたち? 今ならチケット格安で譲るわよー。」
 ド? と、笑いかけた。
 その、あまりにもわざとらしいさりげなさに、愛子と美智子が大きく目を見開く。
「って何よ、あんた、買ったのっ!?」
 思いっきりあいた指先で指差されて、その指先をジ、と見つめた洋子は、なんとも言えない顔で眉を寄せた。
「…………ぅん。なんか、殿馬君の名前見たらさー、衝動的にネットで購入しちゃいマシタ。貢献してやらないとっ! って思ったんだけど、こーれがまた。」
 可愛い(?)後輩のためだから、と、先輩ヅラして買ったのはいいものの──何せ、クラシックなんて、普通はチケットが余ってしょうがないものだ。
 ガックリと肩を落とす洋子に、美智子が、アァ、と顎に指を当てて頷く。
「即売り切れでしょ? 知ってる、それ、ニュースでやってたもん。」
 クラシックなんて興味ないけど、殿馬君のピアノは、確かに上手かったよね。
 その上、オリックスの優勝も重なったのが拍車を掛けたに違いない。
 後輩のことを思って買ったチケットなのに(というか、それすらも良く考えてみたら、その後輩はオリックスでバンバンに稼いでいるわけだから、チケットが売れなかったら自腹で大変、だなんて心配をしなくても良かったりする)、逆に貴重な一枚になってしまった、という有様だった。
「そーなのよねぇ。──全席ソールドアウトでしょ? まさか空席を作るわけにも行かないし、行かざるを得ないじゃない?」
 はぁ、と頬に手を当てて呟く洋子に、愛子は呆れた様子を隠そうともせず──何せ、洋子もクラシックコンサートなどとは縁がない人間なのだ──、
「──で、そのコンサートっていつなのよ?」
 そう尋ねたら、ますます洋子は身を縮めるようにして、ぽっつり、と吐いた。
「………………今日………………。」
「バッカじゃないのーっ!!!?」
「馬鹿だわ。」
 思わず叫んだ美智子と、冷静に突っ込む愛子に、洋子は泣きそうに顔を歪めた。
 冬のコミケが何日にあるのか──そんなことは、夏の時点で知っているはずの彼女が、何ゆえ今日のコンサートチケットを取ったのか……馬鹿としか思えない。
 しかも、今となっては「貴重」なコンサートチケットを、オークションで売ったりせずに大事に保管して──おそらく今日、持って来ているだろうことも、溜息を禁じえなかった。
「ぅわーんっ、二人揃って言うことないじゃないのーっ!」
 だって、まさか、こんなに売れるなんて思ってなかったし、それに──やっぱり後輩の演奏するコンサートのチケットを、オークションで売ることにも抵抗があったのだ。空席が出来たりするのよりも、その方がよほど演奏者にとっても、見たい人にとっても、いいことなのだと知りつつも。
「いーじゃなーい、コミケ終わったら、みんなで行こうよぅ〜!」
 どうせ、コミケの後にカラオケハシゴしたりするだけでしょ!?
 そう拳を握って叫ぶ洋子に、愛子は少し考えるように顎に手を当てた後──まぁ、確かに、今日はコミケ以外の約束は入れていない。
「……まぁ、間に合うなら行ってやってもいいわよ。」
 コンサートの開始時間に、と、そう告げると、洋子はパァッと嬉しそうに顔をほころばせて、美智子を期待に満ち満ちた目で見つめる。
 そんな視線を受けて、美智子もしょうがないなぁ、とストンと肩を落として、うん、と一つ頷いた。
「で、幾らなの、そのチケット?」
「あ、お金は要らない。」
 ブンブン、と手を振る洋子に、何を言うのかと、愛子は眉を寄せる。
「遠慮なんかしなくていいわよー。仮にもコンサート形式で行われるんだから、結構いい額するんでしょ? クリスマスプレゼントにしても、痛いわよー?
 あたしの初ボーナスを黙って受け取りなさいよー。」
 ウリウリ、とからかうようにわき腹を突付かれて、洋子は益々困ったように笑うと──ぽっつり、と、金額を呟いた。
「……って、え、三枚で?」
 すでに気も早く、財布に手をかけていた美智子が問い返すと、あからさまなくらいあかさらまに、洋子は視線をずらした。
 一瞬の沈黙の後、愛子が恐る恐る洋子に問いかける。
「……まさか、一枚、その金額?」
 まさか、ね──と、そう引きつる愛子以上に、問いかけられた洋子は引きつった。
 その笑顔を見て、確信した。と同時に、
「何考えてるのよ、あんたはーっ!!」
「この冬コミのお金が居る時期に、そんな金額のを3枚も買っちゃったのーっ!!?」
 怒涛のような責め苦に、ううう、と洋子は首をすくめる。
「いや、あの──S席だったり……。」
「…………馬鹿。」
「馬鹿だわぁ……。」
 そして同時に彼女たちは自分に問いかけてみた。
 いくらチャリティーコンサートとはいえ、そこまで完売した「殿馬一人」のピアノコンサートに、ちょびっとよそ行きの服装で、両手に同人誌の詰まったカバンを持って、行く勇気があるか、と。
────しかもS席。
「……でも、勿体無いから、一緒に行ってくれるわよねっ!?」
 ガシッ、と、洋子に手を握られて、愛子と美智子は無言で視線を合わせた。
 その視線には、非常に冷たい合理的な思考がグルグルと回っていたが──やがて、諦めたように二人は溜息を零すと。
「あんた、コミケの日だから、アタシたちと一緒に行けばいいわー、とか思ってたでしょ──本当は。」
「値段が少しくらい高いけど、話のネタになるわとか思ってたんでしょー。」
 なのに蓋を開けてみれば、結構な有名人もチケットを買ったらしいという話を聞いて、急に怖気づいて、あんな風に言ったんでしょ。
 そういって突っ込んでくる類友に、うぅぅ、と洋子は口の中で呟いた後、
「…………ぅん、実はそうなのよ……。」
 あっさりと白状してくれた。
「あーあ……そんなことだろうと思ったよ。」
 軽く肩を竦めあって、彼女達は再びゆっくりと目的地に向けて歩き出した。
 その話の内容は、やはり自然と、今日の新刊のネタである二人の方へとずれていく……わけなのだが。









「そう言えば、ようやく里中ちゃんがテレビで見れたわよね。」
 アレはもう、思わずテレビの前でガッツポーズしたわ、と、そう頷く言葉だけを聴いていると、美智子は高校時代から「里中ファン」だったのかと思うところだろう。
 実際は、ひどく微妙なファンである。
 何せ彼女は、単体の里中ではなく、付属品つきの里中が大好きなのである。
 もちろん、単体でも十分萌えられるが、それははっきり言って、一個人の女子としての萌えではないことは確かである。
「でも、里中ちゃんが抱き合った相手……、あれはヒョロすぎるわよ。」
 点数は辛いわ、と憮然として呟く洋子に、愛子が勤めて辛らつに、
「高校時代に、里中が投げてた相手が太すぎただけでしょ。」
 あっさりと言い放つ。
 どうやら愛子は、いまだに「土井垣v里中バッテリー(間のハートマークは当時からのこだわり)」が、山田によって破られたのを、いまだに根に持っているらしい。
「って、相変わらず愛子は山田君には点数が辛いなぁ〜。すっごく土井垣君派なんだから。」
 呆れたように美智子が肩をすくめるのに、そうでもないわよ、と愛子は肩にかけた荷物を抱えなおしながら、
「そーれーにー、最近は、里中ちゃんの相手は、土井垣じゃなくてもいっかなー、とか、浮気中だしぃ。」
 ちょびっと語尾を跳ね上げて──にんまり、と笑う。
 その彼女に、ええっ! と、驚いたように目を見開いて、美智子が愛子を凝視する。
「そ、そりゃ確かに、土井垣君と里中ちゃん、離れ離れになって2年になるけどっ! でもでも、担任情報じゃ、土井垣君ったら、プロになってからもしょっちゅう里中ちゃんに会いに、合宿所にきてたとか言ってたじゃないぃ!?」
 地元に残った美智子は、明訓高校に居る元担任から、そういう情報をさり気に受け取っている。
 もちろん、「土井垣君、プロになってからも野球部が気になるらしくて、ちょくちょく差し入れとか持ってきてくれてるみたいよ」という担任の言葉が、「土井垣君、プロになってからも野球部(の里中君)が気になるらしくて、ちょくちょく差し入れとか(愛情とか)持ってきてくれる(後に、里中君とデートしてる)みたいよ」と変換されているのは間違いない。
 その末の発言なのであるが。
「──……あ、ごめぇん。」
 なぜか、美智子の力説に謝ったのは、堂々「浮気発言」をした愛子ではなく、この秋、サッカー選手に浮気していた洋子であった。
「…………ごめん?」
 なんだよ、と視線を向けた先で、洋子は、えへ、と頭を掻きつつ、こっそりとA4サイズが入るトートバックを指し示しながら、
「日ハムの試合ばっかり見てたらね……あたし……。」
 ポッ、と恥ずかしそうに頬を赤らめたかと思うや否や、
「──……シラドイにハマっちゃったv」
 浮気発言を堂々とかましてくれた。
 しかもこっちは、土井垣浮気発言である。
「…………シラドイ?」
 疑問符を頭に貼り付ける美智子の視線から、さりげに視線をそらしつつ、
「うんv 日ハムの、ニューバッテリーv 今日、コピーで新刊作っちゃったv」
 キャッv と、頬に手を当てて、洋子がいとしげにトートバックをなで上げた瞬間。
「白新の不知火っ!? しかも、土井垣君受けっ!!?」
「って、あんた、土井垣受けはダメだって言ってたじゃない!」
 驚愕の事実をようやく飲み込み、美智子のみならず、愛子まで悲鳴を上げた。
「いやー、私もそう思ってたんだけど、あの身長差とか、顔を近づけて話してるところとか、なんかもー、ツボに入っちゃってさぁ。」
 えへへ、と笑う洋子のトートバックの中には、間違いなくそのカップリングの新刊が入っているのだと知った瞬間──それはダメだわ、と、美智子が呟く。
「どうして土井垣君受けにハマるなら、犬飼土井垣にハマらないのよーっ! そうしたら、私と同じカップリングだったのにーっ!!」
 普通、街中でこんなことは叫ばない。
 しかし、同じ街中でも、ここは堂々たるオタクの祭典の地、幕張。こんなことを叫んでいても、振り返って凝視する人間は一人も居なかった。
 それをいいことに三人は、その場で足を止め、流れいく人波から少し離れたところで、再び会合に入った。
「それが、なんでか分からないけど、とにかく心臓にズキューンッて来たのよねぇ……。」
「はーはーん、なるほど。」
 分かるわぁ、と、愛子が同意の声をあげて頷く。
 彼女もまた、先の「浮気発言」で同じような経験をしたのであろう。
「えー……何よー、それじゃ、ほとんどみんな、土井垣v里中は卒業しちゃったってことぉ?」
 やだなぁ、と、眉を寄せて零す美智子に、そんなことはないわよー、と洋子が微笑む。
「別に私、3人でもOKだし!」
「あー、不知火君なら、それでもできそうよねー、土井垣真ん中で。」
 拳を握って力説する洋子もまたどうかと思うが、にこやかに微笑みながらそう断言する愛子は、もっとどうかと思う。
 何度も言うようだが、街中でこのような発言をしてはいけない。
「あーあ、卒業して3年の間に、あたし達の聖地、ドイサトもずいぶんと門が狭くなったわねー……って、そう言えば愛子、あんたの浮気相手って誰よ? まさか、中西v土井垣とか言わないわよねぇ?」
 おずおずと問いかける美智子が、それでも本命は土井垣里中よっ、と叫ぶ傍ら、愛子はあっさりとそれを否定するようにパタパタと手を振ると、
「うぅん、土井垣君絡みじゃなくって、里中ちゃんのほうでね。
 なーんか、卒業式の日の、あの飲み会からずーっと、そうかなー、とか思ってたんだけど。」
 前置きをひとつ置いて。
「去年の今ごろくらいから、ヤマサト絶好調なの。」
 爆弾発言を投下した。
 しかも、一年前から。
「──……って、なんでそーなるのぉっ!!!!?」
「そ、そりゃ確かに愛子は、徳川v土井垣とか恐ろしいカップリングを考えてたけど……っ、よりによって山田君っ!? ……あ、いや、いい人だけどね。」
 悲鳴に近い叫びを上げる美智子と、クラリとめまいを覚える洋子に、愛子はひたすらにこやかに微笑みつつ、
「でも、ほら、あの飲み会の時……よっぱらった里中ちゃんを介抱してたの、山田じゃない? 里中ちゃんも、山田にだけは素直に従ってたし。」
 その里中に、堂々と「ジュース」と偽ってカクテルバーを飲ませた張本人は、指先を組み合わせながら、さらに笑んで爆弾発言を投下し続ける。
「もともと里中ちゃんって、山田に執着してるところあったじゃない?」
「って、だからって……愛子、あんた、分かってる?
 土井垣のキャッチャーの座を山田君が取ったとき、一番怒ってたの、あんただよ?」
 何せ、「二年も待った美形バッテリーの試合が見れたのは、一試合だけかよっ!」と、夜中の校舎の屋上から叫んだほどである。
 あの時の、愛子を止めるのは大変だった、と──しみじみ思い返す二人に、愛子はアレはアレ、と言い切る。
「で、山田はね〜、里中ちゃんラブなのは、絶対確実っ!」
「なぜそう言い切る。──って、まぁ確かに、里中ちゃんに懐かれて、その気にならない人間なんているわけないけどね〜。」
 うんうん、と、なんだかんだ言いながら、「里中ちゃんは姫でアイドル」と言い切る三人が頷きあう。
──余談であるが、応援団が謡っていたピンク色が飛び交う里中ソングは、実は彼女達の作品ではないか……と土井垣たちは疑っている。
 もし本当に彼女達が里中応援ソングなんてものを作ったら、ピンク色通り越して放送禁止になるのは免れないだろう。
「……っで、えーっと……あんたがその理由だけでヤマサトにハマるとは思えないんだけど、どーゆーこと?」
 確かに、「合宿所で同室」、「クラスが同じ」、「バッテリーを組んでる」という条件だけでも、十分萌えることができるが、相手はあの山田だ。──そこに転ぶまでが大変じゃないかと、首を傾げる友人二人に、チッチッチッ、と指先を振った後、愛子は今日というこの日のために、今まで隠し通していた事実を、彼女達に暴露することにした。
 思いっきり、意地悪そうな顔でにんまりと笑うと、
「一年前にねー、山田があたしに連絡を取ってきて、
 『千葉でちょうどいい物件を探してるんだけど、心当たりがあったら、紹介してほしいんだけど』って言ったの。
 お母さんの退院とかで忙しい里中ちゃんのために、山田が、里中ちゃんの引越しの手続きしてたらしいのよね〜。
 もう、これって、信頼の絆を飛び越えた、愛でしょ、愛!」
 アレからねっ、あの二人はできてる、と確信したのはっ!!
 愛子、土井垣への歪んだ愛が吹き飛んだ瞬間であった。
 いや、てっとり早い話が、「どうしてもっと早くから、私はあの二人のラブっぷりに注目してなかったの!?」と、腐女子として、深く後悔した一瞬だった。
「…………………………。」
 その、キラキラと輝く……目標を見つけたかのように輝かしい愛子の、晴れ晴れしい表情を見て、二人は絶句した後。
「………………って、ちょっと待てーっ! なんで愛子に、山田から連絡が来るのよっ!!?」
 悲鳴に近い声をあげて、叫んだ。
 とりあえず、目の前でキラキラとヤマサトに萌えている親友のことは、ひとまず棚の上に上げておくことにしたらしい。
「それは私の仕事先が千葉だから〜♪ さらに言えば、不動産関係に就いたからよん。」
 あっさりと愛子は笑って告げる。
「なんか、うちの元担任が、里中ちゃんにあたしの会社を紹介して、それならあたしに直で聞いたほうがいいかって、山田が連絡取ってきたのさ。」
 あははははー、と明るく笑う愛子に──確かに、あり得ないことではない……と、思う。
 事実、愛子たち三人は、里中たちが入部してきたときのマネージャーで──さらに言うならば、彼らが在籍しているときの、最初で最後の女子マネージャーだった。
 プロ野球選手となった里中が、千葉で物件を探すには苦労するのは分かりきっている──有名人になったわけだし。
 そう思った担任が、「確か野球部の元マネージャーが、千葉で不動産に勤めていたな」と思い出すのは、当たり前の流れのような気もする。
 少しでも里中の負担を軽くするために紹介してくれたのだろうが──その相手が愛子だったのは、どうかと思わないでもない。
「なぁんでそこで、山田が連絡取るかなぁぁあー。」
 頭を抱えて、美智子は思わずその場にしゃがみこんだ。
 そんな彼女を見下ろしながら、愛子はキラキラした目で、
「ね、ね? 時代はヤマサトでしょっ!?」
「…………あー……ぅー……。」
 なんとも答えられなくて、ガックリと頭を抱え続ける。
 言われてみれば、なんとなく……在学中にも思い当たる節があったりとか。
 そう言えば、いつだったかの高校野球のナレーションで、なんだか赤面するような台詞を吐かれていたバッテリーだったということも思い出す。
 これで山田が妹のサチ子ちゃんみたいに、美形だったら、何も言わずに乗りかえてやるのに……いや、やはり同級生のよしみで、もう少し土井垣君にしがみついてみたほうが……っ(多分、土井垣君張本人は、コレを聞いた瞬間、『そんなよしみはいらん』と厳しい顔で言いそうである)!
「年明け早々、山田はみんなと箱根に行くとか言ってたし、今日のコンサートでうまく殿馬君と接触することができたら、ぜひ二人のツーショットを取ってくれるように頼まなくっちゃっ!」
 愛子は、一人意気揚々と宣言した。
 どうやら、いまだに山田と連絡を取っているらしい──その理由は、押して謀るべし。
 十中八九、卒業後の「若き青年監督と故障に苦しむ美少年投手の愛の行方が知りたい……っ!」と言うだけで、わざわざ就職先の千葉から、毎日のように土井垣に電話をして、「里中ちゃんの肩の具合はどう? もう、心配で心配で……、あんた、あんまり無茶させちゃダメよ? いい? 夜の体位は、ちゃんと肩に負担のかからないようにしないと……っ!」と、迷惑以外の何者でもない電話をしていた時のようなことを、山田相手にしているに違いない。
「──と、そのためには、大きな花束買わないとね〜っ!」
「……………………。」
「────…………。」

 やっぱり、愛子は、ある意味偉大だ。

 あの明訓高校で、堂々と「マネージャー頭」を勤め上げてきた、自分達のリーダーとも言える娘を、呆然と見やりながら──洋子と美智子は、こっそりと視線を交わしあい、乾いた笑いを零すのであった。









+++ BACK +++




オリキャラしか出てこなかった……。