***オリキャラ腐女子注意報発令中***
「あなたがリレーをしないワケ のキャラ設定」
明訓高校のグラウンドに、今年も夏がやってきた。
頭上で輝く太陽に照らされた元で、少女たちはジャージ姿で忙しなくグラウンドの片隅で洗濯の準備をしていた。
時折吹く風を浴びながら、彼女たちは三人揃って、汚れたシャツの入った洗濯籠を両手に、新入部員がたった3人しか残っていないグラウンドを見る。
「今年は、三人かー……結構、残らなかったわね。」
言いながら、昨年の夏に、引退したひとつ上の先輩たちから「マネージャー頭」に任命されてしまった少女は、残念そうな台詞とはまったく違う、満面の笑顔と弾んだ声でそう呟く。
そのキップの良さと、「主将」である土井垣とタメを張れ、なおかつ特定の部員一人を優遇しないという理由から、「マネージャー頭」に任命されてしまった少女は、明訓高校の「いい男ランキング」に常に上位に入る男「土井垣将」のクラスメイトである。
そんな彼女──「小西愛子」の台詞に、同じように残念そうな仕草をしながら、
「ほぉーんと、まさか3人しか残らないなんてねぇ。
最近の若い子は、忍耐が無くて困るわぁ。」
愛子の友人であり、親友でもある少女──「中里洋子」が呟く。
そんな彼女の目元も、にんまりと笑っているのを認めて、3年生女子マネージャー3人組の一人──「湯谷美智子」が、呆れたように二人を見やった。
「なーに言ってるの。黄金のルーキーが残ってるから、本当はすんごく嬉しいくせに〜。」
かく言う彼女の口元も目元も、にんまりと笑みに染まっていた。
新入部員が3人しか残らなかったのは寂しい。あれほど居た新入部員が、たった数日のうちに3人になってしまったのは、ひどく残念極まりないことだ。
しかし、その三人の中に──入部初日に「あんなに小さくて華奢で、やってられるのかしら?」と思っていた「黄金のルーキー」が残っているのだ。
「そりゃ、あったりまえじゃないの〜。」
にんまり、と笑みをにじませて、愛子が笑う。
そして彼女は視線を転じると、グラウンドに居る少年たちを見やると、
「思い返せば、長かったわよねぇ……この2年間。」
ふぅ──と、吐息を零す。
見回したグラウンドには、野球少年たちがはびこっている。
その中、一際大きな巨体を持つ一年生と、横に広がりがある一年生に紛れ込んで、中学1年生くらいかと思う小さな少年が混じっている。
その面差しはリンとしていて、そうしてみていると泥臭い少年たちに混じった、白鳥のようにも見えた。
「ほんっと、長かったわよね。」
愛子の言葉を受けて、うっとりと洋子もその「黄金のルーキー」と、新入当初からこっそりと名づけた少年を見つめる。
その目にこもった熱を認めれば、大抵の人はみな、彼女たちが新しく入ってきた部員の美少年に、悩殺されたと思うことだろう。
確かにそれは間違ってはいない。
間違っては、いないのだが──彼女たちは、今もグラウンドに鈴なりになっている「土井垣さーんv」と叫んでいる少女たちとは、まったく違う情熱の主であった。
「もー、1年生の時はさ、ロクな先輩は居ないし、二年になっても、ロクな新入部員はこないし。」
ブツブツと文句を零す美智子に、うんうん、と愛子は頷く。
「そうそう、せっかく土井垣って言う、ステキきわまりない攻ができたのに、ちょうどいい受けがいなくってさ、しょうがないから徳川監督で我慢してたっけ。」
はぁ……と溜息を零す愛子に、驚いたように美智子が目を見張る。
「って、愛子はおかしいわよ……なんでそこで、徳川監督で我慢できるのっ!? できちゃうのーっ!? あたしはだめっ! あの人、腕毛も脚毛も胸毛もあるじゃないのよぅっ!」
ブンブンッ、と、青ざめてかぶりを振る美智子に、そーぉ? と愛子が首を傾げる。
そんな二人を、呆れたように──そして恐ろしいものを見るように洋子が軽く肩をすくめる。
「私はどっちかというと、土井垣君をリバーシブルに指定しちゃえる愛子も美智子もすごいと思うわよ……、あたしはもう、最初っから土井垣君は、攻だなぁ〜。あの性格と言い、あの顔といい、身長といい、キャッチャーだってとこと言い、ばっちり攻体質じゃないの!」
思わず興奮して、拳を握り締める洋子に、チッチッチッ、と、愛子が指先を左右に振った。
「ふっ、甘いわね、洋子。土井垣はね、ああ見えて受け体質もいけるのよ!」
ババーンッ、と、効果音すら伴いながら、愛子が堂々と宣言する。
そんな愛子に、まっさかー、と顔を引きつらせる洋子に、愛子の「リバーシブル説」を後押しするように美智子が叫ぶ。
「そうよ! なんてったって体育会系っ!」
「1年の頃は──ほら、あいつ、1年で即レギュラー入りで、唯一の1年生の合宿所メンバーだったじゃない!? きっと、2年と3年に、色々、アレやコレや仕込まれちゃって、それでも体育会系の性で逆らえなかったのよぅーっ!」
「いやーんっ! あたしも合宿所に泊り込みたい〜っ! 見たいぃ〜っ!!」
手にしていた洗濯籠を放り出し──そのついでに、ニ、三枚アンダーシャツが地面に零れ落ちたが、まったく気にせず、愛子と美智子の二人は手を取り合ってピョンピョンと跳ね上がった。
そんな風に喜ぶ二人を、やっぱり理解できないと言った眼差しで、洋子は眺めた後──ハッ、とわれに返ったように二人に割り込んだ。
「ねねっ! 合宿所でアレやコレやってことは……っ!
それで同じように、里中ちゃんにも直々にお教えしちゃったりとかしてるのかしらっ!?」
キラキラ、と輝く目で割り込んできた洋子の台詞に、両手を取り合って喜んでいた愛子と美智子は、ハッ、と顔をこわばらせた後……。
「って言うかしたわよね、絶対っ! キャーッ!」
洋子を巻き込んで、三人で悲鳴に近い喜びの声を叫んだ。
さらに三人は、円陣を組むようにして、肩を組み合うと、毎日恒例の額をつき合わせて欲望を叫びあうモードに入った。
「何々っ!? 『お前と俺は、これからバッテリーを組むんだ。息を合わせるためにも、これは必要なことなんだ』とか言って、自室呼び出しっ!?」
「あぁんっv それで里中ちゃん、翌日は腰がまともに立たなくて、きちんと土井垣のミットに球が入らなくてお辞儀してたのよぅ。」
「もー、土井垣君ったら、それを分かってるくせに、『お辞儀してるぞ』なんて怒って……ふふ、その夜はやさしくしてあげたに決まってるわねvv」
この三人のマネージャーたちが、グラウンドの片隅でそんなことをしているなどと、野球部員たちはまったく気づかない。
いや、気づいたとしても入りたくはないだろう。
散々、昼間のおてんとさまの下ではできないような話をしたあと、日に焼けた肌をホンノリと赤みにほてらせて、洋子が満足げに頬に手を当てて感嘆の吐息を零す。
「はぁ〜v もぅ、今年の夏コミはコレに決まりねっ!」
「って言いたいとこだけど、今年は甲子園に行っちゃったから、参加できないのよね……夏コミ……ふふ。」
意味深に微笑んで、美智子が残念そうにかぶりを振る。
「そーなのよねぇ。嬉しい誤算だけど、スペース、誰かに譲らないと……。」
今年は、土井垣里中で新刊を埋め尽くすつもりだったのに──というか、全国ネットで美形バッテリーとして放映される以上、私たちが書かずして、誰が書くっ!?
今年は例年以上に萌えると、5月の辺りから両手をつかんで喜びあったというのに……。
そうガックリと肩を落とす美智子と洋子の肩を、ガシリ、とつかんで、愛子は煌くばかりの笑顔で、
「でも、譲ったスペースに新刊は委託するわよ、もちろんっ!
今日から彼らが昼も夜もがんばってる分だけ、あたしたちも半徹夜でがんばるわよっ! おーっ!」
ちなみにこの場合の「彼ら」は、今グラウンドでがんばっている野球部員諸君である。
彼らは絶対、甲子園を目前にして、そんなことを叫んでいるマネージャーたちの、そういう「がんばり」は必要ないと思うことだろう。
だがしかし、やっぱり残念ながら、誰もこの三人の会話を聞いてはいなかった。
「おーっ!!!」
拳を振り上げて、洋子と美智子が愛子の宣言に乗って叫ぶ。
「そしてもちろん、野球少年関係は全部買ってもらうわよーっ!」
ガッツっ! と叫ぶ愛子に、洋子と美智子も大きく頷き、そして彼女たちは再び決意の円陣を組むと、
「ガッツ! 明訓っ! ゴーッ!!」
──こういうときには、使ってほしくないと、野球部主将土井垣が心から思うであろう掛け声をかけた。
──────真夏の明訓の戦いは、まだ始まったばかりである。
思う存分叫ぶだけ叫び、とりあえず一息ついたマネージャーたちは、そのまま地面に放り出した洗濯籠に気づき、あらあら、と能天気な声をあげながら、それを再び担ぎなおした。
そしてそのまま、合宿所近くにある洗濯場ではなく、学校のグラウンド側の方へと歩いていく。
合宿所の方の洗濯場は、合宿所に泊り込んでいるメンバーの洗濯物を洗濯している「男連中」が使っているため、女子マネージャーたちは、サッカー部や陸上部のマネージャーたちも使っているグラウンドの足洗い場辺りの水場を使うことになっている。
そこへ向けて歩き出しながら、足取りも軽やかに、愛子たちは再び腐女子話に花を咲かせる。
「思い返せば、土井垣がバッテリーを組んできたピッチャーには、ロクなのいなかったわよねー。」
土井垣が一年生の時に即レギュラーになったときから、実はずっとおもっていたわ、と告げる愛子に、そうそう、と洋子が同意する。
「そうそう、あの大川もさー、なんていうの? プライドだけは一丁前でね。」
あの顔でよくもまぁ、土井垣君の隣に立とうだなんて思ったものだわ、と重々しくかぶりを振る洋子に顔を向けて、
「でも、さすがに里中ちゃんにコテンパンにバカにされたのを見たときには、ちょっぴり可哀想だったわよね。」
ちょっぴり、と、美智子が片手の人差し指と親指で示すと、
「あんた、そのちょっぴりの指の間、ないわよ。」
すかさず愛子が突っ込んだ。
「だからチョゥッピリ。」
えへ、と笑って美智子は、指先をヒラリと舞わせる。
「けどけど、里中ちゃんの、あのわがままっぷりのハネッ返りぶり、ま・さ・に・受けよねっ!」
洋子が、グッ、と拳を突き出して宣言すると、もちろんだとばかりに、愛子と美智子が勢い良く頷く。
「そうそう、ワガママプリンセスよね〜v 姫よ、姫v」
「大川もきっと、好きな子だからいじめるモードに入っちゃったのよぅ。」
いつの間にか彼女たちの頭の中では、そう変換されてしまっているらしい。
話に夢中になるあまり、歩くスピードがゆっくりになり、ことさら声は大きくなる。──が、これもいつものことである。
「いやんv はねっかえりのお姫様を、土井垣君が調教するのね!」
何かツボに入ったらしい洋子が、人様の前に出るには恥ずかしいくらいのにやけ顔で、洗濯籠を抱きしめつつくねくねと腰を躍らせると──愛子がそんな彼女に水を刺すように冷静な声で、かぶりを振った。
「いや、それはないわね。まずあの土井垣の性格から判断すると、調教するように仕向けつつも、結局自分が折れることが第一よ。」
その、リン、と響く声に、キョトン、と美智子と洋子は目を瞬かせる。
「え、なにそれ? どういうこと?」
なんだかんだ言って、土井垣と三年間同じクラスを貫き通した愛子は、彼とそれなりに仲がいい──そういうと、土井垣はひどく嫌そうな顔をする。
三年間ひたすら土井垣へ、「歪んだ愛情」を注ぎ込んできた愛子の観察眼は、粗末にはできない。
「土井垣はね、なんだかんだ言って、ああいう『実力のあるむこうっけの強いの』は、好みのタイプなのよ。それを無理矢理ねじ伏せるよりも、可愛い可愛いってカイグリカイグリするほうが好きなの!」
ギュッ、と拳を握り締めて叫ぶ愛子に、ほほーぅ、と、美智子が感心の声を上げる。
「はぁーん、締めるところは締めつつも、甘やかしちゃうわけだ〜v」
「あっ、それ、ツボ! あたしのツボ〜っ!! いやーっ、見たいっ! すっごく見たいぃぃーっ!!!」
ばしばしっ、と、抱きしめている洗濯籠を強く叩きつけて、洋子がますます発狂した声をあげた。
足を止めて、ジタバタと激しく足踏みする洋子に向けて、愛子もピョンと飛び跳ねるなり、
「見たいわよねーっ!? いっそのこと、こっちで勝手にスケジュール調整しちゃって、2人っきりで風呂に入れるようにしちゃおっかっ!?」
喜び勇んだ表情で、二人を見て満面の笑顔で告げた。
──瞬間、
「えっ、それ、いいわねっ!」
美智子も、キラキラと目を輝かせて同意を示す。
その答えに、グッ、と親指を突き出し、ジョブは完璧とばかりに、
「この合宿所のお風呂、表から、丸見えだしねっ!」
愛子はキラーンと歯を輝かせて笑った。
「やっだーっ、そんなことしたら、土井垣君、理性持つのーっ!?」
「きゃーっ! 何、言ってるのよーっ!!」
バシバシッ、と、またもや洗濯籠を放り出して、お互いの肩を叩き合って狂喜の悲鳴を上げるマネージャーたち。
そんな彼女の姿は、グラウンドから丸見えであった。
「……あーあ、またマネージャーたち、奇声あげながら歩いてるぜ。」
前は、ボール磨きしてる時くらいだったのに、今年に入ってからは、ほとんど毎回だなー、と、のんきな声をあげて、最上級生である部員が、バットで肩をトントンと叩きながら、バックグラウンド越しに見えるマネージャーたちの姿を認めた。
そんな彼に、
「今年の4月から、頻度が上がったよな……。」
誰もが思っていただろうことを口にする。
──あのマネージャーたちは、二年生のマネージャーや、グラウンドに鈴なりになっている女子たちと違って、「土井垣」目当てのファンじゃないという、ほかの部員にとってはありがたーいマネージャーなのだが……ああいうところが、珠に瑕なのである。
「つぅか、アンダーシャツとかの洗濯、山田がしてる量のほうが多いんじゃないのか……?」
せっせと洗濯をしている山田のことを思い出しながら──一年生がそういう仕事をするのが当たり前で、ピッチャーである里中にそんな肩や指を痛めるようなことはさせられない以上、山田が全部請け負っているのだが──、どこか同情めいた感情を宿して呟く部員に、
「違う高校の偵察に行ってるときくらいだよな、うちのマネージャーたちが静かなのって。」
片割れの男も、ゲンナリした声で答えた。
土井垣目当てじゃないマネージャーは、とってもありがたい存在なのだが──、
「………………仕事してくれよ…………………………。」
そう思うのはきっと、悪いことでは…………ない、と…………思う。
+++ BACK +++
誰も要望もしてないのに、書いてみた……(笑)。
土井垣v里中 大プッシュなオリキャラ女子マネージャー3人組。腐女子です。
いや、美形バッテリーが出たら、そりゃもう、萌えるだろうなー、って思いまして。
なんかもう、彼女たちの頭の中では、二人はできてるみたいですね……(笑)。
本当は、「三年生お別れ会」の席に、彼女達が土井垣に隠れて酒を持ち込んで、里中に飲ませて酔わせようとした計画の話にもつれ込ませるつもりだったのですが、とりあえず今回は妄想編です……。
「どうしたんだ、里中?」
なんだか居心地悪そうにしている里中に気づいた山田がそう声をかけると、彼は整った顔を少しだけゆがめて、うん、と小さくひとつ頷いた後、
「なんか最近、変な視線を感じるんだ……。」
居心地が悪そうに首を竦める里中に、えっ、と山田は軽く目を見開いて、辺りをきょろきょろと見回すが、そこに居たのは、ボール磨きをしている最中のマネージャー三人だけ。今日も仲がよさそうにお互いの肩をつつきあって、笑いあっている。その顔が、どこか紅潮して興奮したように見えるのはきっと、日差しが暑くてほてっているからだろうと思われる──おそらく。
「お前のファンじゃないのか?」
神奈川県大会で優勝して以来、記者だとか、ファンだとか──色々な人が里中を見に来ている。
だからではないのかと尋ねる山田に、里中は首を竦めたまま、上目遣いに山田を見上げた。
「そういう視線じゃないって言うか……なんだろう? すごく身近から感じるような……。」
ブルリ、と身を震わせる彼に、山田は心配そうな表情になったが。
「あぁ、それは気にするな、里中。」
不意に声が、前方から飛んで来た。
ハッ、と見上げると、憮然とした表情の主将が立っている。
いつもりりしく立ち姿も見事な土井垣にしては珍しく、苛立ちを隠せない様子で、ジロリ、とグラウンドの一角──色めきたったようなマネージャーたちを睨みつけている。
その様子に、山田も里中も、あのマネージャーたちが土井垣相手に「キャv」と色めき立っているのが、許せないのだろうと──堅物らしい土井垣の対応に、納得した。
しかし、その本意は土井垣とマネージャーたちにしか分からない。
「そりゃ、キャプテンは視線に慣れてるかもしれませんけど……。」
困ったように顔を曇らせる里中に、土井垣は声をかけようと口を開いて──再びジロリとマネージャーたちの方向を睨みつけると、
「気にしすぎてると、余計に胃が痛くなるだけだぞ。
……それから、里中、忠告しておくが。」
主将としてではない、先輩としての提言だ、と続く土井垣に、珍しいこともあるものだと、目を大きく見開いて、小動物のように見上げてくる里中へ、声を低くさせ……、
「マネージャー達が時々部室に忘れていく『原稿用紙』は、決して見るなよ。」
「………………──────ハイ?」
「って……それは、他校の偵察用……ですよね?」
何を言うのだと、目を見開く里中に対し、慎重に尋ねてくる山田。
そんな後輩二人を見下ろし──ふっ、と土井垣は意味深に笑うと、
「………………お前らに、徳川監督なのかと──あの時の衝撃は、味わわないほうがいい。」
そう、ますます意味の分からないことを告げてくれた。
どうやら彼は、見たことがあるらしかった。
そしておそらく、多分……今、マネージャー達が誰を標的にしているのかも……知っているに違いない。