「女性自身」










 就寝時間が差し迫った時間──、合宿所の人間のほとんどは、自室に戻って寝る準備をしている。
 布団も敷き終わり、そろそろ寝るかという準備が終わるのが、この時間でもある。
「里中、一応枕元に水を用意しておいたほうがいいんじゃないか?」
 最近、少し風邪気味の里中を心配した山田の言葉に、確かに夜中に咳こみ、喉が痛いと厨房に行くのはひどく億劫だと、頷いたのがそもそもの始まりだった。
 賄いのおばさんが帰った後の静かな食堂で、食器棚の中から勝手に水差しとグラスを二個取り、冷えた水を水差しの中に入れる。
 それを両手に持って、そのまま部屋に帰ろうとした途中──里中は、談話室の扉が半開きになっているのに目が止まった。
 開いた扉の向こうは真っ暗で、誰か居るようには見えなかったが、一応確認のために里中は扉を開いて顔を突っ込み、
「誰か居るのか?」
 声をかけながらぐるりと室内を見回した──と、
「あれ、何だ、アレ?」
 談話室の中央──机のど真ん中に雑誌が置かれているのが薄暗闇の中で、ぼんやりと見えた。
 誰かが置いたことはまず間違いないだろうが、その「誰か」が、談話室には居なかった。
 基本的に野球雑誌ばかりが散乱する談話室では、ほかの雑誌が置かれていることなど珍しい状況であった。
「個人の私物は、自室に保管しろって言ってあるのにな、ったく。」
 こういうことに口うるさい監督が見たら、全員食堂の床で正座させられて、説教されるぜ──と、顔をゆがめながら、里中はテレビで見た覚えのある顔が表紙を飾っている雑誌を手に取った。
 「女性自身」──ある意味、男でも知っている有名な雑誌ではある。……が、男子高校生の、それも野球小僧が見ることはないだろうと思われる雑誌である。
 まかないのおばさんが持ってきたのか、もしくは誰かが面白半分に持ち込んだのか──、誰のかはわからないが、とりあえず自室に持ち帰るしかないだろう。
「漫画だったら、十中八九、岩鬼か三太郎なんだけどな……。」
 まったく、面倒くさい、と呟いて、寝る前に談話室に寄った自分の不運に舌打ちを覚えながら、里中は雑誌を片手に談話室を出るのであった。









 里中が厨房に水差しとグラスを持ちに行ってすぐ──ドンドン、と、鈍い音で扉が叩かれた。
 就寝前に尋ねてくる者など、まず居るはずもない。
 里中に違いないだろうが──、なぜ水差しとグラスで、両手が開かないのだろうかと、山田は首をひねりながらドアを開いた。
「里中、どうしたんだ?」
「悪いな、山田。」
 開いた扉の先で、里中が不満そうな顔を隠そうともせず、するりと部屋の中に滑り込んできた。
 山田はソレを振り返って、里中が右手に水の入った水差し、左手にコップを二個、さらに小脇に雑誌を持っているのを認めて、顔をゆがめた。
「里中、寝る前に雑誌を読むのか?」
 彼が気を使って、自分の分までグラスを持って来てくれたのは分かるが、雑誌はどこから持ってきたのだと、そう目を瞬く山田を背に、里中はグラスとコップを枕元に置くと、どっかりと布団の上に座り込んだ。
 そして、バサ、と投げ出すように雑誌を山田の布団の上に放り投げる。
「──女性自身?」
 里中が持ってくるにしては、あまりにも似合わな過ぎる題名のソレに、山田はいぶかしげに雑誌を拾い上げた。
「誰のかわからないけど、談話室に置きっぱなしになってたんだよ。」
 土井垣監督に見つかる前でよかったぜ、と零す里中に、そうだな、と軽く答えを返して、山田は雑誌をペラリと捲った。
「なんだよ、見るのか?」
 芸能ゴシップ誌なんて、興味ないと思ってた、と言いながら、ゴロン、と自分の布団に横になる里中に、山田は小さく笑った。
「いや、こういうのって見たことがないから、どういう内容が乗っているのかとか、興味ないか?」
「どういう……って、芸能ゴシップじゃないのか?」
 布団の上にどっかりと座る山田が捲る手元に視線を落とし、ヒョイ、と肩をすくめて、里中は布団の上で頬杖を着いて、山田が手にした雑誌を見上げた。
 興味がない人間からしてみたら、何日発売のものであろうとも、外見は何も変わっていないように見える──どれが自分が買った物なのか、見分けがつくのだろうか?
 里中でも知っている芸能人の名前が大きく書かれた主題らしき文句と、その隣に小さく書かれた細かい「時勢話」から判断するに、おそらくは最近発売したばかりのものであることは間違いない。
「──あ、山田、ダイエットが乗ってるぞ。」
「あははは、それはいいよ、別に。」
 表紙の端の方に書かれた文字を見上げて、ここ、と指先でつつくと、山田が小さく笑って否定した。
 ペラペラと捲る音を聞きながら、そんなに興味があることが載っているのかと、里中が首をかしげた瞬間、
「なるほどな。」
 不意に納得したように山田が呟いた。
 その言葉に、何の話だと、里中はキョトンと視線を上げる。
 先ほどまで興味なさげにぱらぱら捲っていた手が止まっている。どうやら、気になる項目を見つけてそれを読んでいるらしい。
「何がなるほどなんだ、山田?」
 寝転がっていた体を起こし、山田の隣に移動すると、彼は隠すことなくあっさりと自分が開いているページを示した。
「性格判断だよ、ほら。」
「……血液型別? 相性? ──そんなの当たるのかよ?」
「いや、でも結構バカにはできないぞ。バッターの癖や性格を知るのに、選手年鑑で調べた血液型や星座が役に立つこともあるしな。」
 ──本試合の経験と、過去の試合の癖や性格のほうが、ずっと確実であることは間違いないけどな。
 そういって笑う山田の肩に手を乗せて、里中は彼が見ているページを覗き込みつつ、
「で、何が『なるほど』なんだよ?」
「あぁ、……ここ、かな。」
 なぜか少しためらうような間が発生した後、山田は自分の手元の雑誌の──四つに区分けされたうち、右上の部分を指先で示した。
 見開きの右柱の部分には、『あなたの好きな男性は、こんなタイプ』と見出しが書かれている。
 どうやら、「女性」が、自分の好きな男性の性格を、血液型から判断するためのページのようである。
 そして右上と言えば、
「…………A型男性の、性格。」
「──な、里中らしいところもあるだろ?」
 結構、当たるもんだよな、と続ける山田に、里中はなんとも言えない顔で顔をゆがめた。
 良く昔から言われるのは、「A型は几帳面で繊細」という言葉だが、そんな血液型占いを見るたびに、「里中って本当にA型なのか?」と疑問を持たれることが多かった。
「俺、B型かAB型だって言われるんだけどな……。」
 それは自分でも常々思うところである。
 真面目だというのは、ある意味当てはまることもあると思うが、「几帳面で繊細」というのは大分違うと思うのだが──、そう思いながら、里中は雑誌の右上に載っている「基本性格」の部分を読み下した。
『A型の男性の特徴としては、いわゆる“石橋をたたいて渡る”タイプです。
 何事にも細かく計画を立てて慎重に行動する性格です。』
「………………えーっと……俺、こういう性格か、山田?」
 山田の肩に頭を乗せるようにして、その部分を読み取りながらますます首を傾げる。
 もうなんだか、最初の部分で違うような気がすると、里中は思わずには居られなかった。
「ん? ──あぁ、こっちはな、ほら、この続きの、
 『人や社会に対する見方や批判は厳しいですが、また自分にも厳しく、置かれた立場をよく理解して、何事にも自分がどうすべきか、責任感を持って行動します。』
 という所が、里中らしいじゃないか?」
「…………そうか?」
 あからさまにいぶかしげな表情を宿す里中の頭をポンポンと叩いて、山田は小さく笑った。
「里中は、自分に厳しいからな。」
「それは山田もだろ。」
 間近に見える山田の目を覗き込み、里中は再び雑誌に視線を落とした。
 山田が読み下した後に続く部分を無言で読んだ。
『A型の男性は、規則や決まり事をきちんと守る努力をします。
 そんな観念を貫くことで、自分にも厳しくなるので、知らず知らずの内に他人にも同じ事を要求し、厳しい観念を押しつけがちです。』
 山田はおそらく、あえてこの部分を読まなかったのだろう──が、このあたりは、確かに、思い当たることがあった。
 あははは、と消えそうな声で苦い笑みを口元でかき消した里中は、結構当たるところもあるんだな、とそのまま山田の肩に体重をかけるようにして続きを読んでみることにした。
──興味がなくても、気になることは気になるのである。
『A型の人の恋愛観』
 雑誌が女性向けなことから判断して、おそらくこれがメインなのだろう。
 基本的性格や、最後に書かれた相性の部分よりも、枠が大きめに取られている。
 何々、と流し見ようとした里中は、まず一行目で動きが止まった。

『A型の男性にとっては失恋の痛手は大きなもののようで、思いを寄せる相手との恋が実らなかったときのショックは大きく、いつまでも未練がましく相手を思い、自分の気持ちを断ち切ることができないようです。
 しかし、他人にはそんなところを見せるのがイヤで、特有の理論で自ら身を引いたように言います。
 でも結果的には余計に自分が惨めで悲劇のヒロインのような気がして落ち込むことになります。 』

 何も、恋愛観の一番最初に、こんな文章を載せなくてもいいんじゃないだろうか……げんなりして、肩を落とした。
 そんな里中をチラリと見下ろして、山田は首をひねった。
「どうかしたのか、里中?」
「ん……イヤ、恋愛観の一番最初に、失恋の痛手が大きいって書かれてるって言うのもなぁ……て思っただけだ。」
 ほら、ここ、と指先で示すと、山田もそこを見終えた後なのだろう──苦い笑みを刻み込んで、確かにな、と同意してくれた。
「しかも俺、なんか失恋した後にストーカーになりそうじゃないか?」
 もしくは、無言電話や嫌がらせの手紙を書きそうなタイプ。
 そうイヤそうな顔で告げる里中に──いや、里中に限っては、それは絶対にありえないだろうと、山田は一笑に伏した。
「まさかまさか。」
「でも、俺、目の前のことで一杯になると、周りのことを考えないところもあるしな……。」
 さすがにソレは自覚しているらしい。
 そのあたりは、
『普段は恋愛にも冷静なA型の男性ですが、恋の炎が燃え上がると地位や名誉や家族までも全て投げ出してでも、愛を貫こうと思い切った行動に出ることも少なくありません。
 A型男性はいつもは自分というものをきちんと持っているのに対し、そういった時は自分が見えなくなってかなり危険です。
 相手の気持ちも考えずに自分勝手な行動に走ってしまったり、つまらない誤解で恋をなくしたりすることもあるので気を付けた方が良いでしょう。
 A型の男性の恋の一途さはともすると相手を束縛してしまう事もあります。』
 と続く言葉が、それを示しているような気がした。
「なんかさ、なんで俺じゃダメなんだ、とか、俺を捨てるのか、とか、お前んちに押しかけそうじゃないか、俺?」
 眉を寄せてそう呟く里中であったが、声の調子が軽いことからすると、冗談のつもりなのだろう。
「──……いや、それはだから、ないだろ、里中。」
「そうか?」
「そもそも、お前が失恋することなんてありえないだろ。」
 ポン、と、大きな手のひらで頭を軽く叩かれて、里中はキョトンと目を見張った後、すぐ間近に見える山田の細い目を見上げた。
 それから、やさしく笑う山田の顔に、少し照れたように頬を赤らめ、睫を伏せた。
「う……ぅん。」
 頭の後ろに当てられた手のひらで何度か髪の毛をさすって撫でられ、里中は首を竦めて小さく笑んだ。
 柔らかな感触が髪の毛の上に降り、くすぐったい気持ちで里中は喉の奥で笑った。
「そっか……そうだな。」
「そうだよ。」
 山田の手が肩に回って、やんわりと引き寄せられる。
 その動きに素直に従いながら、里中は幸せそうな微笑を浮かべた。
 スリ、と肩口に頭を摺り寄せながら、
「ま、でも、あんまり暴走しないように気をつけるよ。」
「──そうだな。」
 今でもすでに、暴走しすぎて山田でも止められないときがあるのだが、それはあえて口にしないことにして、山田は彼の肩を軽く撫でさすってやった。
 そうしながら、チラリ、と恋愛面の最後の一行に視線を走らせ──、
『また、A型男性は、以外に嫉妬深いところもあります。』
 分かるような気がするそれに、誤解されるような行為は謹んで行こうと、心の中で付け加えてみた。
「で、恋愛観のその次は、と。」
 気になるらしい里中は、そのまま隣に視線をやった瞬間……う、と、短く呟き、あからさまに視線をそらして次のページ上の、
「山田はO型だったよな。」
 O型の基本性格と恋愛観の方に視線を走らせた。
 その、見て分かるほどの微かな動揺に、山田も苦い笑みを刻み込み、そのページからはさり気に視線を外した。
 確かに、今の自分たちには、その項目を語り合うことは出来ない──「セックス観」なんて、平気な顔で語り合ったり、お互いが居る前で平然と見れるものでもないからだ。
「えーっと、山田は……、
『O型男性は明朗で、人間関係を大切にし、愛情のある人です。
 そして他人の気持ちを尊び、例え自分自身が損をすることがあっても、人のために骨を折ることを惜しみません。
 そういったところが他人から高く評価され、O型の男性のまわりにはいつも人が集まってきます。
 面倒見も良いので、親分肌で人気があり、中心的な存在です。』
 だってさ。そうだな、山田はそんな感じだよな。」
 当たってる、とニッコリと笑う里中に、
「そうか?」
 照れたように、右手でコリコリと山田は頭を掻いた。
「で、山田の恋愛観だなっ。」
 コレが本番だとばかりに、キリリと顔つきを改める里中に、山田はただ苦笑をかみ殺す。
「別に、ここに書いてあるのがそのものだとは限らないんだぞ?」
「分かってるけど、案外当たってるかもしれないじゃないか。」
 少しからかいの色を浮かべて、里中は指先で雑誌のその部分を指で追った。
「えーっと、
『O型男性は恋愛には不器用なタイプのようです。』
 …………そーだな、山田はちょっと、不器用って言うか鈍感だよな。」
 うんうん、と一人勝手に納得する里中に、山田は微妙に顔をゆがめて見せた。
 鈍感だというが、そういう里中のほうこそ、自分を好きだと思っている人間が回りに居ることを自覚していない節が多い気がする。
 何せ、山田の場合は「もてる」ことがないが、里中はそうではない。
 にも関わらず、彼は「慕われている」と、「本気で好かれている」の区別がついていないことが多い──そのおかげで、助かっている部分も多いから、あえて口に出しては言わないが。
「で、山田、ここ重要。」
 クイクイ、と山田の意識をこちらに向けるかのように、里中は彼の服のすそを軽く引っ張ると、声に出して続きを読み上げた。
『O型男性は「好きだ」と自分の気持ちをなんの恥じらいもなく何度となく言葉にします。
 ストレートに本音を言い、本能のおもむくままに行動しますから、女性の警戒心を強めてしまうことも。
 ですが、少し相手の心情を理解し、自分の気持ちを効果的に伝えるよう努力をすることが必要なようです。』
 そのままニッコリと微笑を浮かべて、
「──これは、山田に足りない部分だよな?」
 からかうような口調で山田を見上げる。
 そんな彼の、楽しそうな表情に、山田は、軽く顔を歪めた後、顔を傾けるようにして、
「……好きだよ、里中。」
 ボソリ、と──呟いた。
「──……っ! そ……れは、ずるい……っ。」
 目に見えて分かるほど顔を赤らめた里中が首を竦める。
 まさか本当に口にするとは思わなかった、と、早口で続ける里中に、言った方も照れが増して、山田は彼に負けず劣らず真っ赤になる。
 コリコリ、と片手で頬を掻きながら、山田は照れ笑いを浮かべる。
「ずるいって……里中……。」
 お前が急かしたんじゃないか、と続ける彼に、拗ねたような表情で里中はほてった頬を片手で摩りながら、ジロリと睨みあげた。
「そういうのは、俺が心の準備をしてから言ってくれ。」
「…………うん、今度からは気をつけるよ。」
「そうしてくれ。」
 生真面目な表情で頷く里中に、真剣に頷く山田も山田である。
 どうしたら心の準備をしたと分かるのだろうかと、チリとも疑問に思っていないようだが──この2人なら、お互いに分かりそうな気がして怖い、と、突っ込む人間がこの場に居ないのは、非常に残念な限りであった。
「で、続きだったな、続き。」
 山田の返事に満足したらしい里中は、何事も無かったかのように再び雑誌に視線を落とした。
 そんな里中に、こっそりと笑みを零しながら、山田はもう一度里中の肩をポンポンと叩くと、
「里中、まだ読むなら、ちょっと待て。」
 もたれかかっている彼の体を引き剥がして、雑誌に指を挟みこんで閉ざした。
「なんだ、山田?」
 不思議そうに目を瞬く里中をそのままに、山田はせっかくしいた布団の上から枕を取り除くと、そこに雑誌を置いて、自分たちが下敷きにしていた毛布を取り上げると、それを里中と自分の体にかけた。
「このままじゃ体が冷えるからな。風邪をこじらせたら大変だろう。」
 ニッコリと笑いかけて、再び里中の体を引き寄せる。
「うん、そうだな。」
 里中は、自分を包み込むぬくもりに、ふわり、と笑って頷いた。
 そうして、そのまま山田と一緒に、再び雑誌に視線を落とすのであった。














+++ BACK +++


ヤマもオチも何もないですけど、まぁいいんです。
早い話が、一緒の布団に包まって雑誌を読んでる二人が書きたかっただけなんですヨ……。
まぁ良く考えてみたら、普通にやってそーだと思いました(笑)。
芦屋旅館とかでやられたら、周りの人間はたまりませんね。真夏のくそ暑い中、なぜか一緒の布団に包まって、高校野球年鑑を見ている2人……バカです(笑)。
あ、でも、高校3年の夏は、それくらいやってほしいデスね!!(大笑)



ちなみに雑誌の持ち込みは、誰でしょうかね……。なんか面白い記事が載っているのを見て、クラスの女子が持ってきているのを借りてきた、っていう線が濃厚でしょう。


あ、ちなみに、出来上がってますが、マダの頃の設定です……(笑)。










 一緒の布団の包まりながら、里中はO型男性の恋愛観を視線で追う。
 対象者が隣に居る中で、そうやって見るのは、どこか気恥ずかしくて、どうにもむず痒い。
 なので、今度は口に出すことなく、ただ目だけで文章を追うのだが──、
『O型男性には、意外に冷めた一面も潜んでいます。
 燃え上がった思いが叶い、冷静になった時、初めてO型男性の相手の女性に対する本当の気持ちがあきらかになってくるのです。
 そしてそんな現実的な一面が現れたO型男性は、相手の我慢ならない欠点に気づくと、実にクールにあっさりと別れを口に出します。』
──────里中の肩が軽く強張ったのが分かった。
 どこを見ているのか理解した山田が、苦笑を刻みながら里中にささやく。
「……里中、こういうのは、ただの一般論だからな。」
「──分かってる。」
 コックリ、と頷く里中の眉間に寄った皺はほぐれることはなかった。
 眉間に濃い皺を刻んだまま、里中はさらに続きを目で追った。
『O型男性は、愛する女性を守ってあげたい気持ちが人一倍強いようです。
 その気持ちが包容力ですんでいるうちは良いのですが、度が過ぎてそれが独占欲に変わってくると少し問題です。
 ちょっとした事でも嫉妬で心を痛めるO型男性も出てきます。』
「…………山田。」
「ん、どうした、里中?」
「もう少し、度が過ぎてくれても、俺は一向に構わないぞ。」
「………………え……あ……う、うん、分かった。」
 ──まったくもって、どこを読んでいるのか分かりやすい。













────ところで、やはりお互いが見ているところでは、恥ずかしくて見れないが、気になる文章というのは、もちろん、ある。
「A型男性のセックス観」
「O型男性のセックス観」
 さりげにお互いを気にしながら、口では「そういえば、B型って言えば、岩鬼がそうじゃなかったか?」だとか、「渚がAB型だったな。」などと口にして、その項目を読む振りをしつつ、すかさずチェックをしてみたり。
 お互いにわざとらしさが分かっているが、それはあえてお互いに突っ込むことは止めてみた。
 ──どうしても気になるからである。

『A型の男性にとってセックス欲は食欲や睡眠欲と同様に必要不可欠なものです。
 少々新鮮さを失っても飽きることがなく、同じ環境のもとで同じ環境で独創性に欠けていても不足はないようです。
 A型の男性は集中力に優れているので、セックス面でもその行為にあらわれています。
 相手の事を大切に考え、理解しようとするタイプなので、自分のためにも相手を楽しませる事に専念します。A型の男性は燃えるのが遅く、冷めにくい性格なので、行為が終わった後もその優しさは続くようです。』

『O型男性はセックスを陰湿なものとは決して考えず、開放的なものととらえます。妻はあくまでも家庭を守る人で、それに適する人であればセックスがなくても、女性的魅力が乏しくても、別れたりしません。
 恋愛の対象となった女性には、ときめきを大切にする為にプラトニックな関係を続けることも平気です。
 O型男性は根が正直で、セックスについても自分の感情をストレートに表現します。自分がその気になれば、時間や場所もまったくおかまいなしになったりします。
 セックスそのものにしても、前戯に時間をかけたり、体位のパターンを色々とりいれたりと実に積極的です。』

 微妙な沈黙が2人の間に流れた。
 里中は真剣な顔で何か考えている節が見えたし、山田はなんとも照れているようにも見えた。
 この2人、恋愛面に関して言えば、まったく血液型診断の性格が、逆のようにも見える。
「……ま、結局こういうのは、当たったり当たらなかったりだしな。」
 結果、結論としてそう口にした山田に、里中も顔を上げてコクリと頷くと、
「そうだな、同じ血液型の人間が全員、同じ性格をしてたら、怖いもんな。」
 そう笑って続けた後、
「──……でも、山田だったら、どんなのでも大丈夫だぞ、おれ。」
 果てしなく明るく、ニッコリと笑ってくれた。
「…………………………………………。」
 無言で山田は、体が硬直するのを感じつつ……照れたように笑う里中に、そうか、と頷いてやった。

 今、見ている雑誌の中身と、自分たちの体勢を考えて、言葉を選んでくれ。

 彼が心の中でそう里中に向けて呟いた言葉は、決しておかしな言葉ではないはず──で、ある。