──と、プラスアルファなコネタ。
1 チャンピオンネタ(スパスタ7巻ネタ)
*スパスタ2年目、箱根にて。
「箱根のキャンプのときにさ、岩鬼の様子がおかしかったから、それをサッちゃんに話したんだよ。
そしたら、サッちゃん、年末に
『今年は、絶対、スーパースターズが優勝だと思ったのにな〜、やっぱり、ハッパはダメだな。里中ちゃんの足を引っ張りすぎっ! 里中ちゃんのDH制なくしちゃって、ハッパにDH制入れたほうがいいんじゃないの〜? って、あ、それだと二軍だね。』
って岩鬼に言ったらしくって。」
「…………さ…………サチ子…………なんてことを…………。」
「で。」
「えっ、まだ続くのかっ!?」
「『来年の一番打者は、一番セカンド殿馬くーん、で決まりだよ』って追い討ちまでかけたらしくってさ。」
「サチ子がっ!? そこまで言ったのかっ!?」
「そう。スーパースターズが優勝しなかったことを、岩鬼なりに反省してるっていうか、落ち込んでるみたいだったから、喝を入れて励ましてやるつもりだったらしいんだけど、やりすぎちゃって、最初は真っ赤になってカーッって怒ってたのに、最後の一言を言ったら、ガクン、ってハッパが垂れ下がったんだけど、どうしよう、って言う相談された。」
「…………すまん、里中……。」
「え、いや、俺は全然構わないんだけど……なんか妹の恋愛相談に乗るのって、楽しいよな。」
「岩鬼は、そういうことを真に受けるところがあるから──箱根の時の殿馬の台詞で、ど真ん中打ち、その気になったのかもしれないな……。」
「あぁ、枕50回叩いて寝るとことか。」
「……サチ子はそんなことまでお前に話してるのか……っ。」
「あははは、だって岩鬼のことをそのまま話せるのって、俺くらいしか居ないらしくってさ。
殿馬や三太郎だって、そういう話は聞いてくれるけど、なんか違うんだってさ。」
「………………──────、そう、だな。案外、里中は聞き上手なのかもしれないな。」
「案外ってなんだよ、案外って。」
「まぁとにかく──岩鬼がその気になった原因がサチ子にあるのかどうかはさておいて、岩鬼が今度の阪神戦に掛けてるのは本当のようだから、俺達は出来る限りそれに協力してやろう。」
「じゃ、サッちゃんに電話して、来れるかどうか聞いてみるか。
まったく、岩鬼は世話がかかるな〜(どことなく嬉しそう)。」
2 スパスタ2年目ネタ
*今年はパ・セ交流試合があるので、ピッチャーも打つんです。
「山田〜、俺のバッティングフォーム、ちょっと見てくれるか?」
「ん? それは別にかまわないが、突然どうしたんだ、里中?」
「今年は交流試合があるから、お前もバッティング練習に参加しろって言われたんだ。」
「あ、そうだな、今年はソレがあるんだったな。」
「そう。いいか?」
「あぁ、それじゃ、まずは素振りからだな。」
「うん、頼む。──俺も、たまにバッティングセンターに行って打つくらいだからな……ちゃんと見てもらわなければ。」
「それじゃ、見てるから一度振ってみてくれ。」
「おぅ、行くぞ。」
ブンッ。
「どうだ?」
「そうだな……里中、お前、昔に比べてちょっとココが締まってないと思うぞ。もう少し内側に……こうだな。」
「こう?」
「それでもう一度振ってみろ。」
「分かった。──んっ、こんな感じか。」
「そうだな、もともと里中はセンスはあるし、勘もすぐに戻るとは思うけど──っと、もう少し膝が内側だ。」
「おう!」
*****
国定「……なぁ…………なんであんなに、密着する必要があるんだ?」
殿馬「バッティングフォームの修正づらづん。」
緒方「腰に手を回してか? 肩を抱き寄せてかっ!?」
三太郎「あー……なんかたまに良く、ドラマで『体にベタベタ触ってフォームを直すエロコーチ』って感じっすかねー、アレ?」
山岡「感じだなぁ……、いや、懐かしいなぁ……。なんか俺、明訓の球場に帰ってきたような気がするぜ、あっはっは。」
北「そうだなぁ、昔は良くああやって、球場の端で2人の世界を作ってたよな……二人とも。」
木下「いや、そうじゃなくって……。」
土井垣「まぁ、いいんじゃないか、そこの観客席辺りで、黄色い悲鳴あげてるご婦人方も居るし、受けてるようだし。」
三太郎「智も嬉しそうだし。」
殿馬「やーまだも嬉しそうづらぜ。」
山岡「そうだなー。やっぱりあの2人がワンセットで居ると、なんか落ち着くよな。」
北「だねぇ。」
国定「いや、落ち着くなよっ!」
緒方「岩鬼ーっ! そんな外野でストレッチしてないで、突っ込みにかえってこーいっ!!」
3 モリゾーとキッコロ編
*2005年時勢ネタ(言い切る)
ちなみに元ネタは、某愛知県の某所でやっていたモリゾーキッコロ参加の消防訓練。
なので、テレビでそれを見ていた人にしかわからないネタ……かもしれない。
古びたビルの三階の窓──そこから顔を出している里中は、なぜか東京スーパースターズのユニフォームに身を包んでいた。
そのままの姿で、ビルの外をグルリと見回し、消防車の向こうに張られたテープの向こうにひしめいている「ファン」達に向かって、ニッコリ微笑んで手を振ってみせる。
そんな彼に、ファン達は黄色い悲鳴を上げて、さらにその動きを激しくさせた──とたん、下から、
「里中さーんっ! 里中さんは、逃げ遅れて助けを求めてる人なんですから、もう少しそれっぽくお願いしますーっ!」
メガホンを持った男から、そんな苦笑じみた声が投げかけられた。
見下ろした先で、コリコリと頬を掻いた無精ひげの男が一人、頼みますよと顔の前で両手を合わせてくる。
そう──今、里中達スーパースターズの面々は、この市の消防訓練に協力しているのである。
「ったって、ユニフォーム姿で逃げ遅れるって、どういう状況パターンだよ。」
しかも、山田はちゃっかり逃げ延びた役だし。
「山田が俺を置いて一人だけ逃げるなんて、あるわけないじゃん。」
ブツブツ零しながら見下ろした先のビルの下──出入り口近くに立った山田が、里中を見上げて、おーい、と手を振っている。
そんな彼に手を振り返すと、再びメガホンを持った「現場監督」から注意が飛んだ。
思わず首を竦めて、はいはい、と呟くと、里中はやる気なさげに、
「すみませーん、助けてくださーい。煙と暑さで、どうにかなりそうでーっす。」
窓辺の縁に頬杖を付きながらそう叫ぶ里中の姿は、あまりにも臨場感がなさ過ぎた。
こういう役割を「見栄えがいい」というだけで里中に振ったのは、間違いだと思う。
「やる気ねぇなー、おい。」
同じく、「逃げ延びたエキストラ」役として参加した微笑が、額に手を当ててそんな彼を見上げて呟く。
微笑の隣では、
「サトー! おんどりゃ、男らしゅう、そっから飛び込んでこんかいっ!」
岩鬼が、どんっ、と自分の胸を叩いて、わいの胸に飛び込んでこいやーっ、と叫んでいる。
その岩鬼を見下ろして、飛び込むかぁ、と里中は考えるように空を見上げる。
その間にも、消防訓練をしている人々は、下で放水用のホースを伸ばしたり、セッティングしたり、里中の下まではしご車を伸ばすように走り回っている消防士達が居る。
「それ、いいな……ここ、三階だし。」
見下ろした地面までは、ずいぶんあるように見えた。
ヒョイ、と飛んでいけるような距離ではないことは確かだ。
しかし、やろうとしたらできるようにも見える。
よし、と里中は拳を握ると、ぐい、と窓から身を乗り出し──、
「さ、里中っ! あぶないぞっ、落ちたらどうするんだっ!」
慌てる山田達の横で、岩鬼が両手を広げて、
「よっしゃ、来いや、サト!」
と叫ぶが、もちろん里中が指名するのは岩鬼のはずもなく、
「山田っ! 行くぞっ!」
「おうっ──……って、里中、本気かっ!!?」
ガッ、と窓枠に足をかける里中に、思わず返事をした山田は、慌てたように彼を見上げる。
その山田の隣で、がくぅっ、と岩鬼が肩から地面へつき落ちそうになっていた。
「ちょっと待てっ、せめて布団を積み上げるから、それまで……っ!」
「そんなことしてたら、俺が一酸化炭素中毒になるぞっ!」
行くぞ、と再び声をかけて、ダイブ姿勢になる里中に、微笑も慌てて、岩鬼の肩を叩くと、
「岩鬼っ、俺たちも行くぞっ!」
里中が落下するだろう地点めがけて走リ始める。
続いて山田も、
「里中、無茶をするなっ!」
そう叫びはするものの、やると言ったらやるだろう里中のために、同じく走り寄ろうとして──、
「だから、里中さんは、はしご車で助ける設定だって、言ってるんですから、お願いですから静かにしててくださいっ!!!」
現場監督から、雷を食らった。
「……──っ、と……あ、そ、そうでした。」
慌てて足を止めた山田が、首を竦めるようにして照れ笑いを浮かべる。
肩で息をする現場監督に、すみませーん、と、同じ色のスパスタのユニフォームに包んだ微笑と山田が頭を下げる。
そんな2人に、現場監督は疲れたような溜息を零した後、はしご車を運転している男に、
「さ、里中さんを助けるぞ。はしご車、あげて!」
そう指示を出した。
とにかく何だ。
──さっさと終わらせよう。
その思いが、アリアリと男の顔に映し出されていた。
現場監督の指示に従って、カタカタカタ、とはしご車があがっていく。
里中は近づいてくるはしご車に乗った男を見て、ようやくお役ゴメンかと、ホッと胸をなでおろした。
「助けてくださーい。」
自然、ようやく終えられるという気持ちと共に、「助けて」という言葉に、真摯な色が見え隠れ──しているようには、見えなかった。
はしご車に乗った男が手を差し伸べるが、彼はその手を取ることなく、ココが三階だという事実を忘れているかのような身軽さで、ヒョイ、とはしご車に飛び乗ってくる。
「って、さ、里中さんっ。」
慌てる男の足元で、がくん、と足場が揺れた。
「悪い、悪い。──さ、降りようか。」
さっさと。
そんな思いを露にして、里中はニッコリと笑う。
──あぁ、これでようやく、地上に降りれる。
はしご車がひどくゆっくりと下りていく。
それをじれったい気持ちで待つ里中の肩を、消防士はしっかりと支えた。
ガクンガクンと揺れるはしご車は、あまり快適とは言えない。
少しでも揺れ動いたら、里中の体ははしご車から落ちてしまうかもしれない。
そう思って捕まえていたのだが──はしご車が動きを止めると、とたん、里中は彼の腕を振り払い、下で待ち受けている男達が、降ろそうと手を伸ばしているのを無視するように自ら地面に飛び降りると、
「山田っ!」
はしご車のすぐ傍で、降りてくる里中を見上げていた山田めがけて走り寄った。
そして山田も山田で、無事に降りてきた里中に駆け寄り、
「里中っ! 怪我はないかっ!?」
ガシッ、と、ほぼ中央で2人はしっかと抱き合う。
そんな2人を見ながら、
「────…………最後のこのシーンだけ、熱演してくれなくても、いいと思うぜ。」
「好き好きづらぜ。」
微笑と殿馬が、呆れたように呟いていたとかどうとか。
4 そんなわけ劇場
*管理人が朝まで起きていた理由を、緒方君に再現してもらいました。
緒方ファンは閲覧しないほうが、心の平穏に繋がると思います。
「昨日 俺が 夜明けの ミルクを 飲んだ ワケ」
ここ二日の間に、すっかり慣れ親しんだ気のするホテルの個室を開くと、ムアッとした暑苦しい湿気が顔に触れた。
程よく酔っ払った頭には、その湿気も暑さも、うだるように火照って感じて、熱い息が零れる。
真っ暗闇のシングルルームは、数メートル先の窓からかすかな明かりが漏れているだけ。
出かけ間際に散らかした荷物が、ベッドサイドに散乱しているのが入り口からでも見えた。
廊下の明かりを頼りに、カードキーをドアの横手にあるケースに突っ込むと、それをスイッチとしてカチリと部屋の中の電気がついた。
そこでようやく、部屋の中に足を踏み入れて、彼は後ろ手にドアを閉めた。
カチリ、と小さくオートロックがかかる音がして、ふぅ──と、居酒屋から出てきてから何度も零した熱い吐息を零しながら、ドアに凭れ掛かる。
出て行く時に、時間に間に合わないからと、慌てて出て行ったときのままの状態の室内は、昼間のうだるような暑さは残っていなかったが、それでも不快感を感じる程度の湿気が漂っていた。
それも、今差し込んだカードキーで空調が効きはじめるはずだから、少しの辛抱だ。
そう思いながら、酒で火照った頬や首筋に掌を当てながら、緒方はゆっくりとベッドのある方へ歩いた。
ベッドの真上に設置された大きな窓からは、ポツポツとほのかな明かりを灯す夜景が見えた。
自分たちが近くの球場で試合をしている最中は、さぞかし綺麗に見えたことだろう。
その窓辺に近づき、ガラリと窓を開くと、少しだけ冷えた空気が部屋の中に入り込んでくる。
窓枠に両手を突いて、遥か下方に広がる夜景を見下ろしながら、彼は、ほぅ、と息を一つ零した。
頬や胸や喉の辺りに残る熱は、まだまだ覚めてくれそうにない。
「……明日は早いから、そろそろ寝たほうがいいんだろうけどな。」
苦い色を刻みながら見下ろした左手首の時計が示す時間は、すでに大いに盛り上がった試合の日付を終えて、翌日。まだ丑三つ時とまでは行かないものの、それまで秒読みと言ったくらいだ。
3連戦も無事に終了して──しかも今日の最終日は、緒方が「勝利投手」だった──、後は明日の朝早くに、帰るだけ。
試合は大に盛り上がったし、その後みんなで飲みにいった先でも楽しくて、つい酒を過ごしてしまった。
確か当初の予定では、1時にはホテルに帰ってる──はずだったのだが。
「こんな状態じゃ、興奮して寝れそうにないよなぁ……。」
苦笑を噛み殺しながらも、先程の試合と、居酒屋でのバカ騒ぎまでは行かないまでも、それなりに楽しかった騒ぎの興奮が、胸の中をほんわりと温めていた。
そのまましばらく、ぼんやりと窓の外を眺めていたが、ベッドの真上に設置されている空調が、かすかな音を立てているのに気づいて、ゆっくりと窓を閉めた。
振り返った室内は、部屋に入ってきたときほどの不快感はない。
それどころか、火照った頬に当たる空調の風が心地よくて、眠気すら誘われた。
ベッドの上に腰を落とし、そのまま重力に従うように背中からベッドに倒れた。
それと同時、ズッシリと重石を乗せられたように、自分の体がベッドに沈み込んでいくのを感じる。
見上げた天井は、かすかに黄ばんで見える。
寝られないかもしれないと思っていたけれど、胸の内に興奮はまだ残っているのに、体が疲れを訴えている。
あたり前だ。何せ今日は、「勝利投手」で、「完投投手」でもあるのだ。
その後、居酒屋でチームメイトと騒いで飲んで、そのままココへ戻ってきているのだから、疲れていてあたり前だろう。
なんとなく天井を見つめていたが、すぐにあくびがこみ上げてきた。
顔を洗って、歯を磨いて、それから──あぁ、そうだ、軽くシャワーを浴びてきただけだから、明日の朝、ちゃんとシャワーを浴びなおす時間があるだろうか……。
そんなことを思いながらも、体は素直にベッドの中にあがりこんでいた。
寝れるときに素直に寝てしまおう。
この感覚を抱いたまま寝れば、今日はきっと、とても良い夢が見れる。
布団の中に潜り込み、そのままストン、と目を閉じた。
瞼の裏に色々浮かんできたが、それも一瞬のこと──すぐに薄い膜が意識の上に覆いかぶさるように落ちてきたかと思うと、浮遊感がゆっくりと緒方を包み込んだ。
あとはこのまま、眠りをいざなう手に意識を明け渡すだけだと、そう小さく思った瞬間、
がちゃ……ゴトゴト。
小さな……というのは、少し耳に敏感に響く音が聞こえた。
眠りの中に沈み込もうとしていた緒方は、その物音にハッと目を覚ます。
まさか自分の部屋の音かと、上半身をあげかけたが、続いてドアが閉まる音が、篭って聞こえた。
どうやら、ベッドが置いてある壁の隣の部屋のドアの音のようである。
山田が帰ってきただけかと、緒方はフゥと吐息を零して、再び頭を枕に預けた。
隣の部屋の音が良く聞こえるのは、ある程度は仕方が無いことだ。
それにこの程度なら、寮でも良く聞こえてくる範囲だから、気にせずに眠れた。
──聞こえるとは言っても、テレビの音や水の流れる音、話し声が聞こえないわけではなかったが、何を話しているのかまでは分からないのだから、気にしなかったらいい。
再び瞼を落として、スヤスヤと眠りに入ろうとしたところで、
『ったく、岩鬼のヤツ、調子に乗ってチャンポンした挙句、走るからぶっ倒れるんだぞ。』
良く響く声が、山田が使っている部屋から聞こえた。
その声に続くように、何か笑いながら答える山田の声が聞こえる。
「……──里中か…………。」
いつも一緒だな、あの2人。 しかし、里中の声は良く響く。
何を言っているのかまでは、確実に聞き取れるわけではないが、声の調子や抑揚、だいたいの単語は拾えてしまう。
声の調子と単語から判断するに、あの飲み屋で解散となった後、調子に乗ってカポカポと酒を開けていた岩鬼に、面白がって色々な酒を飲ませた挙句、さらに彼を煽って走らせて酔いつぶれさせた「犯人」がいるに違いないだろう。
その犯人の中の一人が里中たちであることは間違いないだろうし、酔いつぶれた岩鬼を背負って介抱したのが山田であることも、容易く想像はついた。
そうやって岩鬼を送っていった後の帰りに、山田と里中が揃って帰宅したということだろう。
──というか、里中、お前、二日に一度は必ず山田の部屋に来るよな…………。
ちなみに、その二日に一度は、山田が里中の部屋に行く。
もう時間だって遅いのに、何時まで居るつもりなんだろうなと、夢現の中、緒方がぼんやりと考えている間に、ガチャリと、今度は出入り口ではない辺りでドアが開く音がした。
ユニットバスのドアだろう。
その予想に違わず、すぐにジャー、という水の音が聞こえた。
顔でも洗っているのだろうが、夜で静かだということもあって、ずいぶんはっきりと音が響いた。
その音に混じって、くぐもった声で山田が何か叫んでいる。
それに答える里中の声は、すぐ間近から聞こえた。と同時に、突然里中が布団をバサバサと捲り上げる音が聞こえた。
一体何をしてるんだと思う間もなく、再びガチャリとユニットバスのドアが開く音がした。
低く響く足音が聞こえる。
──山田はやっぱり、少し、ダイエットしたほうがいいんじゃないだろうか。
そんなくだらないことを考えるうちに、再びウツラウツラとしてきた。
薄い壁の向こうでは、山田と里中がベッドに腰掛けて、今日の試合のことや居酒屋で起きていることを話しているらしい話し声が聞こえてくる。
その、小さくて単調にすら聞こえる話し声がまた、ちょうどいい具合に子守唄のように聞こえて、緒方はそのまま意識を手放そうとした。
いや、実際、手放していたのだろう。
ほんの一瞬、意識が途絶えたかと思うような間が落ちた後、開いた目が無意識に求めたデジタル時計は、2時を過ぎたあたりを示していて、10分くらい経過していた。
どうして起きてしまったんだろうと、緒方は考えながら、寝返りを打とうとした──まさにその瞬間。
『………………っ。』
隣の部屋から聞こえていた「声」にならない「声」が、さきほどまでと違う色を放っているのに気づいた。
「…………え?」
いや、まさか、だって──……あれから10分くらいしか経ってないし。
まさか、と耳をそばだてて、身を固くする隣では、いつもと同じようなじゃれあいをしているようにしか思えない……いや、思いたくないような声が、楽しげに漏れ聞こえてくる。
『山田──……だめだって、くすぐったい……っ。』
あははは、と明るく聞こえる里中の声が響いてくるが、それに答える山田の声は聞き取りにくい。
その事実が一層、2人が何をしているのか想像させられるというかなんというか。
そういえば、このホテルで山田と里中の部屋の隣室になると部屋割りで決まったとき、三太郎がニヤニヤ笑いながら、「夜は早く寝て、熟睡したほうがいいぜ〜」とか意味深なことを言っていたような気がするし、殿馬は殿馬で「先発の前日はよぅ、良く眠れるようにっちゅうて、耳栓をして寝るづらぜ。」とか親切で言ってくれた覚えもある。
今日までそれは、どういう意味なのか理解することはなかったが──何せ健全に、日付が変わるか変わらないかの時間には、もう布団の中に入っている生活を送っていたので。
「……っこ、こういう……ことか……っ!」
枕に突っ伏して、拳を握り締めた緒方の耳に、里中の笑い声はもう聞こえてこなかった。
だからといって安心してはいけない。
その安心の次の瞬間にはもう、次の段階に進んでいるのがこういうことの常だからである。
『──……ん……っぁ……。』
もうその声が出た時点で、何をしているのかなんて疑う余地はない。
思いっきり緒方はその場に突っ伏した。
シーツと枕の、洗濯した後のような清清しい香を胸いっぱいに吸い込みながら──、
「…………壁が筒抜けだってこと、昨日とおとついで知ってるだろう……っ。」
ガバッ、と頭から布団を被ってみるが、そんな抵抗は些細でしかありえない。
しかも、いくら空調が効いているとは言っても、季節は夏まっさかり。その上投手である緒方は、肩を冷やしすぎないために空調は常に最低ラインで調整している──ため、布団をかぶって寝ていては、暑くてどうしようもなくなってくる。
息苦しくて、酔いが吹っ飛んだはずの、頭も喉も体も火照ってきて、どうしようもなくなって、プハッ、と布団の中から飛び出る。
その彼の耳に、悩ましげな明確な言葉にならない言葉が飛び込んできて、再び頭を抱え込んだ──そんな緒方の目に飛び込んできたのは、枕元に放り出したままの携帯電話だった。
そうだっ、これだっ!
思わずガッシリと携帯を掴み取って、薄暗い中、操作パネルを開く。
確か昨日もおとついも、隣の部屋から携帯電話の音が聞こえてきて、この部屋の壁ってウッスイなぁ、と思った覚えがあるのだ。
きっとこの携帯で音を鳴らせば、隣にも聞こえて、「常識的な山田君」はきっと、声が聞こえてるんじゃないかと案じてくれるに違いない。
そうと決まったら、メールで足利に俺の携帯に電話を掛けるように頼もうっ!
さっそく緒方は、メールを送った──がしかし、いつまで経っても応答はない。
その間にも、隣の部屋からは里中の声だとか、なんだかベッドがきしむ音だとか聞こえてきて、もう気が気じゃなかった。
「あしかが〜っ!!」
もう寝ているのだろうということは──何せ彼も、大分酒を過ごしていた──緒方の頭から吹っ飛び、彼はそのまま頭からベッドに突っ伏した。
どうしよう──……どうすればいい…………。
悩む頭を抱えること数秒。
操作パネルを睨みつけていた緒方は、すぐにその簡単な答えに気づいた。
「そうだっ! 着信音を、普通に流せばいいんじゃないか!」
非常に簡単な答えであった。
そうである。携帯電話には、登録されている曲を流すという機能もあるのだ。わざわざ掛けてもらうことを待っていることはない。
さっそくそれを実行してみて、着信音を「最大」に設定して、緒方はわざとらしくそれをベッドがくっついている壁に向けて突きつけ、「再生」を押した。
♪〜、♪♪♪〜、♪〜……………………。
着信音楽が長くなり、緒方は頃合を見計らってその音楽を切り、わざとらしく、
「もしもし?」
と声もあげてみた。
そのままどうでもいい会話を一言二言、自分だけで寂しく繰り返した後、携帯を離して隣の様子を伺った。
耳を澄ませても、隣の音は聞こえない──ような気がする。
一応念には念を入れて、ソ、と壁に耳をつけてみた。
すると、耳に振動があたるような状態で、隣の声が聞こえてくる。
『ん──……やまだ……ぁっ、や……痛……っ。』
『すまん、大丈夫か? ちょっと急ぎすぎたか?』
『へ、いき──だけ、ど……もう少し……ゆっくり……な?』
『すまん、里中。』
『いい……大丈夫、だから……。』
・
・
・
・
・
・
・
・
────静かになったのは、突っ込んでたからかよっ!!!
「思いっきり無視してるなよっ、お前等ーっ!!」
思わず携帯をベッドに投げつけて、自分の行動がまったく隣に意味のない行動だったことを、心の中から激しく突っ込んだ。
その際、ずいぶん激しい言葉を吐いたことは胸の中にしまっておいて、緒方はガックリと肩を落とし、ベッドの上に投げ出された、明るい光を放つ携帯のディスプレイを眺めた。
そうこうしているうちに、隣の部屋から、ベッドが大きく一度きしむ音が聞こえた。
それを耳にした瞬間、緒方は落とした肩をのろのろとあげざるを得なかった。
そして、そ、と携帯を取上げると、ベッドから降りて──あぁ、そういえば、俺の部屋って、ベッドも風呂も全部山田の部屋側なんだよな…………。
「────………………ロビーかどこかに行くか………………。」
こんな夜中に訪れて、誰が一体おきてくれるだろう。
そんな、物悲しい気持ちを抱きながら、色濃い敗北感を抱きながら、ホテルの部屋から出て行くのであった。
──多分、この部屋には、明け方まで戻れない。
そんな予感を覚えながら──……。
電灯の落とされたホテルのロビーの一角──、携帯電話だけが暇つぶしの友という状態で、緒方はただ夜明けまでの3時間、そこでボンヤリと過ごし、部屋の備え付けの冷蔵庫から持ち出してきた牛乳を、すすり続けるのであった。
「…………今度から監督に、山田と里中の部屋は角部屋にしてくれるように頼もう…………。」
これが、今日の完投&勝利投手なのかと、なんだか涙が滲んでしまっても、仕方がないことである。
5 恋愛占い
*一度はやってみるべきだろうと、嬉々として
山田と里中で恋愛占いをしてみました。
そういうのが苦手な人はスルーしてください。
加筆修正ありません。
ふたりの恋愛勢力はっ!? あなたの恋愛の式神は「蜘蛛丸」 あなたの運命の式神は「万亀丸」 あなたのSEXの式神は「小鮒丸」 彼の恋愛の式神は「蜘蛛丸」 彼の運命の式神は「万亀丸」 彼のSEXの式神は「小鮒丸」 ふたりの愛の勢力「引き分け」 |
「二人の世界しか見えない情熱の恋。それが憎しみに変わると泥沼に」
ふたりの恋愛勢力はっ!?
この人でなければダメ。
二人はその想いを共有し、猛然と愛し合うことでしょう。
お互いの心と体を貪るように求め合い、発狂寸前になるまで愛に悶えるのです。
その愛し方は激しさを極めます。
「愛している?」
「キミが好きだと思う以上に愛している」
「わたしはもっとよ」
と愛の強さを競い合うのです。
出会いから、二人は相手のことが忘れられません。
一夜にして恋が成就することも、この相性の特徴です。
果てしなく続く愛の嵐。そこには一瞬たりとも安らぎの場はありません。
少しでも力を緩めると、相手のパワーに巻き込まれるからです。
デートの最中、二人の体温は2℃くらい上がっています。
電車に乗れば、たちまち窓ガラスは熱気で曇ることでしょう。
恋という熱病に冒されながら、どちらかが倒れるまで恋愛は燃え盛るのです。
しかし、どちらかが倒れたとしても、この力関係に変わりはありません。
変わりはありませんが、こんどは逃げる者と、それを追う者としての絵図に暗転。
「愛している」の言葉と情熱を武器にして、どこまでも相手を追いかけるのでございます。
追われる者は、追う者を激しく憎みます。
愛と憎しみの拮抗したパワーは、ホラー映画さながらのストーカー事件に発展しかねません。
愛し合うときと憎み合うときの差が極端なまでに激しいのです。
ニ人は、お互いの愛と憎しみに疲れ果てて、別の異性に安らぎの場を求めることでしょう。
この相性は、関係が終わったときに、相手をどれほど愛していたかを、驚きとともに顧みることになるのでございます。
ふたりの愛の落とし穴
そもそも愛することが落とし穴なのでございます。
愛すれば、燃え尽きるまで突き進むしかない相性なのですから。
しかし、それは宿命として諦めていただくことにして、恋の最中に、ふいに相手を憎む心が芽生えることがあります。
相手の愛に勝とうとする過剰な愛の押し売りが原因です。
自分の愛を認めてもらおうと、行動が極端になるのです。
深夜に相手の部屋に押しかけたり、不在の場合は朝までドアの前で立っていたりと、テレビドラマのマネのような過剰な行為は、かえって憎まれる対象になります。
愛を深めるアドバイス
深夜の激情を抑制することが大切でございます。
相手の都合を聞いてから訪問することが、愛を深め永遠の関係を結ぶ秘訣です。
「今夜は疲れているから」と断られたら、おとなしく引き下がること。愛されていないと誤解し、自分がボロボロになるような愚かな行為をして、同情を引こうとしてはいけません。
ニ人は恋をすると、子供に返り、動物的な言動をとりがちです。
大人になることです。情熱で勝とうとするのではなく、大人の理解あるやさしさで、恋愛を制することが大切なのでございます。
6 スパスタ初キャンプネタ
「それじゃ、キャンプで、また。」
そう言って、明訓五人衆の面々が、いつものように1月初旬の自主練習を終えた頃。
土井垣は、2月から始まる春季キャンプのメンバーチェックと同時に、練習内容に頭を捻らせていた。
特に今回、新規参入という形で行われる自分達「東京スーパースターズ」には、プロ野球の土台自体が始めてだというメンバーが多い。ノンプロで鍛えられたとは言えど、実践でどこまで通用するか……このキャンプでの見極めが必要だろう。
とは言えど、最初の1年目が重要なことには変わりはない。
そうなると、このキャンプでどこまでファンの心をつかめるか……は、非常に重要だ。
「まぁ、久し振りに明訓時代に戻ったつもりで、ビシビシ扱くか……。」
やはり、甲子園を制したときのメンバーと、再びともに闘えるということが、自分にとっても酷く嬉しいことなのだと噛み締めながら、微笑みを口元に刻み込んだ。
思い出というものは美しい。
なぜなら、多少美化して心の中に残るからである。
少しの「くそがき」も、その後に色鮮やかな思い出たちの前には、霞んでいくものなのである。
──が、だからと言って、当時の苦渋を飲み込む思いまで忘れてしまったのはきっと、俺の中の危機感がずいぶん薄れてしまっていたからに他ならないだろう、と、土井垣は本気で思った。
日ハムでともにバッテリーを組んでいた相手は、敵対していた頃から「一癖も二癖もあるヤツだ」と認識していた不知火守だったわけなのだが──その実、彼はとてもイイヤツだった。
従順というわけではないが、明訓時代の山岡を思い出させるほどに、彼は友人と情に厚い、いい男だった──思い返せば、山田がそう言って不知火を誉めていたような覚えもある。
その、甘い汁に浸りすぎていたのか、スッカリ自分の中の野生本能は、なりを潜めていたのかもしれん。
ドイツもコイツも、「明訓四天王」だとか、「明訓の化け物揃い」だとか言われていただけあって、実力もなみなみならぬところだが──それ以上に。
本気で相手をしていたら、しゃれにならん。
そう思う程度には、性格も少しばかりずれているヤツラが多い。
一番常識人のように思える山田だとて、片割れが関われば、ねじが一本や二本ずれてしまうのだ。
そんなことに、こうして衝撃を覚えるのは……結局、自分もまた彼らと長く離れすぎていた──と、言うことなのだろう。
「まったく……厄介なヤツラだ。」
うんざりした声でそう呟けば、隣でレポート用紙に何か書き込んでいた北が、ふいに顔をあげて眼鏡の奥の目を瞬いた。
「──何か言いましたか、監督?」
ニッコリと目元を緩めて問いかけてくる「マネージャー」である後輩に、いや、と土井垣は苦い色を滲ませてかぶりを振った。
そして、腕を組、胸を張り、正面をまっすぐに見据えた先──、人工芝生の上で、仲良く固まってストレッチをしている一群を認めた。
中央に当たる位置には、縦にヒョロリと大きいのから、横にズッシリと大きいのと、小柄な体で片手で逆立ちしているのに──、オールスターの時に見かけた円陣を描いている「彼ら」の姿。
その顔に浮かぶのは、年よりも幼く見える笑い顔──去年まで、試合で当たるたびに見てきた、どこか澄ましたような顔はなりを潜めている。
岩鬼が柔軟体操をしながら、「背中を押せ」と指先で指し示すのに、殿馬が逆立ちしていた足を器用に捻じ曲げて、その足で岩鬼の帽子を押し付けるように応えてやる。
とたん、岩鬼がガバッと顔を上げて、唾を飛ばして怒鳴りつける。
その声が、遠く離れたここまで聞えそうで、土井垣は唇をゆがめた。
──高校時代、同じ屋根の下で過ごしてきた彼らは、10年経った今でも、「揃う」と本当に、ガキっぽい。
「──あぁ、なんだ、山田たちですか?」
北が楽しげに目元を緩めて、土井垣と同じ方向を見やる。
岩鬼が怒鳴るのから、殿馬がスタスタと逃げていくのが見える。
そんな二人に、五人を囲むようにストレッチをしていた「ルーキー」たちが、驚くやら戸惑うやらの表情を浮かべているのに、大丈夫だぜ、と微笑が笑っているのが見えた気がした。
「10年の貫禄だな……。」
微笑が己の腕を引っ張る隣で、山田の背中を押していた里中が、自分たちの周りを駆け巡る岩鬼と殿馬に、うんざりしたような顔を見せて、そのまま山田の背中にもたれかかる。
何かブツブツと零した里中を、山田が自分の肩越しに見上げる。
すぐ間近で交錯する二人の視線が重なりあい、一瞬後、二人は楽しげに笑い出す。
一体何をしているのかと──真面目にストレッチをしてろと、そう土井垣が喉から声を振り絞ろうとした刹那。
「……って、あれ?」
北が、岩鬼と殿馬の追いかけっこを目にとめながら、ふと声を上げた。
「なんだ、どうした?」
何かミスでもあったのか、と、問いかける土井垣に、北は緩く首をかしげた後、戸惑いの色を乗せて、彼を見上げる。
「──どうした……、っていうか…………。
…………今、ブルペンで投球練習の時間じゃなかったでしたっけ?」
「………………………………………………………………。」
かんがえたのは、ほんの一瞬だった。
そして、答えはすぐに出た。
──ここでノンビリストレッチなどしていては、いけない人間が混じっている。
「…………………………っ、って、こらっ、里中っ!! お前はブルペンで投球練習だろうがっ!!!」
あまりにさり気に自然に混じりすぎていたから、全く気付かなかった。
その事実を棚にあげて、思いっきり叫ぶ土井垣の声に、山田の背に全身を預けるようにしていた里中は、ペロリと舌を出して、叫び返してくれた。
「今、行くところです!」
──土井垣が指摘さえしなかったら、そのまま山田たちと一緒に居ただろうことは、推理するほどのことではなかったが。
土井垣がジロリと睨みつけてくるのに、里中はヒョイと首を竦めるようにして山田の体の上から飛びのくと、そのままブルペンの方角へと走り出していった。
まったく──なんていうか。
「はは……、一緒に練習やりたくてたまらないんだなぁ〜。」
北のどこか楽しげな台詞に、土井垣は肯定するどころか、溜息しか吐けなくて。
「…………………………今年のキャンプは、まともに終るんだろうか……………………。」
そして、俺は、このキャンプ中に、あの明訓時代のような野生本能を、取り戻すことが出来るのだろうか。
──────なんだか、色々な意味で、面倒くさいキャンプになりそうな気がしていた。
楽しみよりも、ずっと……根強く。
7 スパスタ2年目 最下位ネタ
*良くわかんないけど、なんか里中に言わせたかっただけらしいです。
「今年は、例年になく厳しい……そこでだ!」
「はい?」
「高校時代の岩鬼からヒントを得て、打たねばやらぬ、勝たねばやらぬ、断食をすることにする!!!」
「えええええーっ!!!!!」
「はーい、土井垣主将! 飲むヨーグルトは、食べ物に入りますか〜?」
「ばかもん、誰も本当に断食しろとは行ってない。
ただ、好きなものだちをしろと言ってるんだ。」
「好きなものだち……。」
「──えっ、や、山田だちかっ!!?」
「あー、もー、言うと分かってたから、わざわざ口に出さなくてもいい、お前らは。」
「はーい。でも山田だちってことは、山田とバッテリーも組ませてもらえないってことですか? ってことは……ど、土井垣さんに投げるのか、俺っ!!!!?」
「なんでそんなにイヤそうなんだ、お前は。」
「せっかく山田と一緒にバッテリー組めてるのに、なんでわざわざ土井垣さんに投げなくっちゃいけないんですか。」
「ブルペンではいつも他のキャッチャー相手に投げてるだろうがっ!」
「あれは本番じゃないからいいんです。
それに、俺と山田のバッテリー無くして、勝ち進んでいく気なんですか、監督? それこそ無謀です。」
「お前らには緊張感が足りないと言ってるんだ。公の場では山田だちはしなくていいが、プライベートでは、今日から、行きも帰りも別々にしろっ!」
「え……えええええーっ!!!!!!!!」
「あ、それじゃ智、俺が家まで送ってやるぜ〜。」
「そんなんじゃ、ぜんぜんやる気でないじゃないか!!」
「って、おいおい、智ー。」
「──……土井垣監督。」
「なんだ、山田。」
「プライベートには、自主練習も入りますか?」
「……まさかお前ら、投球制限してるのに、家でも投球練習してるんじゃないだろうな……?」
「してません。ただ、どうしても家が近いですから、ランニングコースとかは一緒になるじゃないですか。」
「あぁ……そうか、そうだったな……。
目の前だったか、家が。」
「シチューが冷めない距離なんです。なー。山田?」
「ん……まぁ、ランニングやストレッチなら仕方ないな。」
「と、いうことだ、里中。」
「おう、山田!」
「──あ、今、オチが読めた気がする。」
「心配するな、三太郎。──俺も、山田のたくらみは読めた。」
「今日から行きも帰りも、ゆっくりランニングしながら行こう。」
「そうだな、山田にとったら、電車の中もトレーニングの場所だしな。
俺が荷物もってやるから、存分にトレーニングしてくれよ、山田!」
「………………………………。」
「…………………………………………。」
「────………………、そこ、公私混同はするなよ……だから。」
8 うわべだけのGIRL 前略土門さま
*バックネット裏にいた吾郎君の手紙。
前略、土門さま 今、僕は、土門さんの後を継いで、横浜学院の監督をしています。
目標はあの頃と変わらず、打倒明訓です。
山田さんや岩鬼さんたちが居なくなった後も、明訓が強豪チームなのには代わりありませんから、今年も気が抜けません。
とは言っても、すでにもう、秋の大会で明訓が優勝したことはご存知かと思います。
だから僕は、来年の夏に向けて、明訓の偵察を今からしようと、今日は、明訓の文化祭にやってきました。
最終日の午後1時から、練習試合があるんですよ。
そこで、山田さんたちが特別に審判として参加するんだそうです。
だから、朝から明訓はとても賑わっています。
特に今はドラフト前ですから、山田さんたちの周囲はとても賑やかです。
僕はそれなので、朝も早くから、バックネット裏で待機して、一番いい席を取りましたよ。
この間土門さんから監督就任のお祝いに貰ったカメラが、早速役に立ちました。
明訓の練習方法は、なかなか参考になります。
監督になった僕も、色々と強豪チームのいい練習方法や、作戦案なんかを盗んでいこうと思います。
明訓は、今でもスゴイ人気のチームですね。
バックネット裏からフェンスの向こうまで、今日もびっしり人が集まってました。
けど、時間になっても、山田さんたちの姿が見えなくて、試合が始まりません。
時間に厳しいのもスポーツ選手としては大事だと思うのですが、ドラフト前に遅刻なんかして、山田さんたちは大丈夫なんでしょうか?
そうこうしてざわめいている間に、とうとう痺れを切らした岩鬼さんがグラウンドから飛び出していきました。
かと思うと、10分も経たないうちに連れて戻ってきたんですから、さすがですよね!
けど、本当にそのときは、僕もビックリしました!
時間になってもなかなか始まらなくって、イライラしていた観客の皆さんが、一瞬で静かになっちゃいました。
僕も、思いも寄らなかったので、驚いて口を開けっ放しにしちゃいました。
なんと、岩鬼さんが連れてきた里中さんは、ウェイトレスさんだったんです!!
ビックリしました、ほんとうに。僕が知ってる里中さんって言ったら、グラウンドの上に居る里中さんとか、怪我を押しても出場するスゴイ精神を持ってる人だとか、そういうのしか記憶にないんですけど、みんなが里中さんがかわいいって言う気持ちが分かったような気がします。
里中さんの顔が女顔だって言うのに、初めて気づいたような気がします。
すごく似合ってましたよ!
あっ、そうです、それで早速、その里中さんを撮った写真を同封しますね!!
お守りにすると、なんだかご利益がありそうな気がします。
僕も、この写真をふところに入れて、春の試合にのぞもうと思っています。
「おい、吾朗……おまえ、さっきから、何持ってるんだ?」
「──……って、えっ、さ、里中さん!? ど、どうして……いつからソコに!!?」
「いつからって……明訓の前のポストで、ぼー、ってたってたら普通、何事だと思うだろうが──……。」
「あっ、い、いえ、あのですね! 土門さんに手紙を送るついでに、明訓に偵察にきてて……べ、別に里中さんがあれからどうなのか見に来たとかそういうんじゃ、決して……っ!」
「は? 何ワケのわかんないことを言って……って、おまえ………………。
なんだよ、これはっ!!!!」
「あーっ!! そっ、それは、僕の(勝利の女神の)お守りなんですっ!! か、返してくださ……っ!」
びりっ、びりびりりり……っ!!!!
「………………吾朗……………………。」
「──……はっ、は……あ、そ、そうだった! 僕、早く帰らないと、後輩達が待ってるんだった!! そ、それじゃ里中さん、山田さんによろしく言っておいてくださいね!!!」
「ってこらっ、待てっ、待ちやがれ、吾朗っ! これのネガも置いてけーっ!!!!」
──前略、土門さま。
あぁ……僕の勝利の女神が奪われてしまいました……。
9 新婚さん いらっしゃ〜い!
*新婚さん小ネタから。
山田「土井垣監督、さ来週の日曜日なんですが、俺と里中、昼3時まで抜けてもいいでしょうか?」
土井垣「なんだ、何かあったのか?」
山田「いえ、何かあったというか……。」
里中「テレビの収録があるんですよ。」
土井垣「……テレビの収録? そんな予定、あったか?」
北「え──……いえ……なかったと思いますけど……。」
山田「いや、その──仕事ではなくて、俺達の個人的なテレビ収録というか。」
里中「山田と新婚さんいらっしゃいに出るんです♪」
山田「新婚さんじゃないからどうしようかって話してたんだけどな?」
里中「そうそう。でもテレビ局がそれでもいいって言ってくれて。
俺、最後のパネル捲りがやりたい。絶対、たわしを持ち帰るっ!」
土井垣「たわしか……こころざしが低いな──……って、そうじゃないだろう、おまえらっ! アホかっ! バカかっ!
どこの世界に、シーズン只中に、バッテリーで『新婚さんいらっしゃ〜い』に出るバカが居るんだっ!」
殿馬「ココづら。」
三太郎「ココだよな〜。」
里中「俺、公共電波で甲子園とか明訓時代のこととか話したことはあるけど、山田とのプライベートを話すのって初めてなんだよな〜。」
山田「そうだな。」
里中「去年の記者会見の時も、色々球団側から口止めされてたから、話せなかったこともあるし……。」
土井垣「話すなっ!」
里中「えっ、でも、俺、山田のこと、プライベートでもいい妻なんだって、自慢したいんです!」
土井垣「するな!! あーっ、もう! お前等、新婚でもないのにそんな番組に出てるなっ!」
山田「やだな、土井垣さん、籍をいれたのは去年ですから、まだ新婚ですよ?」
里中「あと、イエスノー枕って言うのも気になるよな?」
土井垣「どうせノーって書いてある面なんか使わないくせに……。」
里中「なっ、だ、誰もそんなこと言ってないだろっ!」
三太郎「っていうか、智、おまえまだ、『妻は山田だ』って言ってるのか?」
山田「まぁ、俺は投手の女房役だからな……っ。」
里中「子供は三人くらいほしいとか、そういうのも言いたいなー?」
殿馬「家族計画づらな。」
三太郎「だな〜。」
山岡「いや、生めないから、おまえら。」
北「って、そういう場合じゃないんじゃ……。さすがにシーズン中に新婚さんいらっしゃいは……まずいだろ……。」
土井垣「────…………じゃ、せめて百歩譲って、オフシーズンにしろ……っ!!」
里中「え、でも、さ来週でいいって言っちゃいましたよ?」
山田「ちょうど、収録現場も近いしな……。」
里中「な?」
北「全国にお前らのバカップルぶりを披露して、何が楽しんだ、お前ら〜!」
山田「バカップルじゃないですよ。」
里中「そうです、俺たちはこれが普通なんです。」
殿馬「自覚ねぇづらか?」
三太郎「ぅわー……あはははは。」
土井垣「…………あははは、じゃないだろ…………。」
ということで、ブログで時々書いていたコネタ&小説にしなかった会話分などを集めてみました。
たくさんあったわけじゃないけど、それなりにありましたね〜。