最近おおっぴらです










 窓の外はとっぷりと暮れ、食堂の厨房からは、先ほど部員達が食べ終えたばかりの食事の後片付けをする賄いのおばさんの洗物の音がしている。
 それを背に、ストーブの点いた暖かい食堂の椅子に腰掛けたまま、誰一人として席を立つ様子も見せずに、食堂に唯一あるテレビを、見るともなしに見ていた。
 夏ともなれば、毎晩のようにあるプロ野球の中継を見るため、誰も彼もが食事の後も食堂に居座ることが多く、しょっちゅうテレビもラジオもつけっぱなし……という状況になる。
 だからシーズンが終われば、思い思いに部屋に帰っていくもの──なのだが、冬に突入してしまえば、今度は暖かなストーブ目当てに、そのまま食堂に居座り者が多くなってくる。
 おばさんは毎年、その様子を見るたびに、「あぁ……冬になったわねぇ。」と思うという。
 さて、おばさんが冷たい水に辟易しながら、合宿所の食欲盛りの男どもの食器を片付けている中、空腹を訴えるおなかを満足させた男達はと言うと……、
『では、次はアンケートの結果による、血液型の相性を見てみましょう。』
 ゴールデンタイムのバラエティー番組を、見るともなしに見ながら、今日学校であったことを、ああでもない、こうでもない、と話していた。
 その中に、ポツン、と混じった背の低い少年が一人、画面一杯に映し出された棒グラフが、ぐぅーん、と伸びていくのをマジマジと見つめていた。
 かと思うや否や、
「うん──確かに、分かる。」
 コクコク、と一人で勝手に頷き、自分のナナメ後ろでお茶を片手でカッ食らっていた渚をチラリと振り返った。
 その視線を感じて、ん? と顔をあげた渚は、すかさず高代が視線をテレビに戻す、あからさまに怪しい態度に、ム、と眉を寄せた。
「なんだよ、高代? なんでそこで俺を見るんだよ?」
 グイ、と身を乗り出して、高代の首を腕で締め上げるようにして自分の方に引き寄せると、背の低い高代は、完全に渚に体重をかける形になって、浮いた脚をワタワタと泳がせた。
「なっ、なんでもないよ〜!」
 慌てて渚の腕を払おうとする高代を強引に押さえ込みながら、渚は彼の頭越しにテレビを見た。
 そこには、棒グラフが4本、画面いっぱいに描かれている。
「なになに? B型と相性がいい血液型は? ……なんだ、血液型診断かよ。」
 一瞬で興味を失った渚は、ポイ、と高代を放り出す。
 それから、つまらなそうに机に頬杖をつくと、
「女子供みたいな、そんなものに興味持ってるなよな、高代。
 お前、そんなんだから、クラスの女子から『タカ坊』とか呼ばれるんだぞ。」
「そっれは、渚のせいだろーっ!」
 バンッ、とテーブルを叩きつけて怒鳴り、高代は思いっきり顔をゆがめた。
「だいたいなー、お前のそういう自己中心的でわがままで周りが見えてないところ! ま・さ・に、AB型だよなっ! 典型的っ!」
「そーゆーお前は、くだらないことで考えすぎるんだよ、それでもB型か?」
 突然指先を突きつけてそう叫ぶ高代に、売り言葉に買い言葉とばかりに、ガタン、と渚も席を立つ。
 バチバチと、火花が散るかと思うほど間近で睨みあう渚と高代に、止めろよ、と蛸田と上下が割って入る。
 突如として言い争いを始める一年生達に、いつも賑やかな中心に居る二年生たちは、のんきにそれを観戦しながら、話題のテレビへと視線を移した。
 血液型の相性診断の結果が、テレビ画面に一覧として映し出されていくのを、なんとなく視界に止める。
 ちょうど「A型の男性」の説明が入った瞬間、微笑が里中へ視線を向ける。
「そういや、智はA型だったっけ?」
「うん、母さんもAだからな。」
 気のない風に頷く里中に、らしいと言えばらしいよなぁ、と、微笑が頷く。
 そんな会話をする先輩たちに、
「えっ、里中さん、A型なんですかっ?」
 高代と言い争いをしている最中だった渚が、驚いたように振り返る。
 そのまま彼は身を乗り出して、当たり前のように里中の隣の席に座ってしまう。
 突然ポツンと放り出された形になった高代は、むっつりと唇を尖らせると、あーあ、と呆れた様子の蛸田と上下にぶつぶつと零しながら、自分もガタンと椅子に座った。
 テレビでは、A型男性が基本的にどういう性格なのか、仕事面ではどうなのかという説明が終わった所だった。
 ここは当たってる、だの、当たってない、だのと口に出していた微笑と里中の言葉に、うんうん、と積極的に頷いて参加している渚を見て──二重人格め、と、高代が吐き捨てる。
『次に、A型男性がどのような恋愛をするのか……。』
 テレビの司会者が、背後の大きな画面に映し出された映像を前に、にこやかに微笑みかける顔がアップになり──そして差し替えられる画面に、「A型男性」を模したらしい人形が現れる。
「へー、恋愛。」
 やる気なさそうに頬杖をつきながら呟いた里中を一人置き、無言でその場に居た面々の視線が里中の向かい側でのんびりと茶を飲んでいる男にやられた。──が、彼は気にした様子もなく、同じようにテレビを見ていた。
『A型の男性は、自分の気持ちを上手に伝えることができません。』
「…………………………。」
 テレビの言葉が最後まで告げるよりも早く、誰もが無言で顎に手を当てて、「これは絶対に当てはまらない」と、顔にありありと書いた。
『相手を心の中で想っている内に、理想化し、どんどん相手を好きになってしまうタイプのようです。』
 続けてツラツラと語る司会の女性の言葉に、画面の人形キャラが現れた女性に対して胸のハートマークを大きくさせる絵柄が映し出されると同時、
「……あ……これは分かる気がするな。」
 なぜか山田が、納得したように頷いた。
 と同時、
「えっ、なんでだよ? 俺、そんなに普段からお前に言ってないか?」
 里中が、驚いたように頬杖をはずして目を見開く。
 とりあえず面々は、その言葉を綺麗に聞き流すことにした。
 突っ込んでしまったら、聞きたくもない台詞が帰ってきそうな気がしたからである。
「いや──そっちじゃなくてな。」
 山田が照れたように頬を赤らめて苦い笑みを刻み込むのを見ながら、自覚してる──……と、渚がうんざりしたように唇をゆがめる。
『A型男性は熱しにくくさめにくいタイプで、一度燃えると一途に、愛を貫き通すタイプになります。』
「どっかにはよぉ、惚れた相手と同じ高校に来るためだけによー、エスカレートの学校を蹴ったA型男がいるづらぜ。」
 グラグラと、椅子をかしがせながら、殿馬がシレっとして頭の後ろで腕を組みながら呟く。
 その事実を知る者は、実を言うとこの合宿所の中ではたった3人しか居ないが──その名前を言い当てることもなく、「誰」のことなのかは、理解することができた。
『普段は恋愛にも冷静なA型の男性ですが、恋の炎が燃え上がると地位や名誉や家族までも全て投げ出してでも、愛を貫こうと思い切った行動に出ることも少なくありません。』
「…………──あぁ……確かに、里中はそういうところもあるよな。」
「そうか?」
 分かっていないのは本人ばかりのようである。
『A型男性はいつもは自分というものをきちんと持っているのに対し、そういった時は自分が見えなくなってかなり危険です。
 相手の気持ちも考えずに自分勝手な行動に走ってしまったり、つまらない誤解で恋をなくしたりすることもあるので気を付けた方が良いでしょう。』
「へー、迷惑な恋愛体質なんだな。」
「いや、だからお前のことだってっ!」
 さすがにこらえきれずに突っ込んだ微笑に、里中は驚いたように目を見開いた後、目の前に座る山田に視線を移すと、
「おれ、山田にそんなことしたことあったか?」
 真剣にそう聞いた。
 どうやら、中学時代に、山田の気持ちを聞くこともなく「高校はどこに行くんだ」と、押しかけ続けたことは頭にないようである。
 あれも確かにある意味「盲目的な愛」と言えないこともなかったが、里中も高校で野球ができるかどうかという瀬戸際だったのだから、まさに必死だったのだろうと言うことで、数に数えないことにして、
「いや、ないな。」
 山田はあっさりとそう答えてやった。
 そんな彼に、見て分かるほどに里中はホッとした様子で、そっか、と口の中で零す。
「…………────最近、隠すっていうこともなくなってきたっすよね、先輩たち。」
 どこか憂鬱気に呟いた蛸田の視線が、天井辺りをさまよっているのを感じつつ、夏前から合宿所メンバーであった渚は、ここだけは訂正しておこうと、手のひらで突っ込みを入れた。
「いや、最近じゃなくって、前から。」
 そんな、ほのぼのした会話を後輩たちが交わしているとも知らず、テレビの司会者はさらに話を進めていく。
『あと、以外ですが、A型男性は、結構嫉妬深いそうですよ。』
「…………………………。」
「へー。」
 これに関しては、感心したように頷く里中以外は、ノーコメントを貫き通した。
 そのまま話はB型に移り、B型と言えば「不知火のゴーイングマイウェイは絶対B型」だとか、身近な人間を上げていって、「これは当てはまる、これは違う」などと、言いたい放題言った。
 ちなみに「A型とB型は相性が悪い」のくだりでは、里中が真剣な顔で、「だから俺と不知火は水と油なんだ」と言い放った。もう彼の中では、不知火はB型のようである。
 更に続けて、「仕事面では相性が悪くても、プライベートでは案外一緒に居るのがA型とB型の男性で……」というくだりで、山田が「やっぱり不知火はB型かな。」と里中を援護した。
 ──どうやら、里中と不知火は、野球面ではなんだかんだと衝突するが、プライベートではそれなりに仲が良いと山田は解釈しているらしい。
 えー、と非難の声を浴びせる里中であったが、確かにしょっちゅう明訓に顔を出しに来る不知火を見ていると、そう表現できないわけでもない。
──なるほど、アレは、仲がいいというのか。
『さて、続きましてO型の人に行きましょうか。』
 朗らかな声でそう告げられた瞬間、里中が、あ、と声をあげた。
「山田だ、山田。」
 聞くまでもない、山田はO型である。
 なぜか自分のA型の時と違って、今度はやる気満々で心なし身を乗り出してテレビに向かう里中に、分かりやすいよな、と、生ぬるい視線が里中の頭上で行き交った。
『O型の男性は、自分の目標をしっかりと持っていて、絶えずそれに向かって前進しようと努力をします。
 他人の力をあてにせず、持ち前の精神力で困難も乗り越えていけるタイプです。』
「あ、うん、そんな感じ。」
「だな……山田って、いつも自分で何とかしちゃうタイプだよな。」
 すぐさま頷いた里中に同意して頷きながら──里中の台詞が、「そういうところが好きv」と続きそうなくらい弾んでいたのはどうしてだろうと、微笑は生ぬるく思ってみた。……考えるだけ無駄なことなので、とりあえず思ってみるだけですませてみた。
『O型男性は明朗で、人間関係を大切にし、愛情のある人です。
 そして他人の気持ちを尊び、例え自分自身が損をすることがあっても、人のために骨を折ることを惜しみません。
 面倒見も良いので、親分肌で人気があり、中心的な存在です。』
 これには、合宿所の人間が、なるほどな、と頷く。
 確かに山田は、そういう所がある。
 そう考えると、まさに彼は「O型」の人間そのものであろう。
「そういえば、O型の人間はリーダー気質だって聞いたことがありましたけど、やっぱりそうなんですね。」
 感心したように高代が二度三度と頷く。
「そっか──それじゃ、やっぱり山田さんは裏キャプテンってワケだ。」
 高代の言葉に、なるほどなるほど、と蛸田が笑顔で頷く。
 ──と、それまで興味なさそうにしていた岩鬼が、ニョキ、とハッパと一緒に里中の頭ごしに顔を覗かせた。
「なんじゃいっ! おんどれらは、やぁーまだみたいなへたくそが、わいよりもえぇっちゅうんか? ん? タカ?」
 引きつった笑顔がまた、岩鬼の今の感情をむき出しにしているように感じた。
 里中の頭の上から身を乗り出すようにして、ポンポン、と高代の頭を叩く岩鬼に、彼は身を竦めるようにして縮こまった。
「いや、そういう意味じゃないと思うよ、岩鬼。
 やっぱり上に立つのは、リーダーシップを持っている人間の方がいいし、それで行くと俺は、そういうのはないからな。」
「縁の下の力持ちってヤツだな。」
 うん、と微笑が納得したように頷くのに、納得したような賛同の声が周囲から返ってきた。
 そんなことを話しているうちに、テレビ画面は四つの血液型の形の説明を負え、先ほどのアンケートの結果が一面に現れた。
 血液別の、相性度である。
 4種類の血液型の組み合わせ10通りのランキングが、ワースト1から表示される。
 堂々、10通りの組み合わせでワーストに位置したのが、「B型とA型」。
「やっぱり、俺と不知火って、相性最悪だと思ってたんだよ。」
 感心したように声を上げる里中に、
「里中、不知火がB型って決まったわけじゃないから。」
 山田が苦笑を漏らしながら注意を促す。
「それに、同性同士の場合は、なんだかんだで一緒に居ることが多いって言ってたじゃないっすか、さっき。」
「デコボココンビっちゅうヤツやな。」
 うんうん、と自分の頭の上で頷く岩鬼に、ムッ、と顔をしかめた里中は、首を竦めて岩鬼の体をつんのめらせた後、問答無用で彼の顎にアッパーをかました。
「あごっ!」
 思いっきり顔をのけぞらせて、痛みに後退した岩鬼を一瞥もせず、
「そういや、俺と岩鬼もAとBだよな〜。」
 道理でなかなかあわないと思ったぜ、と、周りの人間からしてみたら「何を面白い寝言を言ってるんだ」ということをぼやいてくれた。
「で、ワースト2がOとABだって。渚と山田さんか。」
 何気に零した高代の台詞に、山田はそうなのか、とのんきにこぼし、
「…………………………。」
 あえて渚は、ノーコメントを貫いた。
 山田を尊敬しているし、信頼はしているが、確かに「心を許して仲良くやっていけるか」といわれたら、「胃が痛みます」と答えそうなところが無いわけでもないからだ。
 そのまま、ABとAB──わがまま同士で、お互いに同族嫌悪だな、という台詞で、なぜか殿馬と渚を見比べる目があったが……何せ彼らは、仲良く話すということ事態がない……、話は次へとずれていき、後は普通の組み合わせが続くばかり。
「山田と岩鬼も、いいコンビだと思ってたけど、普通なんだな……相性は。」
「俺、同じA型とも相性いいんだ、へー。だから土井垣さんと気があうのかな?」
 そんな好き勝手なことを呟いて、とうとう相性度No.2の発表となった瞬間、里中が微妙に緊張を帯びたのが分かった。
 まだ出ていない血液型の組み合わせに、A型とO型も含まれていたのだ。
 別にここまでくれば、NO.1の組み合わせであろうと、NO.2の組み合わせであろうといいと思うのだが、その微妙なこだわりがあるのだろう。
『第二位は、O型と、A型のお2人。』
「………………よし、やっぱり俺と山田は、相性ばっちりだなっ。」
 最初の沈黙の部分に、「一番じゃないのか」というガックリした気持ちが見えたが、それにめげずに里中はコブシを握り締める。
 そんな彼に、ハイハイ、と軽くあしらってから……、
「ってことは、第一位は、O型とO型か。
 おー、なんだ、俺と山田は相性ぴったりってか。」
 顎に手を当てて、微笑が今気づいたとばかりに、笑顔で山田を振り返った。
「あ、そうだな。この中で言うと、三太郎か。」
 お互いにリラックスできる関係なんだな、と、ニッコリ笑う山田に、みたいだな、と微笑も笑い返して──……、
「……へー……三太郎と山田が、一番なんだ……。」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……と、音がしそうなくらい、不気味な気配が背後から────。
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」

 A型は嫉妬深い。

 ふと、そんな言葉が、食堂にいた全員の脳裏をよぎった。
 と、同時、
「じゃ、そういうことで、山田、後は頼むっ!」
「あ、そうそう、俺、宿題マダだったっけ!」
「高代っ、明日の予習をするって言ってたよなっ! 手伝うぜっ!」
「づら〜。」
「なっ、なんやなんや、突然っ!?」
 示し合わせたように、彼らはぞろぞろと食堂から出て行った。
 その、あからさまにあからさますぎる、わざとらしい退出に、里中はムッとしたように顔をしかめると、
「なんなんだよ、突然。」
 ぶっすりと、声をワントーン落として零す。
 そんな里中に、苦笑をかみ殺しつつ、
「──……そうだな……なんだろうな、一体。」
 誰も彼もが、里中の怒りを買うのはごめんなのだと──わざわざ言うつもりのない山田は、テレビのスイッチを切ると、
「里中、おれたちもそろそろ、部屋に戻ろうか。」
 そう、穏やかに声をかけた。











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この間血液型診断という番組をしていたので、パクってみました。
公式設定で、山田はO型、里中はA型だったハズ……。
ほかの面子に関しては、出ていたかどうか自信がありません(笑)。

なので勘で、渚は確実にAB型。高代はAB型以外どれでもいけそうですが、岩鬼がB型だと考えると、B型と相性がよさそうなB型でいいかな、とか(笑)。 別にO型でもいいっすよ。

で、土井垣さんはA型だと思う。
殿馬も芸術家の多いと言われるAB型かな、と。彼はなんだか秋生まれっぽいと思うのは、「芸術の秋」だからか……?笑



はい、もちろんこの後、部屋に帰ったらラブモード全開ですよっ!
でもそこまで書きかけて、「突っ込む人間がいない2人は辛い」と言うことに気づいたので、ここでとめておきました。