SS編「10年ぶりの…」から、
2月の風景を想像してみた。










 キャンプの予定表を受け取った瞬間、真っ先に「2月17日」をチェックした里中の気持ちは、分からないでもない。
 何せ、高校2年以来、初めて迎える「山田と一緒の誕生日」なのである。
 高校3年の時には、3年生が自由登校になったので、春季キャンプに参加した。
 それ以降も、それぞれの球団の春季キャンプに参加していたため、里中の誕生日の時には、いつも電話で話すだけ──たとえキャンプ地が近くにあっても、会いに行くことはかなわなかった。
 たとえ2月17日が休みに指定されたのだとしても、この10年間、お互いの休日が一緒になるとは限らなかった。
 考えてみたら、出会ってから今まで、まともに山田に祝ってもらったのは、高校一年の時と二年のときの、たった二回だけだった。
 一緒に居るようになって、ずいぶんになると言うのに──しょうがないとは言え、不満がないと言えば嘘になる。
「17日って、やっぱり休みにはならないよなー?」
 受け取った紙の指定された日付に、やっぱりこの日も練習試合か、と、里中はシュンと肩を落とした。
 ようやく同じ球団になれたのだから、久しぶりに一緒に誕生日を──いや、別に一緒に野球をしてすごしてもいいのだけど……と、小さく続けて、はぁ、と里中はガックリと溜息を零す。
 そんな里中を見下ろして、山田は苦笑をかみ殺した。
「そうだな──里中の誕生日の辺りは、練習試合が入るからな……。」
「そうなんだよな……あと1日ずれてたら、休日にぶつかったのに。
 練習試合じゃなかったら、ずらしてもらえるのに……。」
 今回のコレは、本当に悔しいと、眉を寄せる里中に、うーん、と山田は眉を寄せた。
 自分としては、誕生日に野球ができることはこの上もなく幸せだとそう思うのだが──、みんながみんな、そういうわけじゃないことも分かっていた。
 だから、譲歩案として、山田は顎に手を当てると、こう提案してみた。
「でも、里中、その練習試合に、お前が出るとは限らないからな?
 出ないようだったら、お前だけでも休みにしてもらったらどうだ?」
 穏やかに微笑んで、山田としては親切心を出したつもりだった。
 なのに、里中はそんな彼の台詞に、不満そうに顔をゆがめて──小さく吐息を零す。
「里中?」
 不思議そうに覗き込んでくる山田を見上げて、あのな、と里中は諭すように顔をしかめる。
「おれが休んで、山田が練習試合に出るんだったら、意味がないだろう?」
 まったく──と、拗ねた響きを宿して語りかけられて……山田は目を丸くして彼を見下ろす。
 それから、照れたように笑って、
「そうか……うん、そうだな。」
「そうだよ。」
 なんで、誕生日にこだわったのか、本当に分かってるのか? と、問いかける里中に、分かってる、と山田は返した後、そうだな──と、改めて考える顔つきになり、
「夜ならどうだ? 里中? 夕食くらいなら、一緒に食べにいけるんじゃないか?」
 そう譲歩案を提示してみた。
 練習試合がそこまで長引くわけはない。
 だから、夜なら空いてるだろうといわれて、里中は少し考えるように首を傾げる。
「……そうだな……去年までのことを思ったら、あまり贅沢は言えないよな。」
 どうせ一緒に居ても、やることは野球だけなんだし。
 それに昔から、お互いの誕生日の時には、岩鬼だとか殿馬だとか三太郎だとかがもれなく着いてきたのだから、ほかにいろいろ居ても、そう変わらないだろう──。
 新球団には、ルーキーの投手ばかりだから、彼らに試合度胸をつけさせるという意味もある練習試合に、里中が登板するかどうか分からないから、せっかくの誕生日に、久しぶりに山田とキャッチボールをする──なんてこともできないかもしれないが。
 残念そうに首を落とす里中から、見ているほうが思わず甘やかしたくなるムードが放たれるのを感じつつ──いったい、去年までロッテでどれくらい可愛がられてきたのだろうと、山田は苦笑を覚える。
 ずいぶん、高校時代に比べたら、里中は丸くなったと思う。人付き合いがうまくなり、その反面、勝負事に対するしたたかさや冷静さもかね添えてきた。
 そんなふうに、里中がガックリしたように零す溜息を見ながら──分かってないのは、里中もだな、と、山田は小さく笑って、ぽん、と彼の背中を叩く。
「それに俺は、17日が休みよりも、翌日が休みでよかったと思ってるけどな?」
「……え?」
 キョトン、と里中は山田を見上げる。
 それから、ゆっくりと首を傾げて──、しばしの沈黙の後。

ボッ。

「……──え……あ、…………う、ぅん…………。」
 理解を示したように、顔中を真っ赤に染めて、山田を見上げることなくうつむいた。
 その脳裏に何が描かれていたのか──そして、描かれた内容が正しかったかどうかは、言った張本人である山田も、照れたように頬を赤く染めているから分かるというか。









「……っていうかお前ら、俺たちも同じ場所にいるってこと、いい加減気づけ。」
 もう突っ込む気力もないような態度で、土井垣は棒読みで2人に突っ込んでみた。
 山田と里中が上記のようなやり取りをしている間、隣から土井垣だの、殿馬だの、岩鬼だのが突っ込んでいたのだが、2人はまったく気づいていなかった。
「監督はん、18日の休みを一日ずらすっちゅうことは、できへんのかいな?」
 ヒーラヒラと、ハッパを揺らしながら、夜に2人っきりになるときを待って、ウキウキする山田と里中に付き合い続けるのは、面倒じゃと、岩鬼が腕を組みながら土井垣に視線をやる。
 その視線を受けて、土井垣は米神をもみながら、
「できるようなら、最初っから17日を休みにして、あいつらをどこかへ放り出してる。」
 いかにも苦労しました、と言わんばかりに、そう答えた。
 その台詞に、
「それができたら、それが一番だよな。」
「づらな。」
 いつものことだろ、と言うように、やる気がなさそうな声で土井垣に同意を示した後、微笑と殿馬が慣れた調子で肩を竦めあった。

















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……んー……何も言い訳することはないです(笑)。今更すぎて……。