高校2年生編
1 背が低いことにコンプレックスを感じている里中さんの場合
バスの中。
「……んー……眠い…………。」
「寝るなら、俺にもたれかかっていていいぞ、里中。」
「ん、悪いな──あふ。」
「変な寝方をして、肩を痛めたら大変だしな。
でも、里中なら充分横になれそうだけどな。」
「むっ、どういう意味だよ、それは。」
「横になってもいいぞ。」
「んー……いい。山田の肩、ちょうどいいから、ココでいい。」
「そうか?」
「うん。」
「智、寝るならシート倒せよ。」
「んー……三太郎、肩貸してくれよ。」
「あぁ、いいぜ。」
「………………………………──高い。」
「は?」
「お前の肩の位置、高すぎ……。全然使えない。」
「使えないってあのな……なら、横になって寝たらどうだ?」
「横にって……どうやって?」
「智なら、こう横にスッポリ入りそうじゃないか? ムリ?」
げしっ!
「サンキュー、三太郎。
おかげでスッカリ目が覚めたぜ。」
「に……逃げ場がないところで……みぞおちは……卑怯だろ────……ごふっ。」
本人無自覚に、山田相手と他相手では、態度が違います(笑)。 山田になら言われても許せても、他に言われると手が出ます。 でも、まだ 明訓ナインだから、マシなんですよ……きっと。 |
2 投手を労わる心を持ち続けるヒト
「里中、お前だけでも先に風呂に入って来い。肩が冷えるぞ。」
「うん、わかった。」
「里中、風呂上りにそんな格好してると風邪引くぞ。ほら、これでも羽織っておけ。」
「あ、悪いな。」
「里中、そろそろ寝よう。明日も早いだろ。」
「ん、そうだな。」
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「微笑さん、最近、おれ、山田さん観察日記をつけてたんですけど!」
「……そんなものつけてるなよ、渚……お前、吾郎二世って呼ぶぞ。」
「それはイヤです〜っ! ──って、そうじゃなくってですねっ!
見てください、このおれの山田メモをっ!」
「あーっ、こんなところにも吾郎二世が居るー! やいっ、渚っ! お兄ちゃんの何を盗もうって言うんだっ!」
「えっ、渚、お前、山田さんのパンツを盗むのかっ!?」
「ええっ!? お、おまえ……彼女を作らないと思っていたら、そ、そんな趣味が……っ! わ、悪いけど、おれ、そういう趣味は理解できな……っ。」
「なにーっ!? お兄ちゃんのパンツを盗むなんて、何言って……っ!」
「わーわーわーっ! 何、人聞きの悪いことを叫ぶんだっ、高代ーっ! そんな憶測するなよ!! なんで俺が山田さんのデカパンツなんて盗まないといけないんだよっ!!」
「そーだよな、山田さんくらいの大きなパンツになると、誰も借りる人が居ないよな……履けないだろう。」
「香車、だから観点がちがうっ! そうじゃなくって、おれは、夏休みの自由課題として、山田さん監察日記をつけてたんですってっ!」
「つけるな、んなもの。」
「そうだそうだーっ! 勝手にお兄ちゃんを自由課題にするなっ! そういうのは、妹の私がつけることだろっ!」
「いや、サッちゃんも付けちゃダメだから…………。
──で、なんで山田監察日記?」
「そういうのは、山田じゃなくって、岩鬼の方が面白いと思うんだがな?」
「石毛さん、それも観点が違いマス……。」
「吾郎メモとは違うのか?」
「というか、吾郎メモってなんすか? 横浜学院のキャッチャーの、谷津君ですよね?」
「あのね〜、『拝啓 土門さま』で始まる、吾郎ちゃんから土門ちゃんへの愛のメッセージなの〜。」
「サッちゃん……誰からそんなことを吹き込まれて…………。」
「え、でも、吾郎ちゃんがそう言ってたよ??」
「…………吾郎……。」
「で、それはそうと、渚、山田さんの観察日記って、どういうの?」
「あ、うん、山田さんの行動を一日観察したのが、一週間分あるんだけどさ。」
「一週間しかつけてないのかよ!」
「だって、甲子園が終わったあと、帰ってきてからの分しかつけてないからさ〜。
でも、その一週間で分かったことがあるんすよ!」
「自由課題に使えないってことか?」
「そんなの、始める前から分かれよ。」
「そうじゃなくって……っ! 山田さんは、恋女房として、投手の体調管理には、充分気をつけてるって言ってましたよねっ!?」
「あー、そうだな、『智』管理は基本的に山田の仕事だな。」
「ありゃ、趣味づらぜ。」
「ソコです、殿馬さん!」
「……………………ソコって、ドコ……?」
「ですからっ、山田さんは、投手の体調管理をしてるんじゃなくって、里中さんの、体調管理をしてるんですよ!
ちょっと、この課題を仕上げるために最後のインタビューをしてみたら、スゴイことが分かったんです!」
「インタビューまでしたのかよ!」
「っていうか、インタビューしたってことは、この山田監察日記は、山田さん公認? 公式ガイドブック扱い?」
「良く考えてみたら、微笑さんや山岡さんたちには俺、『薄着してると肩を冷やすぞ』とか色々言われたことがあるんすけど、山田さんには言われたことないんすよね。」
「あぁ、そりゃあれだろ。
山田は智専門だから。」
「あー、なるほどー。」
「納得するのかよ。」
「で、この監察日記を最初から見てみて、インタビューと照らし合わせた結果!」
「照らし合わせなくても、分かるだろ。
だから、山田は智には世話を焼くけど、他は放任主義なんだって。」
「え、でも、風呂上りにゴロゴロしてたら、『風邪引くぞ、高代』って注意されたことありますよ?」
「甘いな、高代! それが里中さんだった場合、山田さんはそう注意した上で、自分が持っていた上着をかけてやるんだよ! で、里中さんはそれを当たり前のように着込むんだって。」
「お兄ちゃんは、気が利くんだよね。」
「…………サッちゃんと、同レベルで見られてるんじゃないのか、里中?」
「実際、山田さんのインタビューから判断すると、里中さんについては非常に詳しいデータが集まったんすけどね。」
「え、なになに、非常に詳しいデータって?」
「1 里中さんは魚がキラい。
2 里中さんは一人っ子でお母さんと二人暮し。
3 里中さんは日射病にかかりやすいけど、寒がり。
4 里中さんは熱しやすく冷めやすい……でも、一度惚れたらとことんまで行く熱情派。」
「はい、しつもーん。」
「なんだよ、高代、まだ50項目の10分の1も済んでないんだぞ。」
「なんで里中について五十項目もあるんだよ!」
「4番目の、一度惚れたら……って、なんでそんなことを山田さんのインタビューで聞くんだよ……?」
「え、いや、山田さんから見た里中さんを、10分間延々とかたってください、ってお願いしただけなんだけど。
で、その内容を、こう、項目で分けてみたら、50項目出来たんだよ。」
「…………………………お前、すごいな、なぎさ。」
「え、何? 何がっすか?」
「放送部ですら聴けなかったことを、そういう方法で……さすがだ、渚。
多分この監察日記は、放送部が高く買ってくれるぞっ!」
「おぉーっ! その金で、ぱぁっ、とカラオケでも行くかーっ!」
「ってちょっと待ってくださいよ! それじゃぁ、おれの自由課題はっ!?」
「お前、こんなものを自由課題に出せると思ってるのかよ?」
「…………ただのイチャイチャぱらだいすづらな。」
「えーっ! どこがですかーっ!?」
「全部。1から10まで。」
「あ、でもほら、途中にある『山田さん、岩鬼さんを調教する』とかは、野獣っぽくて、違うんじゃないかと!」
「………………自由課題じゃないだろ…………コレ………………。」
────in横浜学院
「……で、谷津。お前、コレが現国の宿題だって言うのか?」
「はい! 毎日、誰かへの手紙形式で日記を書くって言うことでしたよね!!」
「そりゃ、確かにそうだが…………。」
「ちゃんと後で返してください、先生! それ、使いますから!!」
延々と、「前略 土門さま。 山田さんはスゴイです」……が、続く手紙形式の日記。
それを提出する吾郎も、どうかと思う。
注:高校には自由課題なんてないと思います。 吾郎君はオマケです(笑)、いや、だって彼、前半は練習で、後半は山田たちに着いて甲子園とか来ていたら、そりゃもう、「宿題してる暇ないでしょ!?」とか突っ込みたかったからさ! しかし吾郎ちゃんは、明訓高校の貧乏人(山田家、里中家、岩鬼家、今川家)に比べて、裕福なのかしら? それとも、土門さんの一言で、部費から出てるのだろーか………………ありえそう……。 ちなみに上記小話につきましては、誰が何をしゃべっているとか気にしないでお読みください(大笑)。 |
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