ステイ

STAY






 キュ、と雑巾を絞り終えて、彼は背後を振り返った。
 かすかに濡れた後を残す廊下は、ずいぶん古びているからこそ、こんなときでもない限り、ツヤツヤとした光りを宿すことはない。
 その、色ツヤを無くした廊下は、古いからこそ、水拭きした先から水分を吸ってしまっていて、すでに先ほど拭いたばかりの場所以外は、からからに乾いて粉を噴出しているような気がした。
 グラウンドに面しているこの廊下は、窓を開けると風が入り、心地よいことは心地よいが──同時にグラウンドの砂まで運んできてくれるおかげで、はだしで歩くと足の裏に砂粒がつくことも多い。
 おかげで、他の場所よりもドコよりも、この廊下は毎日しっかりと掃除をしないといけない。誰もが毎日通る場所だからこそ、余計に。
 その拭き掃除を終え、彼は腕を大きく上げて伸びをする。
 足腰には自信があるが、拭き掃除で使う筋肉は、少し違う。
 それでも、実家でも掃除は自分の役割りであったことを思うと、他のメンバーよりは慣れていると自負している──掃除も炊事も洗濯も。
 だから、後輩ができ、本当ならやらなくてもいいこのような雑事も、彼は望んで行うようにしていた。それが同時に、普段自分達が使っていない筋肉を使うのにちょうどいい運動になると分かっていたから。
「ふぅ──もう渇いてるか。」
 汗でぐっしょり濡れたシャツをそのままに、額から落ちてくる汗を手にした雑巾で拭こうとして──慌ててそれを止めた。
 代わりに、着ていたシャツの肩口で流れる汗を拭き取ると、代わりに額に当たりに、べったりとシャツの冷たい感触が返った。
 思わず顔をしかめて、タオルを持ってこなかった自分を後悔するのも、もう遅い。
 とりあえず先にバケツと雑巾を片付けてくるかと、ふぅ、と息を零した。
 そのまま水場まで歩いていこうとした瞬間、軽い足音が向こうから聞こえてきた。
 それとともに、軽い振動が廊下から伝わってくる。
 まだ誰か残っていたのか、と、目線を向けた先──曲がり角から、ヒョイ、と姿を見せたのは、自分と同室の少年だった。
 コチラに目を留めるや否や、彼はニッコリと花ほころぶように笑う。
 喜怒哀楽の激しい少年は、その表情がクルクルと顔に出て、見ているこちらが楽しくなる。──特に、ただ1人を除いて誰もが認める「美少年」であるから、なおさらだ。
「山田っ! 良かった、まだ居たんだな。」
 自分の名前を呼ぶときだけ、少し弾んだ調子になる彼の声に、小さく笑って答える。
「それはコッチの台詞だよ、里中。
 もう帰ったかと思ってた。」
 すでに渇いた後の廊下を、小さな足音を立てて近づいてきて、少年──里中は、笑いながら山田を見上げた。
「いや、部室の方に行ってたんだ。
 帰ってきたら山田の荷物がないから、もう先に帰ったかと思ってた。」
 そう言う彼の肩には、通学用のカバンが掛けられていた。
 学生カバンではなく、肩からかけられるくすんだクリーム色のそれは、スポーツ系のクラブに属している人間なら、殆ど持っているカバンだ。
 いつもは、財布とタオルしか入っていないような軽いバックであったが、今日は違った。
 学校が期末考査の期間に入るため、部活が一切禁止になるからだ──つまりそれは、この合宿所の一時閉鎖を意味している。
 そのため、すでに殆どの野球部員が、この合宿所から去っていた。
 残っていたのは、長い間の閉鎖の前にと掃除をしていた山田くらいのものだろう。
 里中は、見上げた山田の顔にたっぷり汗を掻いているのを認めて、小さく笑った。
 そのままバックのチャックを開くと、中には財布とタオル──そして辞書や教科書がずっしりと入っていた。
 里中はその中からタオルを取り出すと、そのままソレを山田の首に当てる。
「すごい汗だぞ、山田。」
 手を軽く動かして汗を拭き取ってやると、山田の穏やかな瞳が、さらに穏やかに弧を描いたのが分かった。
「あぁ、すまん、里中。」
 借りるぞ、と一言断ってから、山田は里中の手からタオルを受け取ろうとして──自分の手を見下ろした。
 先ほどまで雑巾を握っていた手は、汚れてはいなかったが、それでも清潔なタオルに触れるのにはためらいを覚える。
「山田?」
 不思議そうに首を傾げる里中に、いや、と一言断って、もういいよ、と後退して山田は首を振った。
「ありがとう、里中。もう大丈夫だ。」
「別にそんな遠慮するような仲じゃないだろ、ほら、使えよ。」
 ほら、とタオルを胸元に押し付けてくる里中に、山田はゆるくかぶりを振って、右手に持っていたバケツと、その縁に掛けられた雑巾を示してみせる。
「手が汚れてるから、洗ったあとに借りるよ。」
「手?」
 キョトン、と大きな瞳を瞬く里中は、そのまま視線を落とし、バケツと雑巾にますます不思議そうな顔をしてみせた。
「……廊下の掃除くらい、渚や高代にさせたらいいじゃないか。何もお前がしなくても──。」
 軽く眉を寄せる里中には、微笑を深くしてかぶりを振ってみせる。
「いいんだよ。好きでやってるんだから。」
 そのまま里中に背を向けて、バケツの水を捨ててくる、と廊下の先へ歩いていく。
 里中は、そんな山田の背を見送って──しょうがないな、とタオルを握り締めたまま、肩を竦めた。
「山田、お前のバックはどこに置いてあるんだ?」
 水場へと歩いていく山田のどっしりとした背中に声をかけると、肩越しに顔を向けて答えてくれる。
「食堂だ。」
「分かった。」
 それ以上は何も言わず、里中は食堂に向けて足を翻した。









 まかないのおばさんも帰宅した後の食堂は、ガランとしていて、殺風景に感じた。
 きちんと並んだ机に、ひっくり返った椅子が乗せられていて、床にはチリ一つ落ちていない。
 その一角に、見慣れたバックがチョコンと置かれていた。端に「山田」と書かれている。
 里中はその隣に自分のバックを置くと、手にしていたままのタオルをその上に置き、椅子を一つ降ろした。
 すぐに山田が来るだろうことは分かっていたが、誰もいない合宿所はなんだか静か過ぎるような気がして、テレビに手を伸ばした。
 カチリ、とスイッチを入れると、テレビの表面に映り出たのは、見知らぬ女と男のアップだった。
 どうやらドラマらしいと判断して、そのままチャンネルを変えることにした。
 共同区域で暮らしていると、ニュースやプロ野球やバラエティばかりを見るようになって、こういうドラマとは縁が無くなる。
 1回でも見逃すと、話の展開が分からなくなるのがドラマというもので──そんな話が分からないようなドラマを見るつもりもないので、チャンネルを変えようと再び手を伸ばした瞬間。

「……………………っ。」

 え、と、小さく声が零れた。
 画面に映った男と女が、何も言わず見つめあい──そして、二人の姿がフェードアウトしたかと思うと、次の瞬間、二つの影が重なった。
 思わず目を見開き、その画面を見たまま、体が硬直した。
 別段、なんてことはないシーンだと、頭では理解している。
 母と一緒に見ていたときは、特に気にせずに見流していたシーンであった。
 にも関わらず──どうして一人で目撃した瞬間、こんなに狼狽するのか、自分でも分からなかった。
 スイッチに伸ばした手を、なぜかそれ以上伸ばせなくて、里中は小さく唇を震わせた。
 昔は何も思わなかった。
 でも今、テレビの中で、そ、と唇を離す二人の男女の姿に、ドクン、と心臓が強く脈打った。
 しっとりと開かれる女の睫に、照れたように微笑む男の顔に、思い出す……重なる影があった。
「……………………ぅわ……っ。」
 脳裏にリアルに思い出せるソレに、里中は首を竦めた。
──そうだ、重なる姿があるからこそ、なんてことないドラマのワンシーンが、気恥ずかしく感じるのだ。
 その瞬間、
「里中、悪い、待たせたな。」
「ぅわっ!!」
 背後から聞こえてきた声に、思わず里中は飛び上がっていた。
 そしてそのまま、テレビを背にして──隠すようにして、背後を振り返る。
 バケツと雑巾を片付けてきたらしい山田が、食堂の入り口に立っていた。
「や、やまだ……。」
 あからさまに狼狽して見返すと、山田は不思議そうな顔をして近づいてくる。
「どうかしたのか、里中?」
 どれだけ日に焼けてもなかなか日焼けしない里中の頬が、見て分かるほどに朱に染まっているのを認めて、山田はますます不審そうに眉を寄せた。
「熱いのか? 顔が赤いぞ?」
「あ、いや──なんでもない。」
 手を伸ばしてくる山田が、先ほどよりもずっと近い位置にいるのを感じながら、フルフルとかぶりを振った。
「なんでもないって……。」
「いや、ちょっと──ビックリしただけだからさ。」
 ヒラヒラと手を振りながら、里中は背後を振り返り、テレビが既に場面転換していることにホッと胸を撫で下ろすと、テレビのスイッチを切った。
「悪い、驚かせたのか。」
 すまなそうに謝る山田に、なんてことないさ、と肩を叩いて答え──ん、と、今度は里中が眉を顰める。
「山田、お前、シャツがすごく濡れてないか?」
 改めて向き直ると、廊下の水拭きをした男のシャツは、ぐっしょりと汗を含んでいるのが、見て分かるほどだった。まるで、シャツのまま水浴びしたみたいだなと、あきれたように呟くと、
「あぁ……ずいぶん汗を掻いたしな。」
「着替えてから帰ったほうがいい。風邪を引くぜ。」
 暢気にシャツを摘んで呟く山田に、「オレが濡れたタオルを肩から掛けてると、肩を冷やすぞ、だとか言って来るくせに」──と、イヤミめいたことを返してやると、山田は照れたように笑った。
「着替えは中に入ってるのか?」
 山田のバックを手にしてそう問いかけると、あぁ、と答えが返ってくる。
 開けるぞ、と先に断りを入れて、パックリと開くと、きちんと畳まれたシャツやタオル、教科書類が顔を覗かせていて、山田らしいと、思わず笑みがこぼれた。
 一番上に畳まれていたシャツを手にして、ほら、と里中はそれを山田に差し出した。
「さっさと着替えて、帰ろう。」
 な? と、促すように笑って山田を見上げると、うん、と同じように笑って返してくれる笑顔があった。
 濡れたシャツを窮屈そうに脱ぐ山田を見上げながら、里中はゆっくりと周りを見回した。
 静かな食堂は、シン、と重い帳が下りていて、いつもとは全く違う顔を見せている。
 まかない口から覗くおばさんの顔も無ければ、かしましくそこへ口を突っ込む岩鬼の顔もない。
──考えてみれば、この合宿所の「うるさい」の半分以上は、あの男のせいのような気がする。
「この合宿所に今度来るのは、2週間後だな。」
 まぁ実際は、足りない荷物を取りに来たりすることが多いから、足を踏み込むことはあるのだろうが。
 しみじみとそう呟く里中に、山田が笑う。
「そしたら、また大掃除からだ。」
「今度はオレも手伝うよ。」
 放っておくと、また一人でしそうだと、笑って山田を見やると、彼はちょうど新しいシャツに首を通したところだった。
 すっぽりと抜け出た顔が、穏やかに笑っている。
「いいよ、里中はゆっくりしてろよ。」
「ゆっくりなんてできるか。」
 分かってない、と、里中は鼻の頭に皺を寄せて、軽く山田を睨み上げる。
「お前一人に任せておいたら、いつまでも部屋でゆっくりできないじゃないか。」
「オレが好きでしてることだからさ……。」
 いつもと変わりなく穏やかに微笑む顔を睨みつけた目をそのままに、里中は小さく息を吐いた。
「そうじゃなくて。」
 そこで一拍置いて、なんで分からないかな、と、里中は山田を見上げた。
「二週間ぶりなんだぞ? それなのに、お前はオレを放っておくつもりなのか、って聞いてるんだ。」
 これじゃ、期末さえ終われば──という、前向きな気持ちさえ萎えるじゃないか。
 そう零して、里中はようやく赤らみが失せたはずの頬が、再び火照るのを覚えた。
 ずいぶん恥ずかしい台詞を吐いたという自覚はあるのだ。
「里中……。」
 山田の呆然とした視線が頬に突き刺さるのを自覚しながら、里中はさらに口を割った。
「だから、帰ってきてからの掃除は、オレも手伝う。
 そうしないと、いつまで経っても、山田と二人っきりにはなれないじゃないか。」
 ツン、と顎をそらすように軽く視線を逸らした。
 その頬が、隠せないほど赤いのは、熱が集まっている感覚で分かる。
「さ、里中……。」
 動揺したような山田の声に、動揺しているのはコッチも同じだとそう心の中で突っ込んだ後、
「それとも何か? 山田はオレと二人になりたくないって、そう言うのか?」
 赤い顔を隠すこともなく、ジトリ、と山田を睨み上げた。
 タダでさえでも、テスト明けの合宿所は騒がしい。
 皆が合宿所に戻ってくると同時に、それぞれテストの結果について語り合ったり、家でのことを話したりするからだ。
 掃除をした後、山田がそんな彼らに捕まるのは、今からでも目に見えて分かる。
 掃除が遅くなり、さらにそんな彼らに捕まってしまったら──山田が部屋に引き上げてくるのは、ずいぶん夜遅くになるのは、分かりきっていることだ。
 翌日から始まる練習のことを思えば、夜更かしするのは無理だ。
 せっかく2週間ぶりなのに、そういうのは……嬉しくない。
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど──里中。」
 困ったような顔をして、山田は手を伸ばして、そ、と里中の肩を掴んだ。
 覗きこむと、里中は頬を赤く染めて、山田を見つめた。
 瞬きをした拍子に、長い睫が揺れて、パチン、と音を立てそうだった。
「なんだよ?」
 拗ねたように唇をゆがめる里中に、山田は困ったように笑って──うん、と頷く。
「ごめん、気が利かなかったな。」
 そのまま、コツン、と額を当てて、囁いた。
 突然の接触に、里中は驚いたように目を瞬いた。
 すぐ間近に見える山田の顔に、肩が強張り、頬がさらに赤らむのを覚える。
 そのつもりなんて無いのに、先ほど見たドラマのワンシーンが、アリアリと頭に浮かび──それが、自分たちのソレと重なって思い浮かぶ。
「そうだよな──教室では会えるけど、意味が違ったな。」
 身動きできず、ただジッと山田を見つめていたら、彼は穏やかに笑った。
 その笑顔は、いつも里中の心を落ち着かせる安定薬のようなもので。
──間近でそれを見た瞬間、ストン、と、何かが胸の中に落ちたような……そんな感じがした。
「山田……──。」
 小さく名を呼ぶと、うん、と笑顔が返って来る。
 その笑顔に、つられたように唇をほころばせて、笑い返した。
 そして──当たり前のように、いつものように……そ、と、睫を伏せる。
 鼻先に感じた相手の吐息が、少しずれて落ちてきて、唇にフ、と触れる。
 いつも、この瞬間は胸が一つ跳ねる。
 あ、と、声が零れそうになるのを、必死で堪える。
 そうすると、唇が真一文字に結ばれてしまって、それもなんだか滑稽な感じがするじゃないかと、そう思うのだ──いつも。
 いつになったら慣れるんだろうと思うと同時、キスになれた自分というのは、なんだか想像が出来ない。
「……ん。」
 唇の先と先とが触れて、ピクン、と体が震えた。
 痺れるような甘さが、背中を駆けていった気がする。
 それから、おずおずと……しっかりと合わさる唇に、どこか安堵にも似た思いを抱くのだ。
──ちゃんと、キス、できた。
 そんな、当たり前のような──いいかげん慣れないといけないようなことを、今日も思う。
 息を止めて、触れ合う熱に、ただ、意識が集中して。
 山田のシャツの裾を、知らず掴んだ指先が、かすかに震えているのばかりを、気にしていた。
「──さとなか。」
 そ、と離れた唇に名を呼ばれて、そぅ、と目を開く。
 吐息が触れ合う近くにある顔を、ぼんやりと潤んだ目で見上げた。
「やまだ?」
 触れ合うだけのキス。
 それだけじゃ不満だと、そう言うような自分の呼びかけに、羞恥を覚えないでもなかったけど。なんだか、足りないような気がしたのも、本当で。
 じれったいような、満足したような──甘い疼きが、胸でわだかまっていた。
 肩に載っていた山田の指先が、つぅ、と里中の頬を撫で上げる。
 くすぐったげに首を竦めた彼の髪の上に、軽い口付けが落とされ、上目遣いに見上げると、山田は柔らかに微笑んでいた。
「さ、帰ろう、里中。」
「……………………。」
 ポン、と肩を叩かれ、上目遣いに山田を見上げると、彼は自分の分のスポーツバックを手に、里中のスポーツバックを肩に掛けているところだった。
 甘い余韻に浸る暇もないのか、と、不満そうに溜息を零す里中に、山田は困ったように笑った。
「帰らないと、困るだろ。」
「──誰が? 山田?」
 山田が持っている自分の分のバックを受け取ろうと、ヒラリ、と手を伸ばすと、
「里中が。」
 少し切なそうな瞳で呟いた山田の手に、ギュ、と握りこまれた。
 何、と、目を見開く間もなく、グイッ、と引き寄せられ、そのまま真新しいシャツを着た体に、抱きとめられる。
「……──やま……っ?」
 慌てて少し体を離して見上げようとする矢先、強く抱きしめられて、有無を言わせず胸元に顔を伏せるハメになる。
 そうすると、汗をたっぷり掻いた山田の体からは、あの熱射の強いグラウンドで抱きついたときのような匂いがした。
 なんだか、懐かしい感じのするソレに、抵抗する気も起きなかった。
 何よりも、山田に抱きしめられて、嬉しいことすらあれ、イヤな気が起きることなど、絶対にない。
 バックを持った手で腰を、肩に担いだほうの手で頭を抑えられるようにして、しっかりと抱きしめられて──、耳元に、唇が寄せられる。
「まだ、里中を困らせるようなことは……したくないからな。」
「………………っ。」
 最後の、ひっそりとした一言と同時に、わざとか偶然か、耳に濡れた何かが触れた。
 それが何なのか理解した瞬間、里中はボッ、と音が出るほどに顔を真っ赤に染めた。
 同時に、山田が言いたいことの意味までもを理解してしまって、里中はそのまま、慌てて山田の肩口に額を押し当てた。
 首を竦めるようにして、山田の体に己の頬を押し当てる。
「里中……。」
 困惑したような山田の声に、フルフルとかぶりを振った
──だって、そんなこと言われて、なんで山田の顔を直視できるんだっ!?
「もう少し……もう少し待ってくれ。そしたら、なんとか……動けるから。」
 せめて、この顔の火照りが治まるまでは。
 そう懇願して、強くしがみ付いてくる里中に、山田は苦く笑い──天井を見上げた。
 そんなことで何とかならないから、だから……忠告したのに。
 まったく……本人に言うと怒るから、いえないけど。
──────かわいいんだから、本当に。



+++ BACK +++



バカップル万歳。
純真な高校生カップル風。